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嫌われ者のネクロマンサー  作者: 海の紅月くらげさん


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3/13

3話

◇◇◇◇



 王妃アメリアは、ネクロマンサーの最初の被害者だった。


 それが、国の出した結論だった。



 月が曇る夜、城の地下牢は封鎖される。


 鉄格子の向こうで、アメリアは鎖に繋がれていた。


「……血」


 喉が擦れる音で、そう呟く。


 王妃だった女の声ではない。

 いつもの慈悲深いと讃えられる声でもない。


「血が、欲しい」


 鎖が引きずる。

 爪が石を食い込む。


 看守は、扉の外で祈ることしかできなかった。


 叫び声。

 泣き声。

 獣のような唸り。


 夜が明けるまで、それは続く。



◇◇◇◇



 医師も、聖職者も、魔術師も。はたまた名のある魔女も。


 誰も、治せなかった。


「死者を無理に戻した代償だ」

「魂が、正しく縫い合わされていない」

「これは……生ではない」


 禁忌の魔法は、誰一人として、理解すらできなかった。


 どの専門家も、ただ見ただけのことを半端に語り、そして治すすべはないと断言した。


 王は、命じた。


「月の曇る夜は、必ず王妃を牢に入れろ」と、そして「誰も、近づくな」と。



 やがて、噂には尾ひれが着く。


「王妃は、魔女に化け物にされた」

「白の魔女こそ、善行の皮を被った化け物だ」

「ネクロマンサーの呪いだ」


 そして、噂は混じり合い。一つに収束した。



『ネクロマンサーを、許すな』



 その言葉は、お話になり、説教になり、都合の良い正義になった。


 こうして、白の魔女は「多くの命を救った存在」から「化け物を生むネクロマンサー」へと変わる。



 真実は、誰にも語られない。


 語られた真実は、ただ一つ。


 白の魔女が、王妃を化け物にした。


 それだけだった。



◇◇◇◇



 村の外れにある小屋は、風が吹くたびに軋んだ音を立てた。

 魔女はその音に、ビクンと肩を揺らす。


 夜が来るたび、月を確かめる。


「……大丈夫よ。私を魔女と知る者はここにはいない」


 誰に言うでもなく、魔女はそう呟いた。


 戸を叩く音がした。


「起きてる?」


 青年の声だった。

 名はジーク。この小屋を貸してくれている人物。


「入って」


 ジークはカバンを抱えて入ってきた。中には、固くなったパンと、少しの干し肉。


「またもらいすぎた。僕一人じゃ食べきれなくて」


 嘘だ、と魔女は思う。

 彼はいつもそう言って、余分な食料を持ってくる。


「ありがとう」


 そう言いながら、魔女は彼の目を見ない。

 見ると、言わなければならなくなる気がした。


 ジークは、しばらく黙っていたが、やがて口を開いた。


「……ッ、魔女の噂って、知ってる?」


 詰まった彼の言葉に、パンを持つ魔女の指が、止まる。


「王都の方で、また行方不明の人が出たんだって」


 空気が、冷えた。魔女の心臓が早鐘を鳴らす。


「それで?」


「ネクロマンサーの仕業だってさ」


 ジークは、魔女を見た。逃げ道を塞ぐような視線ではない。ただ、楽しげな会話を望んでいる雰囲気。


「……怖いわね」


「ところでさ、セレナさんは王都で何してたの?」


 魔女は答えなかった。


 魔女の名はセレナと言う。白の魔女と広まる頃から、誰もセレナの名前を言う者はいなかった。



 沈黙が長く続き、沈黙を破ったのはジークの方だった。


「いやそんな詮索するつもりじゃなくてね。セレナさんと仲良くしたいっていうか、なんていうか」


 彼は視線を逸らし、笑った。気を遣った笑顔だった。


「……そうね。私もジークさんとは仲良くしたいわ」


「え! ほんと!」


「えぇ」


 ジークの顔が一気に晴れる。


「僕、明日も来るよ!」


「待ってるわ」


「そういえば、今日森でね……」



 ジークが帰ったあと、小屋は再び静かになる。


 セレナは、灯りを落とし、床で膝を抱えた。


 今日は月が曇る。












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