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嫌われ者のネクロマンサー  作者: 海の紅月くらげさん


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12話



 詰所の前に、いつの間にか人だかりができていた。

 領民たちは遠巻きに立ち、息を潜め、白い外套の女を見つめている。


 セレナがフェンの左腕に触れた、その瞬間だった。


 白い外套がふわりと持ち上がり、夜風が逆巻く。そして空気が、張り詰める。


「んッ! 何をする!」


「黙って、見ていて」


 その声は静かだったが、有無を言わせぬ迫力があった。


 セレナの足元には、淡い緑色の魔法陣が滲むように浮かび上がった。ライトアップされたセレナは清潔で、異様なほど美しい。

 そして瞼を伏せ、凛とした声ではっきりと詠唱を始める。


「在るべき形よ、思い出しなさい。失われたのではなく、そこに在るのです」


 魔法陣が脈打ち、白い光が溢れ出す。


「定められた終わりを切り、懐かしい記憶にすがる」


「……綺麗だ」


 フェンの口から、思わず言葉が零れた。


 光は白から緑へとやわらかく移ろい、左腕へ集束していく。


「血は巡り、生は戻さず、死は拒まず。ただ、正しく繋ぐ」


 包帯の隙間から、脈打つような輝きが溢れ出す。

 空だったはずの場所に、透明な腕の輪郭が形を成していった。


「白の魔女の名において命ず。断たれし腕よ、本来の姿を取り戻し、再び主につかえよ」


 その瞬間、ぱっと光が弾け、透明だった腕に一気に色が宿る。


 フェンが思わず拳を握る。五本の指が、確かに、応えた。


「……戻ってる」


 フェンは呆然と、自分の左腕を見つめていた。


 その光景に、領民たちがどよめく。


「腕が……生えた?」

「そんな奇跡だろ」


 そこにあったのは、恐れだけではない。

 戸惑いと、そして抑えきれない畏敬。


「次は、呪いです。動かないでください」


 左腕から胸元へと絡みつく、毒々しい紫色の根。


 セレナは淡々と告げる。


「呪いよ。あなたが、ここに居座る理由はありません」


 一拍。


「消えなさい」


「っ……あ」


 フェンの喉から、声にならない息が漏れた。


 紫色の根が、引き抜かれるように蠢く。

 白い光に焼かれ、根は悲鳴すら上げることなく霧散していく。


 腐臭のような気配が消え、代わりに、草木が芽吹くような匂いが広がった。


 セレナは、ゆっくりと手を離し、光を収める。


 人々の視線が、否応なく彼女に集まる。


 恐れていたはずの白の魔女は、今や奇跡の中心に立っていた。



◇◇◇◇



 ノクスグラート周辺での魔物討伐数が、異様なほど跳ね上がっていた。


 兵士の数が増えただけではない。


 本来なら戦線を離れるはずの者たちが、何事もなかったかのように戻っている。


 理由は、分かっている。答えは、一つしかない。


 白の魔女が、介入した。


「セレナちゃん、動いちゃったね」


 星篝の魔女は、そう呟いてから、静かに息を吐いた。

 残念そうでも、怒っているわけでもない。ただ、予想通りだったという顔だ。


「もう、隠しきれなくなったんだ。早すぎて、ちょっと想定外」


 脳裏に浮かぶのは、ノクスグラートの街。


 集まる領民たち。白い外套に向けられる視線。


 そこに混じるのは、恐れだけではない。

 畏敬と、期待。そして、理解できないものを見る目。


「ノクスグラートのみんなは」


 星篝の魔女は、わざと間を置いてから、続けた。


「セレナちゃんが、禁忌の魔女だって、知っちゃった」


 唇が、楽しげに歪む。


 それは悪意でもない。

 ただ、人の行く末を知っている者の、軽やかな笑みだった。


「さて……今回はいつ追い出されるのかな」


 白の魔女が、この街に居られる時間は、もう数えられるほどしか残っていないのかもしれない。













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