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宮廷薬師は負けヒロインにつき、陰謀を解きつつ恋を手直しします  作者: 和三盆


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第47話 守るために捨てるもの

夜は、静かすぎた。


昼間に押し寄せた管理局の気配が、嘘のように消えている。

だがその静けさは、安心ではなく、猶予だった。


灯火は、社殿の中で一人、灯明を整えていた。


揺れる火を見つめながら、考える。


――ここを守る。

――迅を帰す。


それだけのはずだったのに。


「……簡単じゃ、なくなったわね」


背後で、床がきしむ。


迅が、入ってきた。


「眠れない?」


灯火は、振り返らずに答える。


「あなたこそ」


迅は、灯火の隣に腰を下ろした。


二人の間に、灯明の火。


しばらく、言葉がなかった。


やがて、迅が口を開く。


「……俺」


「青藍院に、いない方がいいと思うか」


灯火の手が、止まる。


「どうして、そう思うの」


迅は、正直に言った。


「俺がいる限り」


「ここは、狙われ続ける」


灯火は、ゆっくりと振り返る。


「それでも?」


迅は、目を逸らさない。


「それでも」


灯火は、少しだけ笑った。


「……私ね」


「守るって決めたとき」


「全部、引き受ける覚悟だったの」


迅の眉が、僅かに動く。


「全部?」


灯火は、頷く。


「恐怖も」


「孤独も」


「間違う可能性も」


一拍、置いて。


「でも」


迅を見る。


「一人で背負うって意味じゃない」


迅は、息を呑んだ。


灯火は、静かに続ける。


「迅」


「あなたがここを離れたら」


「私は守れる」


「でも」


「ここは、“帰る場所”じゃなくなる」


迅は、拳を握った。


「……それは」


「俺が、捨てろって言ってるのと同じだ」


灯火は、首を横に振る。


「違う」


「選ばせてるの」


「一緒に」


社殿の外で、風が鳴る。


迅は、しばらく黙っていた。


やがて、ゆっくり言った。


「俺が捨てるのは」


「逃げ道だ」


灯火は、目を見開く。


迅は、立ち上がる。


「管理局とも」


「観測者とも」


「曖昧な場所に立つのは、やめる」


灯火も、立ち上がった。


「迅……」


迅は、はっきり言う。


「ここを、守る」


「ただの聖域じゃなく」


「俺たちの意思で」


灯火の胸が、熱くなる。


「それは」


「完全に、敵を作るわよ」


迅は、微笑った。


「もう、作ってる」


沈黙。


そして、灯火が言った。


「……なら」


社殿の奥から、古い箱を取り出す。


「これ」


迅は、眉をひそめる。


「それは……」


「青藍院の」


灯火は、頷いた。


「代々、使われてきた結界核」


「本来は、開いちゃいけない」


迅は、息を吸う。


「開けば」


「ここは、“隠れ場所”じゃなくなる」


灯火は、はっきり言った。


「それでも」


「守るって、そういうこと」


二人は、視線を交わす。


そして、同時に頷いた。


灯火が、箱を開ける。


瞬間。


青藍院全体が、深く息をした。


空気が、変わる。


見えない線が、境内を包む。


迅は、確信した。


――もう、後戻りはできない。


夜の奥で。


誰かが、静かに記録を更新する。


固定点:青藍院

状態:開放

危険度:臨界


迅は、灯火を見る。


「後悔は?」


灯火は、微笑んだ。


「一緒なら」


「しない」


迅は、夜空を見上げる。


星は、変わらず瞬いている。


だが。


世界の見方は、確実に変わった。


守るために、捨てたもの。


――逃げる未来。


代わりに得たもの。


――並んで立つ現在。

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