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宮廷薬師は負けヒロインにつき、陰謀を解きつつ恋を手直しします  作者: 和三盆


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第46話 管理という名の侵攻

朝は、普通に始まった。


空は晴れ、

境内には落ち葉が一枚も残っていない。


それでも。


迅は、門の前に立った瞬間、悟った。


「……来るな」


灯火も、同時に気づいていた。


遠くから、複数の車のエンジン音。

規則正しく、迷いがない。


「観測者じゃない」


灯火が言う。


「人間の足音」


迅は、苦く笑った。


「一番、厄介なやつだ」


黒塗りの車が、境内前で止まる。


降りてきたのは、スーツ姿の男女。

数は、七。


その中心に、見覚えのある顔。


「……夜刀?」


夜刀は、表情を硬くしたまま歩み出る。


「迅」


「灯火」


一拍、置いて。


「正式通達よ」


彼女の後ろから、年配の男が前に出る。


柔らかい声。

だが、目は冷たい。


「青藍院は、本日付で」


「都市機構・境界管理局の管理下に入ります」


灯火の指先が、僅かに震えた。


「……拒否権は?」


男は、微笑んだ。


「ありません」


迅が、一歩前に出る。


「ここは、宗教施設だ」


「私有地でもある」


男は、淡々と答える。


「“境界的価値”が確認されました」


「個人の意思より、公共の安全を優先します」


迅は、低く言った。


「それを」


「侵攻って言うんだ」


男は、気に留めない。


「迅氏」


「あなたも、管理対象です」


灯火が、はっきり言う。


「迅は、物じゃない」


男は、灯火を見る。


「承知しています」


「ですが」


「“危険を孕む人材”です」


その言葉に。


空気が、張り詰めた。


迅は、ゆっくりと息を吸う。


「夜刀」


「お前は、どっち側だ」


夜刀は、目を伏せた。


「……橋の上」


迅は、頷いた。


「そうか」


次の瞬間。


迅は、足元の地を軽く踏み鳴らした。


結界ではない。

威圧でもない。


ただ。


意思を、示した。


空気が、重くなる。


職員の数人が、思わず一歩引いた。


男の眉が、初めて動く。


「……迅氏」


「抵抗は、推奨しません」


迅は、静かに言った。


「抵抗じゃない」


「拒否だ」


灯火が、迅の横に立つ。


「ここは、青藍院」


「守る人間が、いる」


男は、ため息をついた。


「残念です」


「強制措置に――」


「待って」


夜刀が、声を上げた。


全員の視線が、彼女に集まる。


夜刀は、一歩前に出る。


「管理局は」


「“固定点の安定維持”が目的のはず」


男が、頷く。


「その通り」


夜刀は、迅と灯火を見る。


「なら」


「ここから“人”を排除するのは」


「最適解じゃない」


沈黙。


男は、少し考えたあと、言った。


「……暫定措置として」


「立ち入り制限区域とします」


迅は、目を細める。


「監視付き、ってことか」


男は、否定しない。


「迅氏」


「あなたの行動次第です」


車が、再び動き出す。


完全な撤退ではない。

だが、占拠でもない。


中途半端な、境界線。


夜刀は、最後に振り返った。


「……ごめん」


迅は、首を振る。


「謝るな」


「お前が、間に立ってくれた」


夜刀は、少しだけ笑った。


車が去る。


境内に、静けさが戻る。


灯火は、深く息を吐いた。


「……これで、終わりじゃないわね」


迅は、空を見上げる。


「始まったんだ」


「観測者だけじゃない」


「世界そのものが」


灯火が、迅を見る。


「後悔してる?」


迅は、即答した。


「してない」


「守るって」


「こういうことだろ」


境内の柱。


刻まれた印が、朝日に照らされている。


それは、消えない。


だが。


迅は、その前に立った。


「……上等だ」


青藍院は、もう隠れ場所じゃない。


選ばれた戦場だ。

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