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宮廷薬師は負けヒロインにつき、陰謀を解きつつ恋を手直しします  作者: 和三盆


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第45話 対峙するということ

夜は、まだ終わっていなかった。


境内の空気は落ち着きを取り戻している。

だが、それは“安全”とは違う。


迅は、社殿の柱に刻まれた印から目を離さなかった。


「……消えないな」


灯火が、隣に立つ。


「消させなかった」


「消したら、“見てない”ってことになる」


迅は、短く息を吐いた。


「……なるほど」


背後で、足音。


夜刀が、境内に入ってくる。


「状況は?」


迅は、柱を指す。


「観測者」


「名乗らないタイプ」


夜刀は、印を見て、表情を強張らせた。


「……これは」


「組織でも、初期記録しかない」


灯火が言う。


「迅の名前を、正確に知ってた」


「記憶にも、触れてきた」


迅の指が、無意識に動く。


「……俺を“知ってる”んじゃない」


「“読んでる”」


夜刀が、静かに頷く。


「観測対象を、物語として扱う存在」


「最悪ね」


その瞬間。


空気が、反転した。


夜が、もう一枚、剥がれる。


迅は、即座に前に出た。


「下がれ!」


灯火は、下がらない。


「一緒に、迎えるって言ったでしょ」


二人の前。


空間が歪み、**あの“人型”**が現れる。


顔のない観測者。


だが今回は、前よりも輪郭がはっきりしていた。


「再接触」


「迅」


迅は、はっきり言った。


「名前を呼ぶな」


観測者は、首を傾げる。


「識別名」


「効率的」


迅は、歩み寄る。


「効率で、人を測るな」


夜刀が、小声で言う。


「迅、距離――」


迅は止まらない。


「お前らは」


「何を決める権利がある?」


観測者は、即答した。


「決定はしない」


「観測し、最適解を導く」


迅は、笑った。


「それを」


「“決めてる”って言うんだ」


観測者の動きが、僅かに止まる。


「……定義不一致」


灯火が、迅の横に立つ。


「ここは、青藍院」


「迅の帰る場所」


「あなたたちの“固定点”じゃない」


観測者は、灯火を見る。


「抵抗個体」


「だが、記録済み」


迅は、低く言った。


「記録して、どうする」


「消すのか」


観測者は、否定も肯定もしない。


「可能性を、削減する」


その言葉に。


迅の中で、何かが切れた。


「……ふざけるな」


迅の感覚が、鋭く開く。


焔ではない。

境界でもない。


意思そのものが、空間を押し返す。


観測者が、初めて後退した。


「……観測不能」


夜刀が、目を見開く。


「迅……?」


迅は、一歩、さらに踏み出す。


「俺は」


「お前の物語じゃない」


「削減される側でもない」


観測者の輪郭が、揺らぐ。


「……異常値」


「迅」


「あなたは――」


迅は、最後まで聞かなかった。


「帰れ」


一言。


それだけで、空気が爆ぜる。


観測者の姿が、夜に溶けるように消えた。


音が、戻る。


虫が鳴く。


風が、吹く。


しばらく、誰も動かなかった。


夜刀が、息を吐く。


「……追い払った?」


迅は、首を振る。


「いいや」


「“対等”になっただけだ」


灯火が、迅を見る。


「……怖くなかった?」


迅は、少し考えてから答える。


「怖かった」


「でも」


灯火を見る。


「一人じゃなかった」


灯火は、微笑んだ。


そのとき。


夜刀の端末が、短く鳴る。


「……来たわ」


画面を見せる。


【青藍院周辺

観測危険度:再定義

組織対応レベル:引き上げ】


夜刀が、迅を見る。


「これで」


「青藍院は、完全に表舞台よ」


迅は、境内を見回す。


灯火。

社殿。

刻まれた印。


「……なら」


拳を握る。


「守るって、言葉じゃ足りないな」


灯火が、頷く。


「ええ」


「戦いになる」


迅は、夜空を見上げる。


世界は、相変わらず平然としている。


だが。


物語は、観測される側から、奪い返され始めた。

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