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宮廷薬師は負けヒロインにつき、陰謀を解きつつ恋を手直しします  作者: 和三盆


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第34話 力のない場所で

青藍院の境内に、三つの意志が並び立っていた。


灯火。

迅。

そして、フードの女。


空気が張りつめる中、最初に動いたのは人間側だった。


「対象を確保しろ」


短い命令。


複数の装甲服が、灯火を包囲するように散開する。


夜刀は、まだ起き上がれない。

結界は破られ、境は不安定。


――戦えば、負ける。


それを、灯火も分かっていた。


だが。


迅は、一歩前に出た。


「……待て」


誰も、迅を脅威として見ていない。

それが、今の彼の立場だった。


隊長格の男が、冷ややかに見る。


「退け」


「君は対象外だ」


迅は、頷いた。


「知ってる」


「だから、話ができる」


男は、鼻で笑う。


「今さら交渉か?」


迅は、首を振る。


「確認だ」


「お前たちは、灯火を“管理対象”として回収する」


「でも――」


視線を、女に向ける。


「あいつは、どうする」


隊長の眉が、僅かに動く。


「……?」


迅は、続ける。


「元・管理対象」


「境を乱す存在」


「しかも、今まさに介入している」


「優先度、どっちだ?」


沈黙。


装甲服の部隊が、互いに視線を交わす。


女は、くすりと笑った。


「面白いこと言うわね」


迅は、女を見ない。


「お前は」


「自分が“選ばれなかった側”だと言った」


「でも今は、選ばれる場所に立ってる」


女の笑みが、薄れる。


「……何が言いたいの」


迅は、はっきり言った。


「お前は、ここで“何もしない”と」


「世界に選ばれない」


「だから、わざと目立ってる」


女の瞳が、鋭くなる。


「迅」


低い声。


「それ以上言うと――」


迅は、遮った。


「怖いんだろ」


「もう一度、無視されるのが」


一瞬。


女の呼吸が、止まった。


灯火は、迅を見る。


(……今の)


迅は、戦っていない。

だが、確実に踏み込んでいた。


隊長が、女を見た。


「……彼女も対象だ」


女は、肩をすくめる。


「ほら」


「あなたのせいよ」


迅は、初めて女を見る。


「違う」


「選んだのは、お前だ」


女の表情が、歪む。


「……選ばなかったくせに」


迅は、静かに言った。


「選ばなかったからこそ」


「今、ここに立てる」


境が、微かに整い始める。


灯火は、気づいた。


迅が“場”を作っている。


力ではない。

立場でもない。


言葉と選択で、世界の優先順位をずらしている。


「……迅」


灯火が、息を吸う。


境が、応える。


今度は、迷いなく。


女は、一歩下がった。


「……なるほど」


「あなた、厄介ね」


迅は、苦く笑う。


「褒め言葉として受け取る」


隊長が、命令を出す。


「元管理対象を確保」


装甲服が、女に向き直る。


女は、振り返り、灯火を見る。


「覚えておきなさい」


「あなたは、迅を選ばなかった」


灯火は、はっきり答えた。


「違う」


「迅を、“縛らなかった”」


女は、一瞬だけ目を見開き――笑った。


「……いいわ」


「今回は、引く」


その身体が、境の歪みに溶けるように消える。


部隊が、一瞬遅れて反応する。


「逃がした……!」


だが。


隊長は、迅を見た。


「……君」


迅は、視線を返す。


「何だ」


「なぜ、ここまでした」


迅は、少し考えてから答えた。


「力がないから」


「使える手は、これしかない」


沈黙。


隊長は、短く言った。


「……撤退する」


部隊は、引いていく。


青藍院に、静けさが戻った。


灯火は、迅の隣に立つ。


「……ありがとう」


迅は、肩をすくめた。


「守ってない」


灯火は、微笑む。


「分かってる」


「でも、立ってくれた」


迅は、空を見上げた。


「……それで、十分だ」


この日。


迅は、戦わずに戦場を動かした。

灯火は、選択の意味を少しだけ理解した。


そして世界は、ようやく気づき始める。


――力を失った者こそ、厄介だと。

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