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宮廷薬師は負けヒロインにつき、陰謀を解きつつ恋を手直しします  作者: 和三盆


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第29話 それを奪ったのは誰か

迅は、目を覚ました。


白い天井。

知らない匂い。


「……ここは……」


声が、出ない。


喉が焼けたみたいに痛い。


「無理しないで」


聞き慣れた声。


灯火だった。


椅子に座っている。

だが、目が赤い。


「……何が」


迅は、身体を起こそうとして――動かなかった。


感覚が、ない。


「……?」


灯火が、視線を逸らした。


「迅」


「落ち着いて聞いて」


胸が、嫌な音を立てる。


「焔が……」


一瞬、言葉が詰まる。


「もう、前みたいには使えない」


迅は、理解できなかった。


「……どういう」


灯火は、拳を握った。


「焔を無理に重ねすぎた」


「境と、あなた自身が……擦り切れた」


迅は、しばらく天井を見つめていた。


「……つまり」


「俺は……」


言葉が、続かない。


夜刀が、部屋の入口に立っていた。


「簡単に言うと」


「迅はもう、“切り札”じゃない」


迅の胸が、静かに沈む。


「……そうか」


灯火が、顔を上げた。


「違う!」


声が、震える。


「迅が悪いんじゃない!」


迅は、ゆっくりと灯火を見る。


「……でも」


「守れなくなる」


灯火の表情が、歪んだ。


次の瞬間。


「――それでも、いい!」


叫びだった。


「守れなくても!」


「戦えなくても!」


迅は、目を見開く。


灯火は、涙を流しながら続ける。


「それでも……!」


「生きててほしい!」


部屋が、静まり返る。


夜刀は、何も言わずに背を向けた。


迅の中で、何かが崩れ落ちる音がした。


「……俺は」


「役に立たなくなった?」


灯火が、即答する。


「違う!」


だが。


一瞬の沈黙。


迅は、その一瞬を見逃さなかった。


「……灯火」


「本当は、少し思っただろ」


「俺が立てなくなったら、どうするか」


灯火の唇が、震える。


答えない。


その沈黙が、答えだった。


迅は、目を閉じた。


「……ごめんな」


「俺、強くなりたかった」


灯火が、立ち上がる。


「違う!」


「迅が強くなったから!」


「だから……」


声が、掠れる。


「だから、奪われたんじゃない!」


迅は、ゆっくりと笑った。


「……優しいな」


その言葉が、灯火を刺した。


「優しくなんかない!」


「私……」


拳を握りしめる。


「怖かった!」


「迅が、私を置いて行くのが!」


迅は、目を開けた。


「……え?」


灯火は、泣きながら言った。


「力がなくなった迅なら」


「一緒にいられるって……」


言ってから、はっとする。


沈黙。


取り返しがつかない沈黙。


迅は、何も言わなかった。


ただ、天井を見つめる。


灯火は、気づいた。


今の言葉は、

守るための嘘じゃない。


自分のエゴだった。


「……ごめん」


声が、かすれる。


迅は、静かに言った。


「……灯火」


「それでも、いい」


灯火が、顔を上げる。


「俺は……」


少しだけ、間を置いて。


「それでも、生きる」


だが、その声には――

焔の熱は、なかった。


外で、雨が降り始めていた。


この夜。


迅は“戦える主人公”であることを失った。

灯火は“綺麗なヒロイン”であることを失った。


二人とも、

もう後戻りできない。

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