第27話 選択権は誰のものか
「――青藍院 灯火を、こちらに引き渡してほしい」
その言葉は、あまりにも静かだった。
山中の簡易施設。
夜刀が張った結界の内側で、迅たちは向かい合っていた。
相手は二人。
スーツ姿の男女。
どちらも、武器を持っていない。
「拒否すれば?」
迅が、低く聞く。
女の方が、淡々と答えた。
「保護対象から、危険因子へ指定が変わります」
灯火の指先が、震えた。
「……管理、って」
「檻よ」
夜刀が、即答する。
男は、否定しなかった。
「安全な環境です」
「力の使用制限、定期観測、記録」
「世界のために必要な措置だ」
迅の焔が、反応しかける。
灯火が、前に出た。
「……私に、選択肢はありますか」
男は、灯火を見下ろした。
「あります」
「従うか、排除されるか」
空気が、凍った。
「……排除?」
女が、事務的に補足する。
「暴走前に消す」
「世界の安定のためです」
その瞬間。
灯火の中で、何かが完全に切れた。
「……それ」
声は、震えていない。
「誰が決めたんですか」
男は、即答する。
「我々が」
「管理者が」
灯火は、ゆっくりと顔を上げた。
目が、はっきりと怒っている。
「私が、何かを壊しましたか」
「誰かを、傷つけましたか」
沈黙。
「使わない選択をした時」
「誰か、死にましたか」
誰も答えない。
灯火は、一歩踏み出した。
境が、ざわつく。
「……あなたたち」
「“世界のため”って言えば」
「人の人生、奪っていいと思ってる」
迅が、思わず叫ぶ。
「灯火!」
だが、止まらなかった。
「私は、武器じゃない」
「管理対象でもない」
「――人です」
男が、冷たく言った。
「人かどうかは、問題ではない」
「危険かどうかだ」
その瞬間。
迅の焔が、完全に灯った。
抑制ではない。
境でもない。
怒りの焔。
「……訂正しろ」
一歩。
「灯火は、危険じゃない」
もう一歩。
「危険なのは――」
「人を数字で切る、お前らだ」
女が、端末を操作する。
「……対象、敵対確認」
「排除許可」
灯火の視界が、赤く滲んだ。
「迅……!」
だが、迅は立った。
完全に。
「今回は」
振り向かずに言う。
「灯火に選ばせない」
焔が、空間を覆う。
男が、初めて表情を変えた。
「……馬鹿な」
「世界を敵に回す気か」
迅は、笑った。
「最初からだろ」
夜刀が、結界を最大展開する。
「交渉、決裂ね」
灯火は、その背中を見つめていた。
胸が、熱い。
怖い。
でも――
逃げたいとは、思わなかった。
「……私」
小さく、でもはっきり言う。
「選ばれる側、やめます」
迅が、頷く。
「ようこそ」
「こっち側へ」
次の瞬間。
外で、重い音が鳴った。
人間側の実力部隊。
本物の敵が、来た。
灯火は、拳を握る。
境が、呼応する。
「……使うよ」
迅は、即答した。
「いい」
「今回は、並んで立とう」
世界が、二人を拒絶し始める。
だが。
もう、引き返さない。
選択権は、
奪われるものじゃない。
――奪い返すものだ。




