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宮廷薬師は負けヒロインにつき、陰謀を解きつつ恋を手直しします  作者: 和三盆


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第26話 境界の外から来た者

山道は、霧に包まれていた。


温泉街を離れてから、半日。

人の気配は、もうない。


「……ここ、安全なの?」


灯火が、小さく聞く。


夜刀は、首を横に振った。


「安全じゃない」


「でも、“どこにも属してない場所”ではある」


迅は、黙って周囲を見回していた。


焔は、静かだ。

だが、消えてはいない。


「……来る」


そう呟いた瞬間。


霧が、割れた。


人影が、一つ。


いや――

一人なのに、複数の気配。


「驚かなくていい」


穏やかな声。


現れたのは、白に近い灰色の外套を纏った人物だった。

年齢も性別も、判然としない。


「私たちは、君たちを追っていない」


夜刀が、一歩前に出る。


「名乗りなさい」


人物は、少しだけ笑った。


「名は、意味を持たない」


「強いて言うなら――」


霧の中で、足元の境が、自然に整う。


「観測者」


迅の背筋が、ぞくりとした。


「……人間側か」


「異界側か」


観測者は、首を振る。


「どちらでもない」


「どちらも、同じ“内側”だ」


灯火が、思わず口を開く。


「内側……?」


観測者は、灯火を見た。


その視線は、怖いほど静かだった。


「青藍院 灯火」


名前を呼ばれ、胸が跳ねる。


「君は、境を閉じる者」


「だが――」


「閉じない選択をした」


迅と夜刀が、息を呑む。


「……見てたの?」


観測者は、頷く。


「観測していた」


「それが、私たちの役割だ」


夜刀が、低く言う。


「……第三勢力」


「噂だけの」


観測者は、肯定も否定もしない。


「迅」


今度は、迅を見る。


「君の焔は、不完全だ」


迅は、黙って受け止める。


「だが、方向は正しい」


「灯火を“使わなかった”判断も」


灯火が、眉を寄せる。


「それなら……」


「味方、なんですか?」


観測者は、はっきり言った。


「違う」


「私たちは、味方にならない」


「理由は一つ」


一歩、近づく。


「君たちは、いずれ――」


「世界の前提を壊す」


空気が、張り詰める。


迅が、歯を噛みしめる。


「……それが悪いって言うのか」


「いいや」


観測者は、静かに言う。


「必要だ」


灯火の胸が、ざわつく。


「……私たちが?」


「君が、だ」


観測者は、灯火を見つめる。


「君は、“境界安定因子”では終わらない」


「使えば壊れる」


「使わなければ、世界が歪む」


「その矛盾を、超える存在になる」


夜刀が、問いかける。


「……それで」


「あなたたちは、何を求める」


観測者は、少しだけ考えた。


「観測を続ける」


「そして――」


迅を見る。


「選択を、歪めないこと」


「誰かに選ばされる前に」


霧が、再び濃くなる。


「忠告だ」


観測者の声が、遠ざかる。


「人間側は、次に“交渉”を持ちかけてくる」


「条件は――」


「灯火の“管理”」


灯火の喉が、鳴る。


「……断ったら?」


「力ずくになる」


霧の向こうで、観測者の姿が薄れる。


「だから、忘れないで」


最後の言葉。


「立つとは、戦うことじゃない」


「選び続けることだ」


霧が晴れた時、そこには誰もいなかった。


沈黙。


しばらくして、迅が言う。


「……信用できると思うか」


夜刀は、首を傾げる。


「全部は、無理ね」


「でも」


「嘘は言ってない」


灯火は、両手を胸の前で握った。


「……私」


「選び続けられるかな」


迅は、迷わず答えた。


「一人なら、無理だ」


「でも」


灯火を見る。


「三人なら、できる」


夜刀が、ふっと笑う。


「観測者が、見誤るとしたら」


「そこね」


山の向こうで、空が明るくなり始めていた。


世界は、彼らを試し続ける。


だが――

試されているのは、力じゃない。


選択だ。

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