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宮廷薬師は負けヒロインにつき、陰謀を解きつつ恋を手直しします  作者: 和三盆


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第24話 焔は誰のために

夜の温泉街は、音が歪んでいた。


足音が遅れて届く。

呼吸の音が、やけに大きい。


迅は、路地の中央に立っていた。


背後には、古い旅館。

その中に、灯火がいる。


「……二名、か」


闇の奥から、追跡者が姿を現す。


人間。

だが、その立ち方は“戦場”のそれだった。


「迅」


通信機越しに、低い声。


「焔を使うなとは言わない」


「だが、無理はするな」


夜刀だ。


迅は、短く息を吐く。


「無理は……」


「最初からするつもりだ」


追跡者の一人が、笑った。


「一人か」


「錨はいない」


迅の胸が、ちくりと痛む。


――灯火。


だが、思い出す。


彼女は今、横になっている。

疲れ切った身体で、それでも“立ちたい”と願っている。


「……だからこそだ」


迅は、拳を握った。


焔が、灯る。


だが、以前のような奔流ではない。


小さく。

静かに。


追跡者が眉をひそめる。


「……弱いな」


「違う」


迅は、地面を踏みしめる。


「絞ってる」


次の瞬間。


空間が、裂けた。


爆発はない。

音も、最小限。


だが――

追跡者の一人が、膝をついた。


「……っ!?」


「境を、固定した」


迅の声は、落ち着いている。


「動けないだろ」


もう一人が、距離を取る。


「成長しているな」


「だが――」


銃声。


迅の肩が、弾かれた。


「……っ」


血が、滲む。


焔が、揺れる。


その瞬間、頭に浮かぶ。


――灯火が、代償を払った顔。


迅は、歯を食いしばった。


「……ここで、暴れるわけには」


焔を、さらに絞る。


燃やすのではない。

覆う。


迅の周囲に、透明な境が張られる。


次の銃弾が、弾かれた。


追跡者が、舌打ちする。


「……まるで盾だな」


「そうだ」


迅は、一歩踏み出す。


「守るための焔だ」


距離が、詰まる。


拳が、振るわれる。


迅は、避けない。


代わりに、境を“重ねた”。


衝撃が、吸収される。


「……なっ」


迅の拳が、腹に突き刺さる。


追跡者が、吹き飛んだ。


静寂。


残る一人が、後退する。


「……撤退」


「報告案件だ」


闇に、溶けるように消える。


迅は、その場に立ったまま、しばらく動けなかった。


焔が、消える。


膝が、崩れる。


「……はぁ……」


息が、苦しい。


胸が、焼けるように痛む。


「迅!」


夜刀が、駆け寄る。


「……やりすぎよ」


迅は、苦笑した。


「……少しだけな」


夜刀は、迅の傷を確認しながら、静かに言う。


「でも」


「今の焔、灯火なしで安定してた」


迅は、視線を旅館へ向ける。


「……完全じゃない」


「でも」


立ち上がる。


「並べるくらいには、なった」


旅館の中。


灯火は、はっきりと感じていた。


迅の焔が、外で揺れ、そして――

折れなかったことを。


胸に、じんわりと熱が広がる。


「……迅」


夜刀が、迅を支えながら言う。


「帰りましょ」


「灯火が、待ってる」


迅は、頷いた。


一人で立った。


だが、独りではなかった。


焔は、誰かを置いていくための力じゃない。


並ぶために、

戻るために、

そして――守るためにある。


迅は、初めてそう確信した。


温泉街の夜は、静かに明けていく。


だが、世界はもう――

三人を見逃さない。

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