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宮廷薬師は負けヒロインにつき、陰謀を解きつつ恋を手直しします  作者: 和三盆


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第22話 追跡者の足音

森は、静かすぎた。


鳥の声も、風の音もない。

まるで世界そのものが、息を潜めている。


「……止まらないわね」


夜刀が足を止めずに言う。


「追跡信号、三つ。

距離、縮まってる」


灯火は息を整えながら、後ろを振り返った。


「見えないのに……分かる?」


夜刀は、淡々と答える。


「分かるように作られてる人間たちよ」


迅は、歯を噛みしめた。


「……俺たち、どこまで逃げればいい」


夜刀は、一瞬だけ黙った。


「“安全な場所”は、もうない」


その言葉が、重く落ちる。


灯火の胸が、きゅっと縮んだ。


「……私のせい、だよね」


迅が、即座に否定する。


「違う」


「狙われたのは、お前が“特別”だからだ」


「それを責める理由が、どこにある」


灯火は、何も言えなかった。


その時。


夜刀が、急に手を上げた。


「――伏せて!」


次の瞬間、地面が“削れた”。


見えない刃が、空気を裂いた音。


迅は、反射的に灯火を抱き寄せ、転がる。


背後の木が、音もなく倒れた。


「……来た!」


黒い影が、森の奥から現れる。


三人。

いずれも、人間。


だが、普通の人間ではない。


「対象確認」


無機質な声。


「青藍院 灯火」


迅の中で、焔が暴れかける。


灯火が、強く手を握った。


「迅、待って」


「一人で立たない」


迅は、息を吸い込む。


焔が、形を変える。


燃えるのではなく――

境を押し広げる力として。


迅が一歩踏み出すと、空気が歪んだ。


「通さない」


追跡者の一人が、笑った。


「それが焔か」


「だが、条件付きだろう」


次の瞬間。


別方向から、衝撃。


夜刀が、吹き飛ばされた。


「夜刀!」


迅が叫ぶ。


「大丈夫!」


夜刀は立ち上がるが、肩から血が流れている。


「……やるわね」


灯火の視界が、赤く染まった。


「……やめて」


無意識に、声が漏れる。


その瞬間。


灯火の足元に、淡い光が広がった。


追跡者の動きが、鈍る。


「……何だ?」


迅が、はっとする。


「灯火……?」


灯火は、自分の手を見つめていた。


「私……止めたい、って」


光は、敵を弾くものではない。

“動けなくする境界”。


夜刀が、息を呑む。


「……確信したわ」


「あなた、迅と同じ」


「“世界を分ける側”よ」


だが、その代償は早かった。


灯火の膝が、崩れる。


「……っ」


迅が、即座に支える。


「灯火!」


視界が、揺れる。


「……使いすぎ、たみたい」


夜刀が叫ぶ。


「撤退!」


「今のうちに!」


迅は、灯火を抱き上げた。


焔が、再び境を歪める。


だが今回は、痛みが走った。


胸が、焼けるように痛い。


「……っ、迅!」


灯火が、迅の胸に手を当てる。


「……ごめん」


「私が……」


「謝るな」


迅は、歯を食いしばる。


「一緒に立つって、言っただろ」


三人は、再び境を越えた。


気づけば、廃れた温泉街の一角。


人の気配は、ない。


迅は、灯火をそっと下ろす。


「……大丈夫か」


灯火は、弱く笑った。


「ちょっと……疲れただけ」


だが、迅は分かっていた。


初めての使用。

初めての代償。


灯火は、“無傷の存在”ではいられなくなった。


夜刀が、静かに言う。


「……もう戻れないわね」


「守られる側には」


灯火は、目を閉じて頷いた。


「うん」


「でも……」


目を開ける。


「立てる」


迅は、その言葉を胸に刻んだ。


追跡者たちは、止まらない。


だが同時に――

三人も、もう止まれなかった。


世界は、確実に二人を中心に動き始めていた。

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