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宮廷薬師は負けヒロインにつき、陰謀を解きつつ恋を手直しします  作者: 和三盆


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第21話 狙われる理由

青藍院の結界が、軋んだ。


音は小さい。

だが、迅にははっきりと分かった。


「……来る」


夜明け前の薄暗い廊下で、迅は立ち上がる。

胸の奥が、じわりと熱を帯びていた。


焔だ。

だが以前のように暴れない。

灯火が、隣にいるから。


「迅?」


同時に、灯火も目を覚ましていた。


「今の……」


「結界に触れた」


二人が顔を見合わせた、その瞬間。


廊下の奥で、夜刀の足音が止まる。


「――動かないで」


低く、鋭い声。


「もう囲まれてる」


外から、複数の気配。

人間だ。

それも、隠す気のない精鋭。


「早いな……」


迅が歯を噛む。


「灯火、下がれ」


灯火は首を振った。


「一人で立たない」


言い切りだった。


次の瞬間。


結界の一部が“切り取られた”。


壊されたのではない。

精密に、無効化された。


「侵入確認!」


夜刀が即座に符を展開する。


「対象は一名。

青藍院 灯火」


スピーカー越しの男の声が、庭に響いた。


「抵抗は推奨しない」


迅の視界が、一瞬赤く染まる。


「……ふざけるな」


一歩前に出た瞬間、灯火が迅の腕を掴んだ。


「迅、聞いて」


声は震えていない。


「私が狙われてる理由……分かった気がする」


「今じゃなくていい」


「今だから言う」


灯火は、迅を見つめる。


「私、迅の“錨”じゃない」


迅が息を呑む。


「迅が立てるのは、私がいるからじゃない」


「……何言って」


「逆」


灯火は、はっきりと言った。


「迅が立つ場所に、私が引き寄せられてる」


夜刀の目が、見開かれる。


「……まさか」


「境が揺れると、分かる」


灯火は自分の胸に手を当てる。


「迅が、どこに立ってるか」


迅の焔が、確かに燃え上がった。


「だから……」


灯火は、微笑んだ。


「私を引き離せば、迅は“一人で立つ”ことになる」


外から、声が続く。


「灯火を引き渡せ」


「そうすれば、迅には手を出さない」


迅は、即答した。


「拒否する」


夜刀が、一歩前に出る。


「プランBよ」


「撤退路を確保する」


「……逃げるのか」


夜刀は、迅を見る。


「守るための撤退よ」


結界が、完全に破られる。


黒い影のように、人間側の部隊が踏み込んできた。


その瞬間。


灯火が、迅の手を強く握った。


「迅」


「一緒に立とう」


焔が、爆ぜた。


だが、燃え広がらない。

収束した焔。


迅は、初めて理解する。


灯火が隣にいるとき、

焔は“武器”ではなく、“境界”になる。


「……行ける」


夜刀が叫ぶ。


「今よ!」


三人は走る。


結界の裏口。

夜刀が開いた、緊急脱出口。


背後で、男の声が響いた。


「逃がすな!」


だが――。


境が、三人を拒まなかった。


一瞬の浮遊感。

世界が反転する。


次の瞬間、三人は見知らぬ山中に立っていた。


夜明けの光が、木々の間から差し込む。


灯火は、息を切らしながら呟いた。


「……追ってくるよね」


夜刀が頷く。


「ええ。

あなたはもう“鍵”よ」


迅は、灯火の肩に手を置いた。


「……後悔してる?」


灯火は、首を振った。


「怖いけど」


「選んだ」


迅は、強く息を吐く。


「じゃあ――」


拳を握る。


「俺も選ぶ」


「逃げるだけじゃ、終わらせない」


遠くで、境が再び揺れ始めていた。


これはもう、小さな争いじゃない。


灯火が狙われた瞬間から――

物語は、“世界の側”へ踏み出した。

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