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宮廷薬師は負けヒロインにつき、陰謀を解きつつ恋を手直しします  作者: 和三盆


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第19話 三人で立つ場所

市街地に近づくにつれ、空気がざらついていくのが分かった。


「……今回は、はっきりしてる」


夜刀が前を歩きながら言う。


「境が“裂けかけている”」


迅は周囲を見渡す。


平日の昼間。

人通りは多く、車も行き交っている。


「こんな場所で?」


「だから厄介なの」


夜刀は足を止め、振り返る。


「今回は排除じゃない。

“誤魔化す”」


灯火が、少し緊張した面持ちで頷く。


「私、何をすればいい?」


夜刀は灯火を見る。


「迅のそばを離れない」


迅が口を開きかける。


「危な――」


灯火は先に言った。


「一人で立たない、でしょ」


迅は、言葉を飲み込んだ。


交差点に差しかかった瞬間。


世界が、ずれた。


信号の色が一瞬遅れ、音が反響する。

通行人の動きが、わずかに噛み合わない。


「……来る」


夜刀が刀に手をかける。


裂け目は、交差点の真ん中に現れた。

空間が紙のように折れ、向こう側が覗く。


黒い影が、這い出そうとしている。


「まずい……」


迅は、無意識に焔を探す。


だが、まだない。


代わりに――。


灯火が、迅の手を握った。


「迅」


声は、震えていなかった。


「ここにいる」


胸の奥が、熱を持つ。


「……ありがとう」


迅は、影に向かって一歩踏み出す。


「俺が立つ」


夜刀が即座に動いた。


裂け目の周囲に符を投げ、結界を張る。


「時間は三十秒!」


通行人は、違和感を感じて足を止めるが、まだ混乱していない。


迅は、裂け目の前に立つ。


押し返さない。

焼かない。


ただ、そこにいる。


だが――影が、しつこく蠢く。


「……足りない」


迅は歯を食いしばる。


そのとき。


灯火が、一歩前に出た。


「灯火!」


迅が叫ぶ。


灯火は、迅の隣に立つ。


「一人で立たない」


小さく、そう言った。


「私も、ここにいる」


瞬間。


裂け目が、強く揺れた。


だがそれは、拡がる揺れじゃない。

均される揺れだった。


夜刀が目を見開く。


「……まさか」


灯火の胸から、淡い光が溢れる。


焔ではない。

境でもない。


人の想いに近い、柔らかな光。


迅は、理解した。


「……共鳴、か」


灯火は首を振る。


「分からない」


「でも――」


迅を見る。


「迅が立つなら、私も立てる」


裂け目が、音もなく閉じていく。


影は、形になる前に消えた。


信号が正常に点灯し、車が動き出す。


誰も、異変に気づいていない。


夜刀は、結界を解きながら息を吐いた。


「……三人で正解だったわね」


迅は、灯火の手を離す。


まだ、少し震えている。


「無茶した」


灯火は苦笑した。


「迅もね」


夜刀が、二人を見比べる。


「はっきりした」


「灯火」


彼女は、静かに言う。


「あなたは“境を渡らせない人”よ」


灯火が目を瞬かせる。


「……どういう意味?」


「迅が立ち、あなたが繋ぐ」


夜刀は続ける。


「それは、人間側も異界側も、放っておかない」


迅は、嫌な予感がした。


「……狙われる?」


「確実に」


夜刀は断言した。


夕方の風が吹く。


街は、何事もなかった顔で動き続ける。


迅は、灯火を見た。


「後悔してない?」


灯火は、少し考えてから答えた。


「怖い」


「でも――」


微笑む。


「一人より、まし」


迅は、胸の奥で何かが確かに燃え始めるのを感じた。


それは、焔とは違う。


守りたい、という感情に近い火だった。


三人は並んで歩き出す。


もう、戻れない。

だが、戻らなくていい。


ここが――

三人で立つ場所なのだから。

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