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宮廷薬師は負けヒロインにつき、陰謀を解きつつ恋を手直しします  作者: 和三盆


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第18話 帰る場所と、立ち止まる距離

青藍院の門が見えたとき、迅は足を止めた。


夜はもう明けかけている。

空は薄く白み、鳥の声が聞こえ始めていた。


「……帰ってきた、か」


そう呟いたものの、胸は妙に落ち着かなかった。


境は静かだ。

異界の気配もない。

あまりにも――“普通”。


門をくぐると、夜刀がそこに立っていた。


「遅かったわね」


「迎えに来るとは思わなかった」


「来ると思ってたから」


夜刀は、迅の顔を一瞥する。


「……顔つきが変わった」


迅は肩をすくめた。


「檻に入ったら、色々整理できた」


「皮肉ね」


夜刀は門を閉めながら言う。


「ここは、あなたの檻にならない」


迅は小さく頷いた。


「分かってる」


廊下を進む途中、迅は足を止める。


「……灯火は?」


夜刀は、一瞬だけ言葉を選んだ。


「部屋にいる」


「……怒ってる?」


「怒ってはいない」


「じゃあ」


「傷ついてる」


迅は、何も言えなくなった。


灯火の部屋の前に立つ。


障子の向こうから、気配が伝わる。

確かに、いる。


迅は、深く息を吸った。


「……灯火」


返事は、ない。


「帰った」


しばらくして、障子が静かに開いた。


灯火は、いつもの服のまま立っていた。

だが、目の下に薄く影がある。


「……おかえり」


声は、穏やかだった。


それが、余計に刺さる。


迅は、言葉を探す。


「……心配かけた」


灯火は首を振った。


「心配は、したよ」


「でも……」


一歩、下がる。


「迅が選んだことだから」


迅は、胸が締めつけられる。


「俺は……」


灯火は、迅を見つめる。


「分かってる」


「守ろうとしてくれたんでしょ」


迅は、思わず一歩前に出る。


「じゃあ……」


「でも」


灯火は、そこで言葉を切った。


「私は、守られるだけの人じゃない」


沈黙。


迅は、初めて気づく。


自分が“置いていった”もの。


「……ごめん」


灯火は、微かに笑った。


「謝らないで」


「迅がいなくなったあいだ、私……」


視線を落とす。


「怖かったけど、考えた」


顔を上げる。


「迅が“立つ”なら、私も立ちたい」


迅の喉が鳴る。


「危ない」


「分かってる」


「それでも」


灯火は、はっきり言った。


「一人で決めないで」


迅は、何も言えなかった。


夜刀が、廊下の奥から声をかける。


「……二人とも」


振り返る。


「境が、また揺れ始めてる」


迅は、表情を引き締めた。


「どこだ」


「市街地」


夜刀は、灯火を見る。


「今回は――三人で行く」


迅は驚いた。


「灯火も?」


「ええ」


夜刀は言う。


「彼女はもう、“関係者”よ」


灯火は、迅を見る。


「一緒に行く」


迅は、少しだけ迷ってから、頷いた。


「……分かった」


青藍院の朝が、完全に明ける。


三人は並んで門を出た。


距離は、まだある。

言葉にできないものも、残っている。


それでも――。


迅は思った。


“帰る場所”は、戻るだけじゃない。

向き合うことで、初めて戻れる。


そのために、今度は――

一人で立たない。

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