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5 組分けの石

 いよいよ待望の入学の日。

 ……にも関わらず、俺は朝から憂鬱だった。

 俺の試験官であり、これから通う学校の教師でもあるコーネリアスさんの言葉を思い出す。


「私達はお前を守るよう最善の努力はする。ただし約束出来るのは一年間だ」

「え?」

「十七歳――つまり、成人になってからは自己責任になる事も増える」

「そんな無茶な!」

「とはいえ、学校にいる間はそれなりに守ってやる――勤務時間中はな」


 教師たちも学校の宿舎で過ごしている為、日夜問わず会おうと思えば会える。

 だが、彼らは労働者だ。当然、一日中生徒の為に活動している訳では無い。


 まだ異世界にやってきて一ヶ月。

 果たして俺が心穏やかに魔法ライフを満喫出来る日は来るのだろうか……。


「大丈夫だよ、スナオくん。誰もわざなしが魔法学校に通ってるなんて考えないよ! だって、そんなの、有り得ないことだもの」


 朝からしけた顔をしている俺を見て、ユキホが明るく声を掛ける。

 学校の制服――黒を基調としたベストとスカートに、白のケープロングコート。加えて、正装時は必ず必須とされる白いマント。

 出発前も思ったが、やはりよく似合っている。

 もちろん男子制服を着た俺は、言うなれば白馬の王子、いや黒馬の騎士のほうが例えとしてカッコイイな、うん。 


「……悪いなユキホ、気ィ遣わせて」

「そんなことないよ。いざという時は、私もスナオくんを守ってあげるから」


 ……見た目だけの騎士にならないよう、多少は意識しておくべきか。

 ユキホは俺より背はずっと小さいし、結構泣き虫なのに、こういう時は妙に頼もしく見える。

 その優しさが身にしみるんだ……。


「……俺もユキホに何かあったら助けたいから、何でも言ってくれ」


 ユキホは一瞬驚いたようだが、嬉しそうに頬を緩めて「うん!」と微笑んだ。


 ――まあ、初日から何かあるとは思わないが……滞り無く進んでくれよ。



 アスタルディア魔法学校へは空路で向かう。

 といっても飛行機ではない。飛行船だ。

 見た感じは木造の大きな船だが、さすがファンタジー世界の船と言うべきか、暫く待っていると謎の浮力で空へと飛び立った。

 船内では俺達と同じく、新入生たちが期待や不安を抱えて思い思いに過ごしていた。

 俺は正直高いところは心もとなかったが……ユキホが珍しがって甲板へ出たいというので、ついていく事にした。


 頭上では巨大な帆が風を孕み、壮大な景色が広がっていた。

 甲板にはテーブルやベンチ、庭園風のエリアまである。まるで客船みたいだ。

 ……さすがにプールはないな。

 すでに談笑する生徒たちもいる。動きが早いな。


「スナオくん見て! 私達の家、きっとあの辺だよ!」


 ユキホが遠くを指差すが、正直、手すりの下が恐ろしくて覗く気になれない。


「本当だぁ……すごいなぁー、ハッハッハ……」


 手すりにしがみつきながら薄目で相槌を打っていると、ふと、女子生徒のきゃあきゃあする声が耳に入ってきた。

 有名人でも乗ってるのか?

 声のする方に目を向ける。


 ――あ。

 悪役令嬢、セレンだ。


 ちょうど彼女が、取り巻きの男女に囲まれながら、ふわりと髪をかき上げる瞬間だった。


「あ、セレンさんだ!」


 ユキホも気づいて目を輝かせる。


「……あいつって有名人か何かなのか?」

「うん。この学校、首席で入学したんだよ! まさに才色兼備! すごいよねえ」

「そんな凄い奴には見えねえけど……」


 セレンは暫く会話を続けていたが、周囲を退散させる素振りを見せると、手を振ったり目線を送ったりしながら取り巻きたちが立ち去る。

 そして、セレンと二人の女子生徒だけがテーブルに残り、お茶会の続きを始めた。


「ユキホ、あいつと友達なんだろ。行かなくていいのか?」

「挨拶くらいはしたいけど……さすがに勇気ないよぉ。あの二人はセレンさんの親友だし、私はただの教会友達……はあ。あとでセレンさんが一人になったタイミングを見計らって声掛けるよ……」


 そうだった、ユキホは友達が少ないタイプだった。

 その気持ち、俺にも分かるぞ。


「あいつにも友達居るんだな。何か気に食わねえ……」

「セレンさんは貴族同士の付き合いもあるから、沢山知り合いや友達がいると思うよ。高嶺の花ってやつだねえ」


 暫くすると、綺麗な緑がかった白髪の美少年を筆頭に、3人ほどの男子学生がセレンたちのテーブルに近づいてきた。

 美少年はセレンに一礼すると、彼女の手を取って恭しくキスを落とす。


「あれは? 婚約者か何かか?」

「あの人は純血貴族のレムリスさん。婚約者じゃなかった筈だけど、きっとセレンさんの事が好きなんだろうね。よく一緒にいるみたいだし」


 ふうん。男のくせになかなか綺麗な顔をしている。

 しかし直感だが……あまり俺と気は合わなそうだ。

 純血貴族は血統にうるさいというし。

 魔法使いの血が一滴も入っていない俺は、なるべく近づかないよう気をつけるべきだな。

 それと、セレンの親友だというあの二人の少女も、きっと俺を敵視してくる筈だ。


 何となく見てて思った事がある。

 さっき取り巻きに囲まれていたときよりも、セレンの表情に覇気が無いように見える。

 ちやほやされてないと気が済まないのか?

 けど、自分たちから取り巻きたちを帰らせたようにも見えたんだよな。


 ……ま、いずれにせよ、俺には関係ないか。

 学校にはかなりの人数が在籍しているようだし、関わる機会はほとんど無いだろう。



 やがて船は学校近くに到着し、俺達は運転手の居ない車に乗せられ校舎前へと運ばれた。


 門をくぐると、目の前に広がるのは幻想と威厳を兼ね備えた壮麗な魔法学校だった。

 空へとそびえる尖塔は、ゴシック様式の荘厳な造りを持ちながらも、その間には透明なガラスの橋や滑らかな金属の装飾が施され、未来的な雰囲気をも醸し出している。


 要約すると、すげーファンタジーで、美麗な校舎だ。

 これがアスタルディア魔法学校……!


「新入生のみなさぁん、アスタルディアへようこそ! これから皆さんがどの寮に入るに相応しいか、組分けを行いまぁす! 人が多くて緊張するかもしれないけど、リラックスリラックス♪」


 ピンク髪の、なんだかふわふわした感じの先生に案内される。

 彼女の声に、生徒たちの緊張は少々解れたようにも見えた。


 大きな扉が自動で開かれ、大広間へと案内される。

 大食堂としても使われているのだろうか、テーブルには新入生を歓迎するご馳走が既に並べられており、食欲をそそった。

 きっとつまみ食いしてもバレないだろう。それぐらい人が居て、広い。

 一体何人収容出来るんだ?


 席はすでに在校生など多くの人で賑わっており、新入生たちを物珍しげに見たり、話したりしている。


「皆の者、静粛に」


 聞き覚えのある声がする――コーネリアスさんだ。


「これから組分けを行う。名前を呼ばれた者は前に出て、ここにある石の中から一つを選べ」


 コーネリアスさんが、壇上の中央に位置するテーブルの中央を示す。


「石が割れ、寮のシンボルである生き物の精霊が現れれば組分け完了だ。割れた石は生徒の証。肌身離さず身につけておくように。

 まず一人目。セレン・フォンス・エヴァンシール」


 セレンが前に出ると、少しだけざわめきが起きた。


 まあ、顔は確かに綺麗だし、才女ともあれば評判な事も頷ける。しかも貴族。

 俺も女だったらこんな美少女に生まれてみたいと思う。

 ま、出会い頭にバトルをけしかけるような性格はいけ好かないけどな。


 セレンは石を優雅な手つきで選び取る。

 皆が息を詰めて見守る中、石がなにかに反応するように震え出した。

 すると、まるで自ら卵を割って出てくるように内側からヒビが入り……

 バキッと音を立てて割れると、中から神々しい鷲の精霊と赤く光る靄が飛び出し、辺りを幻想的に彩った。


「赤寮――ルミナスフィール!」


 わっと拍手が沸き起こった。

 セレンは優雅に、赤いマントを羽織った生徒の多い席へ移動すると、在校生達から歓迎を受けていた。

 なんとなく目で追っていると――急に目が合ってしまった。

 その瞬間、セレンは急に表情を険しくした。

 やべっ、と思って逸らすが、気になってもう一度ちらりと確認すると……すでに彼女は生徒たちの中に紛れており、彼らに笑顔を向けていた。

 ……そういえば、あいつは俺のことをわざなしだと思っているはずだ。

 魔法を使うところさえ見せれば誤解だと思わせることは出来るだろうが……厄介だな。


 やがてユキホの名が呼ばれ、彼女も緊張した面持ちで前へ出る。

 そして現れた精霊は……緑の梟。ユキホの上げた腕を止まり木にしている絵面はなかなか様になっていた。


「翠寮、エルドラ!」


 再び歓声が上がり、ユキホは生徒たちに迎え入れられる。

 彼女は少し不安そうに俺に目を合わせた。

 俺がグッドサインを送る。

 達者でな、ユキホ。俺も後から行くぞ――。



 最後はいよいよ俺の番だ。

 最後まで呼ばれないかとヒヤヒヤしたぜ……。


 さあ、どの寮に決まれば、俺の生活は安泰だろうか。

 各寮のテーブルを見渡し、思考を巡らせる。


 寮は全部で六つ――赤寮、青寮、黄寮、翠寮、紫寮、灰寮。


 まず赤寮――ルミナスフィールは、セレンとその取り巻きが一人入ってしまった。同じ寮になることは避けたい。


 次に青寮――アークレインは、レムリスとその取り巻きに加え、セレンのもう一人の取り巻きもいる。

 狼の精霊は中々カッコイイが、奴らと生活を共にするのは厳しい所がある。


 黄寮――シルヴィアは……眩しい。一言で言うなら、貴族と陽キャの集まりっぽい。

 ついていける気がしない。というか、色んな意味でハイリスクすぎる。精霊は蝶。


 紫寮――ノックスベルは、雰囲気こそ落ち着いてはいるが、女生徒の比率が高い。

 男の俺にはやや敷居が高く感じてしまう。精霊は猫。


 最後に灰寮――グリンデッタ。見ただけでは傾向が読み取りにくいが、他の寮より何だかテーブルの雰囲気がピリピリしている気がする。精霊は蛇。


 消去法で考えれば、いや考えずとも――穏やかな学園生活が約束されているであろうのは、翠寮。ユキホもいるエルドラ。

 

 狙うならここしかない――!

 ……まあ、狙って行けるような物でも無いんだけど。


 壇上に立ち、石を選ぶ。

 皆が俺を見ていた。

 石を手のひらに乗せ、石が割れるのを固唾をのんで見守る。


 ――頼む、エルドラ、エルドラ来いッッ……!!


 …………。


 …………おかしい。


 石が、割れない。


 生徒がざわめき出す。

 教師も初めて見た現象なのか、対応に戸惑っている様子が感じられた。


 ――まずい。最悪だ。

 初日から悪目立ちなんて、勘弁してくれ……!!


「静粛に!」


 コーネリアスさんの冷徹な声が響く。

 静まり返る大広間。


「下がれ。その石が本物の組分けの石か確認する」


 コーネリアスさんが石に杖を向けた。


 その瞬間。


 石が小さく震えだし、次第に大きくガタガタと飛び跳ね始めた。

 自ら俺の手のひらから転がり落ち、そして尚も床上を暴れまわった後、遂に。


 ――ぱきっ。


 鋭い音を立てて石が割れた。

 しかし、中から噴き出したのは黒い煙――かと思えば白、かと思えば青、黄、緑、紫――

 不気味に靄が混ざり合い、精霊たちも目まぐるしく形を変え、所々化け物のような様相を呈していた。

 教師も生徒も、誰もが息を呑み、怯える者や警戒する者など、それぞれがその様子を見つめている。


 最後に残った形は――赤い鷹。


「っ……赤寮、ルミナスフィール!!」


 まばらな拍手から、次第に大きな拍手へ変わる。

 コーネリアスさんに背中を押され、俺はルミナスフィール寮の席へよろよろ歩いて行った。


 幸いなことに――先輩方は俺の腕を引っ張り、空いた席へ迎え入れてくれた。

 中には怯えた目や奇異の目を向けるものもいたが、気にしない気にしない……。


「お前、すげーよ! しかもイケメン。石が迷ってたぜ」


 隣の席の、緑のツンツンした髪に、元気そうな桃色の目をした少年が俺の肩を叩く。

 様子を見るに同じ寮に振り分けられた新入生だろう。


「今年のルミナスフィールは凄いのが二人も入ってきたな」


 向かいに座る上級生と思しき、余裕を感じさせる茶髪の好青年も楽しげに笑いかけてくる。

 握手を求められたので、俺は彼の手を握った。


「よろしく、新入生くん」

「ああ、よろしく」


 先輩と思しきポニーテールの少女も関心したようにこちらを見つめている。

 だが俺が気付くと同時に、得意げな笑みを浮かべてひらりと手を振ってきた。

 俺は軽く手のひらを上げて応える。


 ……良かった。何て温かい場所なんだ。


 ふとセレンの方を確認すると、やはりか……ものすごーく不愉快そうにこちらを睨んでいた。

 船で見た彼女の親友のひとり、赤いショートヘアの少女もこちらを見つめている――彼女は無表情だったが、俺の様子を探っているようにも感じた……気のせいかもしれないけど。



 やがて組分けや先生方のありがたいお話も終わり、歓迎の食事も終える。

 異世界の飯は美味かった。見たことのない食材ばかりだったが、元の世界にあっても違和感のない野菜や果物、肉類などがあり、味もかなり好みだ。

 ユキホの家で食べた家庭的で素朴な味の料理も良かったが、万人向けに調理された大衆料理にも良さがある。

 ふむ……いずれこの世界の食材や料理についても知っていくとしよう。


 その後、俺達は寮に案内された。

 談話室で男女に別れ、それぞれの寮へ進む。

 廊下に掲示されている部屋割り表を見て、俺は自分の部屋へと向かった。



 寮の部屋は想像以上に綺麗だった。

 天井に浮かぶランタン、四つの天蓋付きベッド、奥には本棚とテーブル。

 広すぎず狭すぎず、ちょうどいい。


「スナオじゃーん!」


 ドアを開けるなり、ツンツン頭の少年が駆け寄ってきた。


「俺、カイト! 同じ部屋でうれしーよ!」


 彼に乗せられるように、気づけばグータッチを交わしていた。

 カイトは相変わらず元気だ。

 その隣には、銀髪で割れた眼鏡の青年。

 クライドっていうんだ、とカイトが紹介すると、クライドは無言で眼鏡を押し上げた。


「……よろしく」


 抑揚の少ない、低い声。


「わりぃなスナオ、こいつ普段から全ッ然喋んねえの!」


 カイトがバシバシ背中を叩くたびに、クライドの眼鏡がズレる。

 クライドは怒るでもなくじっとしていたが、嫌がっている感じは全然無い。


 最後の一人は、部屋の隅で小さくなっていた。


「なあ、お前名前は?」

「……シエル・ヴィクトル、といいます」


 小さな声、仕草から滲み出る品の良さ。まるで小さな王子様だ。


「よろしく。まあ、そんな気負うなよ」

「……っ、はい……」


 緊張してるな。どうしたもんか。

 迷った挙句、手を差し出してみた。


「?」

「……とりあえず握手でもするか?」

「えっ、あっ、はい……!」


 パッと握り、軽く振る。シエルは持ち前の大きくも儚げな目を丸くした。

 ……効果、あるんだろうか。

 ぎこちなく笑顔を作ると、シエルの顔が少し青くなった。


「さてと!」


 カイトが手を叩く。


「俺らルームメイトなんだからよ、仲良くやろーぜ!」

「随分とテンションが高いな」

「……それな」


 クライドがボソッと相槌を打ち、俺は二度見した。


「当たり前だろー!? 新しいダチが出来たんだから! 俺は嬉しくて嬉しくて~」


 出た、友達と認定するのが早いタイプッ……!

 俺は反射的に身構えてしまった。

 しかし、カイトの本気で嬉しそうな顔を見ていると、体の力が無意識に抜けていく。


 だが、光の気配に絆されきるその前に……俺には知っておきたいことがある。

 彼らは、まさか俺がわざなしとは思っていないだろう……とはいえ。

 ――俺にわざなしの血が通っていると知っても、彼らは敵にならないのか、どうか。


「ところで、一つ確認しておきたいんだが……お前ら、貴族か?」

「いんや、俺は平民! クライドも!」


 クライドが無言で頷く。


「僕は……貴族です。貴族なんかと一緒の部屋なんて嫌ですよね、ごめんなさい」


 シエルはつらそうに俯いた。

 貴族という理由で、何か嫌な思いをしたことがあるのかも知れない。

 だとすると、この質問はやや配慮が足りなかったか……。


「すまん、聞き方が悪かった。俺は所謂――混血だ。だから貴族には嫌われやすくてな……隠していてもいつかはバレるだろうし、今のうちにお前たちがどう思うか知っておきたかったんだ」

「……っ、じゃあ、僕のことは平気なんですか……?」

「ああ。別にお前に何かされてもないしな」


 少なからず安心したのか、シエルの顔が少し明るくなった。


「カイトとクライドは?」

「俺? 確かに貴族って鼻持ちならない奴もいるけど、貴族だからっていうより、そいつの性格なだけだろ? だから貴族かどうかは気にしねーなー」


 クライドも同意するように頷く。


「……むしろ、シエルは嫌じゃないのか? 混血とか、わざなしとか」


 俺が尋ねると、シエルが眉を潜めた。


「僕は全然、そう思いません。血がどうとかで争うなんて――馬鹿げた考えです」


 カイトがシエルの肩にぽんと手を置く。


「お前、いいヤツだな~!」

「普通のことだと思います……」

「俺らルームメイトなんだからさ、混血とか純血とか貴族とか、そんなの関係ねえって!」


 カイトの言うとおりだ。


「そうだな。正直、偏見を持たれるんじゃないかと心配してた。だから安心できたよ、ありがとう。……シエルも、教えてくれて助かった」


 カイトは鼻の下を擦り、クライドは眼鏡を押し上げる。

 シエルも顔を少し赤くして、はにかんだ。


「……皆が優しそうで、よかった」


 シエルもようやく落ち着いたらしい。


 混血ですらない事を知っても、彼らは同じように接してくれるんだろうか。

 一抹の不安が過ったが、考えても仕方ない――今は忘れよう。

 俺は混血だ、うん。


 するとカイトがぱっと顔を明るくして切り出した。


「さてさて、明日は飛行術の授業があるぞ!」


 ――何?


「飛行術って、空飛ぶのか……?」

「当然! お前、練習したことないの?」

「ないな」

「マジかー! じゃあ俺が教えてやるよ!」


 カイトの目が輝いている。

 クライドを見ると、何か嫌なことを思い出しているような顔をしていた。


「飛行術かあ。楽しみだけど、事故も多いって聞くし、ちょっと不安だな……」


 シエルが苦笑いを浮かべる。

 しかしカイトはあっさりと笑った。


「大丈夫だって、俺も前に無理やり乗って大怪我したけど、死ななかったし」

「……そうかよ」


 ……不安しかない。


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