30 お手並み拝見
教室へ向かうだけで、背後に足音が五つ並ぶ。
「……なあ、そんなに近くに立たなくても良くないか?」
「規定距離です」
「対象から三歩以内の維持を義務づけられている」
「死角を作らないためだ」
「安心せよ」
「…………」
安心せよ、じゃねぇんだよ。
これじゃ俺の見た目は完全に、厳重保護された危険人物ってところだ。
(勘弁してくれ……)
授業中も廊下でも食堂でも、気づいたら背後に仮面が立っている。
授業参観か?
護られるのはともかく……
周りの生徒に白い目で見られるのは、正直、毒より効いた。
◇
昼休みの中庭。
カイト達と食事を終えた後、人目を避けれる場所へ隠れながら移動する。
上手く撒けたと思ったが……腰を下ろした瞬間、仮面が五つ、すぐ近くに立った。
(……慣れたくねぇ光景だな)
出来心で、そのうちの一人に声を掛けてみる。
「なあ。
爆発事件のこと、どこまで分かったんだ?」
仮面は動かない。が、すぐに淡々とした声が返る。
「――犯人が学生であること。
ヴォイドとの内通があること。
以上です」
「それだけ? 詳しくは?」
「機密事項です」
(何も教えるつもりは無いってか……?)
俺は溜息を吐いてから、隙を見て逃げ出した。
仮面たちは慌てる気配すらない。
◇
護衛の圧は寮に帰っても続いた。
夜、自室に入れば――
「……ひい……」
シエルが縮こまって肩を震わせていた。
カイトが眉を寄せて仮面の男をつつき、
クライドは珍しく落ち着かない様子で机の本を弄っている。
(これ、俺より周りの方が影響でかいだろ)
……よし。
ここはいっちょ腹を決めよう。
◇
「護衛を減らしてほしいです。
寮と授業中は、外してもらえませんか」
そう言うと、ふわふわした椅子に座っていたアーガンダル校長が、杖を磨く手を止めて振り返った。
「ふむ……。君の一日が護衛5名で埋まっていることは、私も気になっていたんだよ」
(気になってたのか……)
「だがねスナオくん。校長として、大人として、私は君を守る責務がある。……とはいえ君の気持ちもよくわかるんだな、これが」
校長は椅子を回転させて眉を八の字にしている。
困っているようだ。
「さて、どうしたものか――」
「……本人がそれを望むなら、尊重すべきだと思います」
校長の傍に控えていたコーネリアス先生が口を開いた。
そしてゆっくり、しかし鋭い視線が俺に突き刺さる。
「スナオ。貴様は自分が“狙われている”と理解したうえで言っているのか?」
「はい。俺のせいで周りに迷惑かける方が嫌なんで」
コーネリアス先生はわずかに眉を動かす。
「校長は来週、王都に出張だ。貴様につけている護衛は念の為でもある。
それでも安心して寮で眠っていられるかな、貴様は」
俺は一瞬だけ言葉に詰まった。
(……正直、不安が無いと言ったら噓になるが)
「そんな保証は……ないです。
でも、護衛がいたところで俺の不安がなくなるわけでもない。
だったら――自分で何とかしたい」
「護衛を外したことで他の生徒に危険が及んだ場合、貴様の学校生活はずうっと護衛付きになるぞ。いいのか?」
「……誰かを巻き込むのは一番嫌です。
でも、護衛が常につきまとってたら、それこそみんなに迷惑です。
だから……俺が自分で守ります。
もし失敗したら、その時は護衛付きでも何でも受け入れます」
大事になるくらいなら、俺一人で済ませる覚悟で動くしかない。
自信の有無なんて関係ない――やるしかない。
「なら――お手並み拝見といこう」
先生はほんの少し口角を上げた。
(相変わらず怖いけど……見守る気はあるんだよな、……多分)
「いいの? コーネリアス先生」
校長が心配そうに言う。
「彼は十七になれば成人です。
その力量を見せてもらう時期ではありますよ」
そんなことをさらりと言われ、俺は背中がむず痒くなった。
◇
放課後の特別授業に向かう最中――
ふと、昨夜の塔のことが気にかかった。
(……あの装置、どうなったんだ?)




