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30 お手並み拝見

 教室へ向かうだけで、背後に足音が五つ並ぶ。


「……なあ、そんなに近くに立たなくても良くないか?」


「規定距離です」


「対象から三歩以内の維持を義務づけられている」


「死角を作らないためだ」


「安心せよ」


「…………」


 安心せよ、じゃねぇんだよ。

 これじゃ俺の見た目は完全に、厳重保護された危険人物ってところだ。


(勘弁してくれ……)


 授業中も廊下でも食堂でも、気づいたら背後に仮面が立っている。

 授業参観か?


 護られるのはともかく……

 周りの生徒に白い目で見られるのは、正直、毒より効いた。




 昼休みの中庭。

 カイト達と食事を終えた後、人目を避けれる場所へ隠れながら移動する。

 上手く撒けたと思ったが……腰を下ろした瞬間、仮面が五つ、すぐ近くに立った。


(……慣れたくねぇ光景だな)


 出来心で、そのうちの一人に声を掛けてみる。


「なあ。

 爆発事件のこと、どこまで分かったんだ?」


 仮面は動かない。が、すぐに淡々とした声が返る。


「――犯人が学生であること。

 ヴォイドとの内通があること。

 以上です」


「それだけ? 詳しくは?」


「機密事項です」


(何も教えるつもりは無いってか……?)


 俺は溜息を吐いてから、隙を見て逃げ出した。

 仮面たちは慌てる気配すらない。



 護衛の圧は寮に帰っても続いた。


 夜、自室に入れば――


「……ひい……」


 シエルが縮こまって肩を震わせていた。

 カイトが眉を寄せて仮面の男をつつき、

 クライドは珍しく落ち着かない様子で机の本を弄っている。


(これ、俺より周りの方が影響でかいだろ)


 ……よし。

 ここはいっちょ腹を決めよう。



「護衛を減らしてほしいです。

 寮と授業中は、外してもらえませんか」


 そう言うと、ふわふわした椅子に座っていたアーガンダル校長が、杖を磨く手を止めて振り返った。


「ふむ……。君の一日が護衛5名で埋まっていることは、私も気になっていたんだよ」


(気になってたのか……)


「だがねスナオくん。校長として、大人として、私は君を守る責務がある。……とはいえ君の気持ちもよくわかるんだな、これが」


 校長は椅子を回転させて眉を八の字にしている。

 困っているようだ。


「さて、どうしたものか――」

「……本人がそれを望むなら、尊重すべきだと思います」


 校長の傍に控えていたコーネリアス先生が口を開いた。

 そしてゆっくり、しかし鋭い視線が俺に突き刺さる。



「スナオ。貴様は自分が“狙われている”と理解したうえで言っているのか?」



「はい。俺のせいで周りに迷惑かける方が嫌なんで」


 コーネリアス先生はわずかに眉を動かす。


「校長は来週、王都に出張だ。貴様につけている護衛は念の為でもある。

 それでも安心して寮で眠っていられるかな、貴様は」


 俺は一瞬だけ言葉に詰まった。


(……正直、不安が無いと言ったら噓になるが)



「そんな保証は……ないです。

 でも、護衛がいたところで俺の不安がなくなるわけでもない。

 だったら――自分で何とかしたい」


「護衛を外したことで他の生徒に危険が及んだ場合、貴様の学校生活はずうっと護衛付きになるぞ。いいのか?」


「……誰かを巻き込むのは一番嫌です。

 でも、護衛が常につきまとってたら、それこそみんなに迷惑です。


 だから……俺が自分で守ります。

 もし失敗したら、その時は護衛付きでも何でも受け入れます」



 大事になるくらいなら、俺一人で済ませる覚悟で動くしかない。

 自信の有無なんて関係ない――やるしかない。


「なら――お手並み拝見といこう」


 先生はほんの少し口角を上げた。

 

(相変わらず怖いけど……見守る気はあるんだよな、……多分)


「いいの? コーネリアス先生」


 校長が心配そうに言う。


「彼は十七になれば成人です。

 その力量を見せてもらう時期ではありますよ」


 そんなことをさらりと言われ、俺は背中がむず痒くなった。




 放課後の特別授業に向かう最中――


 ふと、昨夜の塔のことが気にかかった。


(……あの装置、どうなったんだ?)






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