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29 スナオ護衛隊

 ミズカの肩を借り、塔を降りていると、

 ロアに背負われていたマルクスがふいに眉をひそめた。


「……っ、……ここは……?」


 ロアの背中でわずかに身じろぎし、半開きの目で前を見て――

 先頭を歩く俺とミズカを視界にとらえた瞬間、驚きに目を見開く。

 だがまだ朦朧としているのか、すぐに瞼の力が抜けた。


「……ミズカ……? 何で……お前が……ここに……」


「やっと起きたんだ。みんな私のことが気になるんだね~?」



 ミズカは振り返り、まるで寝起きの子どもをからかうみたいに笑った。



「それにしてもさぁ、マルクス。

 スナオをいじめるなら、もっと上手くやらなきゃ駄目だよ。

 先生にはもうバレてるよ? あんな雑な遊び」



「……っ……お前……」



 マルクスは言い返そうとしたが、言葉は続かない。

 その代わりに、険しい視線だけがミズカに向けられた。


 だがすぐに、彼は自分を背負っているのがロアだと気づいたらしい。



「ロア……」



 どこか気まずさを含んだ声。

 ロアは前を向いたまま、黙っている。



「…………」



 目を合わせようとしない。

 その横顔は、不機嫌とも緊張ともつかない硬い表情だった。



(……ロアは、マルクスと相性はあまり良くなさそうだな。

 生い立ちが生い立ちだし……)



 ふと、あの杭の装置の事を思い出す。

 俺は口を開きかけ――やめた。



(ミズカがいる前で、あの代物の話をするのは悪手かもな)



 喉元まで出かかった疑問を飲み込み、そのまま塔を後にした。





 保健室。

 白い光が落ちる静かな部屋で、俺は椅子に座りながら、コーネリアス先生に包帯を巻かれていた。


 ミズカは「何かあったら頼れって言われたから♪」と俺を先生に預けると、ロアとマルクスとともにどこかへ行ってしまった。


 毒は先生の常備薬で解毒され、麻痺は殆ど落ち着いた。



(夜なのにわざわざ手当てしてくれるのはありがたいが、若干申し訳なさが勝つな……)



 傷は魔法で治してもらったので大したダメージは残っていないが、後遺症が残らないように包帯に術が掛かっているようだ。


 とはいえ、先生曰く“ちょっとした切り傷”程度らしい。

 ……だが、大なり小なり、こっちはたまったもんじゃない。



「……先生、ひとつ聞きたいんですが」


「何だ」


「学園内に、ヴォイドと内通しているスパイ学生がいる。

 ……それ、先生たちも知ってたんですか?」



 コーネリアス先生の指が一瞬止まる。

 そして、低く短く答えた。



「把握していた。特定も進めていた。

 此度の件もある程度想定していた事象だった」


(何だって?)


「……じゃあ俺を囮にする気だったんすか?」


「囮とは言っていない」



 さらりと言うな。

 先生は淡々と包帯を止めると、続けた。



「本来であれば、当該生徒がお前の血を持ち出す現場を押さえる予定だった。

 だが――お前がマルクスを倒したことで、追跡が中断した」



「……俺、死ぬかもしれなかったんですけど!?」



「結果として生きている。

 それに、お前が倒したのだから文句はあるまい」



(……そういう問題じゃねぇ)



 なんとも言えない虚しさだけが喉につかえた。

 だが、言わなければいけないことはまだある。



「……先生。

 スパイ、二人います」



 コーネリアス先生の眉が、わずかに動いた。



「……二人、か」


「はい。間違いないです」


「随分な自信だな。根拠があるのか」


「まあ……ちょっと」


「……ならば、身の安全を一層優先する必要がある。

 明日から対策を強化しよう」


「え……もしかして、また授業増やされるとか」


「その心配はない。とにかく、今日はゆっくり休め」


(どうだかなあ)


 寮まで送り届けられ、俺はルームメイト達を起こさないように諸々を済ませ、

 そのまま寝た。



 ――翌朝。

 ルームメイト達と朝の支度をしていると、寮の部屋の扉がノックされた。


 開いた瞬間――

 ずらり、と。

 制服を身にまとい、目元に仮面をつけた騎士たちが横一列に立っていた。


 その格好には見覚えがあった。


(爆発事件の時に来てた騎士団……の人たちだ)



「……えぇ……」



 理解するよりも先に、俺は思わず声が漏れた。



「スナオ・マヤの護衛に参った」


「以後、常に同行する」


「外出時は必ず我々が先導する」


「学園内も危険区域は回避せよ」


「何かあればすぐに申告を」



 五人が順番に喋るので圧がすごい。



(……なんだこれ。悪目立ち確定じゃねえか……)



 背後からはカイトの呆気にとられた声や、シエルの怯える声が聞こえた。




(確かにスパイ側も迂闊に手を出せねえだろうけど……マジかよ)




 こうして俺の周囲は、一夜にして騎士団の仮面だらけになったのである。


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