28 不穏な救助
マルクスは気を失ったのか、ぴくりとも動かなくなった。
(……落ちたか)
拘束はまだ効いている。だが呼吸はある。
さすがに死ぬような魔法じゃないはずだ――そう信じたい自分がいた。
(それより……やべぇ。体が動かねぇ……)
立ち上がれもせず、そのまま壁に背中を預ける。
魔法でどうにかしようにも、杖を握りしめることすらできなくなっていた。
(……逃げねぇとヤバいのに……!)
その時だった。
――コツ、コツ、コツ。
階段を上ってくる規則正しい足音。
(……っ! 誰だ……?)
姿を消す呪文――確かあった気がする。
教本のどっかに……いや、授業で聞いたことが……?
(……思い出せねぇ……!)
焦りで脳が空転する。
足音が近い。扉の前で止まり――ゆっくり、開いた。
「…………やっぱりいたぁ」
軽い声。
入ってきたのは――ミズカとロアだった。
「……なんで、お前らが……」
声が震える。毒のせいか、驚きか分からない。
「先生たちに頼まれたの。見回りしてきて~ってね♪
ロアはあたしのボディーガード」
ロアは無言で会釈し、すぐに倒れているマルクスの方へ向かった。
ミズカは一歩近づき、倒れ込む俺とマルクスを見比べると――目を細めた。
「へぇ……」
「……なんだよ」
「お楽しみだったみたいだね~?」
「…………は?」
血が逆流するような感覚が走った。
「おい、ふざけんな。何をどう見たらそう――」
「あはっ、冗談冗談。
でも《尋問術》使ったでしょ? 結構えぐーい魔法だよ、それ」
――何故わかる。
ミズカは悪気の欠片もない顔で笑っていた。
その笑顔の裏にある“何をどこまで知っているか”が読めない。
ロアがマルクスの容態を確認し、短く言った。
「……命に別状なし。麻痺と疲労だけ」
「よかったぁ。倒れてるのマルクスだしね~。
セレンに知られたらなんて言われるか」
その言い方が、どこか引っかかった。
(……貴族同士、意外と仲が良いのか)
ロアは倒れているマルクスをそっと背負い上げた。
どうもこういった世話には慣れているようだ。
「私が下まで運ぶ。スナオ、あなたは……動ける?」
「……肩を貸してもらえばなんとか」
「あたしの力を借りたいってことねー。はいじゃあ、行こっか」
ミズカはひょいと俺の腕を肩へ回し、へらっと笑った。
悔しいがそうしてもらうしか無い……。
塔から出る途中、ふと思い出したようにミズカへ尋ねる。
「……あの尋問の呪文。なんであんな効き方したんだよ」
「あー……あれね?」
ミズカは舌を出して笑う。
「あれ、不完全な呪文だよ?
“汝よ秘密を半分語れ”って意味なの。
だから全部じゃなくて“半分”だけ吐いちゃうの。
……完全版使ったらマルクス死んでたかも~」
「……二度とお前に教わった呪文なんか使わねぇ」
「え~? でも素直で可愛いじゃん、スナオって。
言ったらちゃんと信じて使ってくれるんだもん」
「……やかましい」
ミズカはくすくす笑い続けていた。
(……こいつは絶対に油断しちゃいけねぇな)
毒でガクガクする足に力を入れながら、
俺たちはゆっくりと塔を後にした。




