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26 こんな筈では

 ほんの一瞬。

 ほんの一点だけだ。

 それでも、時間が止まったかのように固まっていた空気が、ほんの少し緩んだ。


(感じる。多分、今なら……魔法を使える)


 だが、ほんの少しだけだ――少しの魔力で最大の効果を生む必要がある。



 倒れた俺を蹴り上げようと、マルクスが再び踏み込む。

 その動きに迷いは無い。


(……隙があるとしたら、今しかない)


 そして――体に触れるその瞬間。

 俺は一点に集中させ、無詠唱の防御魔法を展開した。


「あッ……!?」


 マルクスの足は、透明の衝撃に弾かれる。

 反動で彼は背中を地面に強打し、苦し気なうめきを発した。

 碧の瞳が揺れ、一瞬だけ露骨に動揺が走る。


「……おい。お前、今――」


 マルクスは何が起こったか理解したのか、苦い顔で立ち上がる。


「そうか。そういうことか。

 だが……欠損が一ヶ所だけなら、使える魔法なんて微々たるものだ。

 そんなもので僕に勝てると思わないことだな」


 強がりではない。

 冷静に状況を分析した、正しい判断だ。


(魔法が使えるようになったのはマルクスも同じ。

 反撃される前に決着をつけないと……!)


 ――だったら。


(……賭けるしかない)


 杖を取り出し、呪文を口にしたのはほぼ同時だった。

 マルクスの放った圧縮刃が、俺の頬をかすめる。


「っ……!」


 浅く皮膚が切れた。

 だが、血も出ないほどの軽傷――


(……結界が生きてるからか? 威力が落ちてる)


 一方で。


「なっ――!」


 俺の放った拘束魔法は、通常と変わらない強度でマルクスの身体を絡め取った。

 光鎖が弾けるように伸び、彼の両腕・両脚を一瞬で縛り上げる。


「く……っ……離せ……!」


 もがいたが、鎖は緩まない。

 マルクスの膝が力を失い、床に沈んだ。


 結界欠損による魔力の戻り――その恩恵は、なぜか俺の方が大きかった。


(……よし。押し込めた)


 息を整える。杖を握り続けることすら、毒の影響で危うい。


「調子に乗るな……っ。

 こんな魔法、すぐにでも――」


 マルクスが拘束を解こうといくつかの呪文を口にするが、外れる気配はない。


「何故だ。何故、何故、何故――僕が……こんな……お前ごときに……!」

「もういいだろ、引き分けだ。こんな真似、もう二度とするなよ……」

「黙れ! 引き分けなどあり得ない!! お前は異常だスナオ!!」

「じゃあお前が負けってことで……」

「黙れ黙れ黙れ!!!」


 拘束されたマルクスの目は鋭く、憎悪を隠そうとすらしない。


「どっちでもいいけどよ……こっちは怪我させられてんだ。

 意地でも事情は聞かせてもらうからな……」


 俺はゆっくりと体を起こす。

 頭がふらつく。


「話せ。この結界は何だ? あの爆発事件はお前の仕業か?

 お前、他に何を知ってるんだ……俺のこと」


「フン、言うわけがないだろう……貴族に物を頼む態度か? それが」


 頑なだ。

 プライドの塊なのか? これが貴族の教育の賜物なのか?

 口を割る気配は、欠片もない。


(……なら、他に方法は……)


 脳裏に、嫌な記憶がよぎる。

 ミズカに――押しつけられたに等しい、あの呪文。


(……尋問術)


 使いたくはない。

 だが――マルクスは、どう考えても話し合いで解決出来るタイプじゃない。


(聞き出さないと、俺だけじゃない――学校や、また誰かが巻き込まれる)


「……マルクス。悪いが、これ以上は待てない」

「? 何を――」


「《ハルファリス(汝よ秘密を)ヴエリタ(語れ)》」


 囁いた瞬間――思わず息が止まった。


「――っぐ、ぁ、あああああああああああッ!!」


 マルクスの体が跳ね上がり、喉を裂く悲鳴が塔に響いた。

 

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