25 反撃
――ガシャン!!
大きな音と共に、窓が突如として開いた。
突風が部屋を横切り、粉塵が舞い上がる。
マルクスは反射的に後ろへ視線を向けた。しかし埃を吸ったのか、その場に苦し気に咳き込む。
――ただの強風。古い窓が風の勢いに耐えかねて開いただけだ。
なんの魔法でもない。
ほんの一瞬の出来事。
だが、俺には十分だった。
(……揺れた?)
視界の端。
四隅の杭――そのうち出入り口にある側の一つだけが、赤い光をわずかに弱め、揺らいだ。
(あれだけ……不安定じゃないか?)
他の三つは脈動が安定している。
けれど、あれだけはまるで呼吸を乱したかのように、弱弱しく明滅していた。
(……賭けるしかない)
頭がふらふらする。
もう逃げ回っている時間はない。
「……ふん、これだから汚い建物は嫌なんだ」
マルクスが忌々し気に呟き、俺の方を振り返る寸前、
俺は全力で駆けだした。
だが――
ほんの一呼吸の後、マルクスの剣が閃き、
鋭く風を切る音と共に――刃が、足首の横を浅く切り裂く。
「……っ!」
力が抜け、そのまま床に転がる。
「逃げ足だけは達者だな。
あんな一瞬で、僕が、お前を取り逃がすと思ったか?」
足音が近づく。
マルクスは恐らくまだ、たまたま逃げただけだと思っているだろう。
(気づいてない……)
転んだ位置は、狙い通り――光の弱い杭のすぐそば。
俺はゆっくり、這いずり寄る。
マルクスにはただ逃げようとしているだけにしか見えないだろう。
「往生際が悪いぞ、スナオ」
足音が背後から迫る。
慌てず、杭をよく確認する――間違いない。
杭の上部に埋め込まれた魔法石のような結晶にヒビが入っている。
もし上手く衝撃を加えれば、壊すことが出来るかもしれない。
狙いを悟られないように――杭を背にし、マルクスを睨み付ける。
彼は遂に俺の傍まで歩み寄ると、流れるような仕草で俺の胸をぐい、と押しつけた。
(……っ!)
壁に押し固められ、肺から無理やり空気が漏れる。
「お前は無知なようだからついでに教えてやる――本来わざなしとはこう扱うものだ」
胸にかかる体重が増す。
じわり、と骨がきしむほどの圧。
視界が滲む。
(……あと少し……っ)
背中のひび割れた杭へ、体重が乗る。
押しつけられれば――きっと壊れる。
(まだだ、もっと揺らせ)
「……マルクス、お前は……こんな真似でもしないと、俺に勝てないと思ってるんだろ」
わざと軽く吐き出すと、
マルクスの眉がぴくりと跳ねた。
「……はあ?」
剣より冷たい声だった。
「お得意の魔法を封じて、毒まで仕込んで――
それでようやく“勝てるかも”って、そう思ってんだろ?」
「……調子に乗るなよ」
押しつけられている胸の圧が、一段階重くなる。
皮膚が軋む。呼吸が詰まる。
けれど――まだだ。もっと怒らせろ。
「青寮の秀才サマが、ずいぶん必死だな」
マルクスの瞳が細くなる。
その色――翠が、氷のように冷えた。
「……お前みたいな出来損ないに、言われる筋合いはない」
「対等に戦えば勝てません~って、最初から分かってるんだろ。
だから――わざなし相手に、こんな手まで使ってんだ」
その瞬間。
マルクスの口元が、
ゆっくりと、怒りで歪んだ。
「……言ってくれるじゃないか」
足が、振りかぶられた。
「本来――」
刹那。
「わざなしは、こう扱うんだッ!」
ドン、と腹に鋭い蹴りが叩き込まれた。
肋骨が悲鳴を上げる。
床に転がされながら、全身が跳ねる。
そして――衝撃が、背中の杭へと伝わった。
乾いた音が僅かに響く。
マルクスが息を整えながら近づく。
冷徹な瞳を向け、もう一度足を振り上げた。
そして――
振り下ろされた蹴りが、杭に重なるように俺の体を叩きつける。
――メリッ。
ひび割れの杭が悲鳴を上げると同時だった。
……絶たれていた魔力の流れが、僅かに戻った。
happyホリデッド(過去形)




