23 うろんな生徒たち
「はーい、みんな集まってー!
今日は補助魔法の実技をやりまぁす♡」
エバ先生の声が広場に響くと、生徒たちがざわついた。
攻撃でも防御でもない地味な分野だが、魔法使い同士生きていくには重要な魔法だという。
「使うのは杖のみ! 右隣の人と二人組になって実践してもらいます。
座学で学んだ事を思い出して、相手の魔力の流れを整えてあげてね。
暫くしたら教壇の前でやってもらうからそのつもりで! それじゃあスタート♪」
苦手だった体育の発表を思い出す。
前に出ると言うことは、失敗も全部見られると……。
そんな事を考えていると、左隣にいたクライドに肩をトントンと叩かれた。
「クライド……お前が相手で心強いよ。よろしくな」
クライドは無言のまま、眼鏡を指で押し上げた。
「初めはどっちが掛ける?」
尋ねると、クライドは無言で杖を構えた。
じゃあ、大人しくお手並み拝見と行こう。
クライドが呪文を唱える。
こういうのは受け手側の意識も大事らしい。
ということで、魔力の流れや接続をしっかりと意識する。
(……あ。流れが変わっていく)
クライドの魔力は穏やかで安定していた。
自分の中に混沌と渦巻いていた何かが、整然と形を変えていく感覚。
なんというか、この感じはクライドらしい。
(こういう魔法は性格が出るのか?)
俺には相性の良し悪しは判断出来ないが、多分悪くない気がする。
「さすが俺のルームメイトって感じだな」
そう言うとクライドは無言で頷いた。
いつもながら堂々としているというか何というか……ブレないな。
次は俺の番だ。
クライドに杖を向け、習った通りに意識し――唱える。
手探りだが、なんとか流れは掴めた。形を整えるように念じてみる。
が……本当に上手く行っているのか? 全然分からん。
「……クライド、どんな感じだ?」
クライドは黙っている。
何だよ、不安になるな……!
しかしそんな懸念をよそに、クライドは静かにピースサインをして見せた。
上手く行ったらしい。
「もうちょっと喋ってくれてもいいんだぞ、クライド」
「……」
(ま、急かしたら良くないよな)
自然に話してくれるのを待とう。
ぼけーっとしていると、案外彼はすぐに口を開いた。
「……押し付ける感じも無い。自然に整えられている。だけど……重い。
もっと軽くないと、受け手の制御が難しい。……かもしれない」
「なるほど?」
そんなに力を込めたつもりはなかったが、クライドが言うならそうなんだろう。
言われた通り、先程よりも控えめを意識してやってみる。
「どうだ?」
「……上々」
上々か。良いと受け取っておくぞ、クライド。
さて、他の生徒たちはどうしているだろうか。
横目で見ると――
「ロア、無理に力を入れちゃ駄目だぞ! 詰まるから!」
「わ、分かってる……けど、うまく……読めない……」
カイトとロアという見慣れないコンビを発見。
ロアの「魔法が得意ではない」という言葉は本当のようで、苦戦しているのか手が小刻みに震えていた。
カイトは粘り強くコツを教えている。意外と面倒見が良いのかもしれない。
やがて発表タイムになった。
俺とクライドは難なく成功。エバ先生からもお褒めの言葉をいただいた。
「じゃ、次のペアは――ミズ・ルヴァトールとミズ・ハートフィールド!」
エバ先生が指名した瞬間、ユキホが小さく肩をすくめた。
ミズカは気持ち悪いくらい、にこやかに笑っている。
「改めてよろしくね、ユキホちゃん」
「は、はい……!」
二人は向かい合い、ミズカが杖を向けた。
次の瞬間――
「…………っ、う、うぇっ……!? な、なんか、ぐらぐらする……っ」
ユキホが思わず後ずさりした。
明らかに顔色が青い。足元がふらついている。
ミズカは、まるで困ったように眉を下げて笑った。
「ごめんね~。ユキホちゃんの魔力、すごく繊細なの。
だから、ちょっと触るだけでぐちゃぐちゃに乱れちゃうみたい。
ステージで緊張してるからかもね、あはっ」
ユキホは涙目でエバ先生を見る。
「せ、先生……」
ミズカは笑ったまま、首をかしげる。
「先生、ペア変えてもらえません? ユキホちゃんの魔力、ちょっと弱すぎて……
あたし、力加減が難しくて困っちゃうんです」
エバ先生は瞬きもせず――
でもその奥の目だけが冷静に状況を見ていた。
(見抜いてるな……)
「……そうね。ミズカちゃんは補助魔法が上手だから、
ユキホちゃんには少し刺激が強すぎたのかもしれないわね」
にっこり笑って、それでいて一切ミズカの――恐らく嘘、には触れない。
「ユキホちゃん、大丈夫? ほら、水飲んできて。
次はわたしがペアを選ぶから安心しなさい」
ミズカは可愛く手を合わせる。
「ごめんねユキホちゃん。また今度ね~?」
ユキホはかすかに震えながらも、何も言わずに頷いた。
(……ミズカ、やっぱり何か隠してるよな)
エバ先生はユキホの背を優しく押しながら、チラッとだけミズカの方を見た。
(先生も大変だな……)
「次、ミスター・マルヴェクス、ミスター・ハロルド!」
名前を呼ばれ、二人が前に出る。
ハロルドと呼ばれた少年は肩を揺らしながら緊張していたが、マルクスは相変わらず落ち着いた足取りで教壇の前へ進んだ。
「始めてちょうだい」
エバ先生の指示に、マルクスは静かにハロルドの腕へ手を添える。
詠唱は短い。動きも控えめ。
だが――
魔力の流れだけは驚くほど滑らかだった。
(俺にも分かる。ちょっと納得いかねぇけど……)
足元の灯りがほのかに揺れ、
ハロルドの肩から余分な力がすっと抜けていく。
(……うまい。さっきまでの生徒達とは別次元だ)
周囲の生徒たちも息をのむ。
エバ先生はふわっと笑って手を叩いた。
「まあ……綺麗な流れ。加減がとっても上手!
あなた、本当に青寮? 翠寮じゃなくて?」
「青寮の学生は優秀ですから」
マルクスは肩をすくめて笑った。
それから二人の実技も終わり、他の生徒たちの順番も次々に過ぎていく。
(みんな、得意と不得意がはっきりしてるな……)
たまにはこうして全体を見てみるのも悪くない。
(でも、もしかしたらこの中に……あの爆発事件を起こした奴がいるのかもしれないのか)
胸に浮いたざらつきは、授業が終わっても消えなかった。
◇
その日の夜。
夜気が窓から入り込み、肌がひやりとする中、俺は一人考えていた。
『お前の正体を知っている 今夜 旧校舎へ来い』
あの一行だけが書かれた紙。
……逃げる選択肢はない。
どのみち、正体を探られているのなら――自分から行くしかない。
空気が澄んでいく夜の気配の中、俺は旧校舎へ続く道をゆっくりと歩き出した。
もうすぐクリスマスなので
☆いっぱいくれたら嬉しいです。




