表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/31

23 うろんな生徒たち

「はーい、みんな集まってー!

 今日は補助魔法の実技をやりまぁす♡」


 エバ先生の声が広場に響くと、生徒たちがざわついた。

 攻撃でも防御でもない地味な分野だが、魔法使い同士生きていくには重要な魔法だという。


「使うのは杖のみ! 右隣の人と二人組になって実践してもらいます。

 座学で学んだ事を思い出して、相手の魔力の流れを整えてあげてね。

 暫くしたら教壇の前でやってもらうからそのつもりで! それじゃあスタート♪」


 苦手だった体育の発表を思い出す。

 前に出ると言うことは、失敗も全部見られると……。

 そんな事を考えていると、左隣にいたクライドに肩をトントンと叩かれた。


「クライド……お前が相手で心強いよ。よろしくな」


 クライドは無言のまま、眼鏡を指で押し上げた。


「初めはどっちが掛ける?」


 尋ねると、クライドは無言で杖を構えた。

 じゃあ、大人しくお手並み拝見と行こう。


 クライドが呪文を唱える。

 こういうのは受け手側の意識も大事らしい。

 ということで、魔力の流れや接続をしっかりと意識する。


(……あ。流れが変わっていく)


 クライドの魔力は穏やかで安定していた。

 自分の中に混沌と渦巻いていた何かが、整然と形を変えていく感覚。

 なんというか、この感じはクライドらしい。


(こういう魔法は性格が出るのか?)


 俺には相性の良し悪しは判断出来ないが、多分悪くない気がする。


「さすが俺のルームメイトって感じだな」


 そう言うとクライドは無言で頷いた。

 いつもながら堂々としているというか何というか……ブレないな。


 次は俺の番だ。


 クライドに杖を向け、習った通りに意識し――唱える。

 手探りだが、なんとか流れは掴めた。形を整えるように念じてみる。

 が……本当に上手く行っているのか? 全然分からん。


「……クライド、どんな感じだ?」


 クライドは黙っている。

 何だよ、不安になるな……!

 しかしそんな懸念をよそに、クライドは静かにピースサインをして見せた。

 上手く行ったらしい。


「もうちょっと喋ってくれてもいいんだぞ、クライド」

「……」

(ま、急かしたら良くないよな)


 自然に話してくれるのを待とう。

 ぼけーっとしていると、案外彼はすぐに口を開いた。


「……押し付ける感じも無い。自然に整えられている。だけど……重い。

 もっと軽くないと、受け手の制御が難しい。……かもしれない」


「なるほど?」


 そんなに力を込めたつもりはなかったが、クライドが言うならそうなんだろう。

 言われた通り、先程よりも控えめを意識してやってみる。


「どうだ?」

「……上々」


 上々か。良いと受け取っておくぞ、クライド。


 さて、他の生徒たちはどうしているだろうか。

 横目で見ると――



「ロア、無理に力を入れちゃ駄目だぞ! 詰まるから!」

「わ、分かってる……けど、うまく……読めない……」

 カイトとロアという見慣れないコンビを発見。

 ロアの「魔法が得意ではない」という言葉は本当のようで、苦戦しているのか手が小刻みに震えていた。

 カイトは粘り強くコツを教えている。意外と面倒見が良いのかもしれない。


 やがて発表タイムになった。

 俺とクライドは難なく成功。エバ先生からもお褒めの言葉をいただいた。


「じゃ、次のペアは――ミズ・ルヴァトールとミズ・ハートフィールド!」


 エバ先生が指名した瞬間、ユキホが小さく肩をすくめた。

 ミズカは気持ち悪いくらい、にこやかに笑っている。


「改めてよろしくね、ユキホちゃん」

「は、はい……!」

 二人は向かい合い、ミズカが杖を向けた。

 次の瞬間――


「…………っ、う、うぇっ……!? な、なんか、ぐらぐらする……っ」


 ユキホが思わず後ずさりした。

 明らかに顔色が青い。足元がふらついている。

 ミズカは、まるで困ったように眉を下げて笑った。

「ごめんね~。ユキホちゃんの魔力、すごく繊細なの。

 だから、ちょっと触るだけでぐちゃぐちゃに乱れちゃうみたい。

 ステージで緊張してるからかもね、あはっ」


 ユキホは涙目でエバ先生を見る。


「せ、先生……」


 ミズカは笑ったまま、首をかしげる。


「先生、ペア変えてもらえません? ユキホちゃんの魔力、ちょっと弱すぎて……

 あたし、力加減が難しくて困っちゃうんです」


 エバ先生は瞬きもせず――

 でもその奥の目だけが冷静に状況を見ていた。


(見抜いてるな……)


「……そうね。ミズカちゃんは補助魔法が上手だから、

 ユキホちゃんには少し刺激が強すぎたのかもしれないわね」


 にっこり笑って、それでいて一切ミズカの――恐らく嘘、には触れない。


「ユキホちゃん、大丈夫? ほら、水飲んできて。

 次はわたしがペアを選ぶから安心しなさい」


 ミズカは可愛く手を合わせる。


「ごめんねユキホちゃん。また今度ね~?」


 ユキホはかすかに震えながらも、何も言わずに頷いた。


(……ミズカ、やっぱり何か隠してるよな)


 エバ先生はユキホの背を優しく押しながら、チラッとだけミズカの方を見た。


(先生も大変だな……)


「次、ミスター・マルヴェクス、ミスター・ハロルド!」


 名前を呼ばれ、二人が前に出る。

 ハロルドと呼ばれた少年は肩を揺らしながら緊張していたが、マルクスは相変わらず落ち着いた足取りで教壇の前へ進んだ。


「始めてちょうだい」


 エバ先生の指示に、マルクスは静かにハロルドの腕へ手を添える。

 詠唱は短い。動きも控えめ。


 だが――

 魔力の流れだけは驚くほど滑らかだった。


(俺にも分かる。ちょっと納得いかねぇけど……)


 足元の灯りがほのかに揺れ、

 ハロルドの肩から余分な力がすっと抜けていく。


(……うまい。さっきまでの生徒達とは別次元だ)


 周囲の生徒たちも息をのむ。

 エバ先生はふわっと笑って手を叩いた。


「まあ……綺麗な流れ。加減がとっても上手!

 あなた、本当に青寮? 翠寮じゃなくて?」

「青寮の学生は優秀ですから」


 マルクスは肩をすくめて笑った。

 それから二人の実技も終わり、他の生徒たちの順番も次々に過ぎていく。


(みんな、得意と不得意がはっきりしてるな……)


 たまにはこうして全体を見てみるのも悪くない。


(でも、もしかしたらこの中に……あの爆発事件を起こした奴がいるのかもしれないのか)


 胸に浮いたざらつきは、授業が終わっても消えなかった。



 その日の夜。

 夜気が窓から入り込み、肌がひやりとする中、俺は一人考えていた。


 『お前の正体を知っている 今夜 旧校舎へ来い』


 あの一行だけが書かれた紙。


 ……逃げる選択肢はない。

 どのみち、正体を探られているのなら――自分から行くしかない。

 空気が澄んでいく夜の気配の中、俺は旧校舎へ続く道をゆっくりと歩き出した。


もうすぐクリスマスなので

☆いっぱいくれたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ