表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/31

21 ラブレター・フォー・ユー

 旧校舎の方角を見ると、既に修理が行われたのか、外側はすっかり元通りになっていた。


(魔法って便利だな~。普通の工事だったらもっと掛かるぜ)


 専門家の技術、お目にかかりたいものだぜ。

 ところで今から俺は、特別課外授業を受ける。


 アーガンダル校長が直々に「今後、君はエバ先生とユーゴ先生の指導を受ける」と言ったやつだ。


「ミスター・マヤ! Welcome♪」


 指定の部屋へ行くと、エバ先生が扉を開けてくれた。

「今日の授業の目的、先に言うわね」

 エバ先生は指を折る。

「1つ。魔力を感じ取る力を伸ばす。

 2つ。そうすることで、出力調整を上達させる。

 わかったかしら?」


 俺が返事をするより先に、低い声が飛び込んできた。

「3つ。無言詠唱でガード出す」


 椅子にだるそうに座るユーゴ先生が、あくび混じりに手を挙げている。いたのか。


「無言詠唱って、上級者がやるやつじゃないんすか」

「せやな。お前が広範囲に張るんはまだ無理や。たぶん」


 ユーゴ先生は少しだけ視線を落として、俺の胸元あたりを指さす。


「せやから、狭くてええ。

 咄嗟に心臓だけ守れるようになっとき」


 相変わらず、先生の声に感情はほとんど乗っていない。

 なのに、妙に重みがある。


「とっても大事なことね! それじゃあ始めましょうか」



 エバ先生が両手を合わせてにっこり微笑んだ。

 ユーゴ先生はのっそりと立ち上がり、近づいてくる。


「まずは軽い確認や。スナオ、俺、見とったで。お前この前、上級生吹っ飛ばさせとったやろ。俺の目は誤魔化されへん」


「!? ……見てたんですか」


「そらな。決闘の時からお前には目ぇつけてたんや。

 よぉ~やったなあ。ほなあの時使った呪文、今ここで撃ってみ」


「え、あれをですか……?」


「せや。で、今度はちゃんと制御して撃て。

 たまたま上手くいっただけかどうか、見させてもらうわ。

 俺があの的に適当な魔法当てるから、任せたで」


 ユーゴ先生はゆるゆるだったネクタイを軽く締めなおすと、練習用の的――木製の人形に杖先を向けた。

 とりあえず俺も先生に杖を構え、深呼吸。


「ほないくぞ」


 先生の詠唱に合わせて呪文を呟く。

 頼む、上手く行ってくれ!


「……《アンプリフィカーレ》」


 先生の杖先が柔く光った。

 そこからへなへなとした光線がゆったりと飛んでいき……木製の人形が、ぱちっと音を立てて弾けた。

 ……ほんの、爪先程度。


「しょぼ」


 ユーゴ先生が即座に言った。


「あらぁ、ユーゴ先生の攻撃魔法が一撃でHIT! するなんて珍しいじゃないですか♪」

「せやな」

(そうなのか……)


「ではミスター・マヤ、私の言うとおりに練習してみましょう。そしたら今の魔法ももっと上手く使える筈です!」


 エバ先生がウィンクしてポーズを決める。

 ……優しくお願いします。



「おえぇぇぇ…………」


 数十分後、俺は気持ち悪くなっていた。

 エバ先生に手渡された水をゴクゴク飲み干す。


「魔力の流れを制御するって難しいでしょう? でも慣れたら気持ち悪さも無くなるわ。

 どう? 魔法を使おうとしたときの魔力の流れ、感じ取れる?」


 目を瞑って精神統一する。

 確かに、何となく分かってきた。

 何かが体を駆け回るような違和感。

 時々ぞわりとした感触が腹の中に走り、思わず身震いする。


「年取ると、それ感じられへん人も出てくる。

 そうなったら、魔法使いとしては下り坂や。感性は大事になぁ」


「その方がマシな気が……」


「あらぁ、感じ取れてたものが感じられなくなるってことは、力が無くなるって事よ。魔法が使えなくなっちゃうのよ?」


「まぁ……完全に使えんようになった、っちゅー話は聞いたことあらへんけどな」


「そうなんですか」


「……せやけど、元に戻った話も、あんま聞かんな」


 ユーゴ先生がぼそっと呟いたのを、俺は聞き逃さなかった。


「じゃあ一旦休憩しましょう。ユーゴ先生の授業で♡」

「せやなあ。俺の授業はやさしーからなあ」

「……」


 本当に思ってるんだろうか。



「――ほな、構えろスナオ」


 ユーゴ先生の合図で、俺とエバ先生は互いに杖を向ける。

 エバ先生はもちろん、ユーゴ先生の代わりに攻撃魔法を仕掛けるつもりだ。

 空気がぴん、と張り詰める。


「無詠唱いうんは、迷いを省く技術や。

 集中せえ。発動条件が詠唱やなくて腕の動きになるだけや。しっかり合わせろ」


「……はい」


 深く息を吸い、意識を前へと押し出す。


(詠唱せずに魔法を撃つ感覚、謎すぎる)


「いくで。エバ先生、弱めに頼むで」

「任せて♡」


 ユーゴ先生が手を挙げた瞬間、エバ先生が呪文を唱えて杖が振られ、閃光が飛ぶ。


「――っ!」


 ほぼ反射的に、教わった通りに腕を動かす。

 だが、閃光はそのまま俺の髪を僅かに掠め、背後の人形の肩を砕いた。


「失敗やな。もう一回いこか」

「はい……」


 まあ、最初から上手くいったりはしないか。ちょっと残念。

 その調子で何度も繰り返すうちに、段々と先生のアドバイスの意図を読めてきた。

 そしてついに――

 ぱん、と小さな音が弾ける。


 ごく狭い――指先ほどの範囲。

 それでも確かにそこに“壁”があったのだろう。

 エバ先生の放った閃光が、やっと軌道を変えた。


「……できた、のか?」


 ほんの一瞬の出来事だったが、確かな手応えが残っている。


「今の、ガチで成功やで」


 ユーゴ先生が目を細め、口元をわずかに上げる。


「範囲はちっさすぎて実用には程遠い。けどな――

 無詠唱で形になった時点で、初学者としては上出来もええとこや」


 エバ先生が拍手し、満面の笑みを向けてくる。


「Bravo♪ さすがスナオくんだわ。

 今の、ほんの一瞬だったけど……魔力の出力がすごく綺麗だった」

「そうなんですか?」

「ええ。もっと練習したら、確実に上達するわ! ふふ、成長が楽しみね?」


 エバ先生はふんわりした笑顔のまま、肩にそっと手を置いた。


「この調子で、少しずつ自分のペースで進んでいきましょう?

 急がせたりはしないから」


 ユーゴ先生が鼻を鳴らす。


「ほら褒めてもろてるうちに、もう一回やるぞ。

 実戦やと一発で出せんかったら死ぬねんから」


「……はい!」



 それから数日は、放課後に授業を受けた。


(今日は上出来だったな……)


 あくる日の特別授業が終わり、寮へ向かう道を歩く。

 夕陽が傾き、長い影を落としている。

 誰もいない廊下、教室を横に歩いていると、ふと少し前のことを思い出した。


(そういえば最近、ロアに会ってないな)


 ――そう思った矢先。


 ばしゅっ。


 目の前で、空気が裂けた。


「……っ?」


 反射的に腕を上げる。

 煙のような黒い粒子が散り、その中心から、焦げかけた一枚の紙がひらりと落ちてきた。


 そのまま胸のあたりに、すとん、と収まる。


「何だ、今の……」


 拾い上げると、紙の端は焼け焦げ、触れるとぼろりと崩れそうなくらい脆い。

 だが中心だけは妙に綺麗に残っており、そこにたった一行。


 『お前の正体を知っている 今夜 旧校舎へ来い』


 心臓がひゅっと冷える。

 紙の裏にも、余白にも何も書かれていない。

 ただ、その一行だけが、焼け跡の中で異様に浮いていた。


(俺の正体?)


 旧校舎。ついこの前、爆破されたあの場所だ。

 修復が済んだとはいえ、未だに立ち入りは禁止されている。


 そこに来い、と?


 喉が乾く。

 誰の仕業かなど、考えるまでもない。


(俺の正体って――この体のことか? それとも……)


 ……俺が転生者であることを知っている人物がいる?

 

(先生に相談するべきか?)


 特別授業で世話になってるし、言えばエバ先生もユーゴ先生も動いてくれるだろう。

 だが、どうするにせよ。


「……向かわないって選択肢は、ねぇか」


 声に出すと、腹の底が少しだけ決まった。


 逃げたところで、相手が諦めるとは思えない。

 むしろ、もっと悪い形で来られる可能性すらある。


 だったら、

 ――自分から行くしかない。


 拳を握り、細く息を吐く。

 落ちた紙は、指の間でひらりと崩れ、灰になった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ