20 秘密がピンチ!?
――どん。
二の腕に、鈍い衝撃が走る。
「スナオ、……、……よ!」
聞き覚えのある声。
遠くて、焦っていて、少し震えている。
「むにゃ、あと1時間……」
「スナオ! 起きろってば!」
とてつもない揺さぶりに目を開くと、ぼやけた視界の向こうに、カイトの顔があった。
いつもの能天気な笑顔はない。
驚きと興奮の混ざった顔だ――。
「……なんだよ……?」
「事件だって!」
その一言で、眠気が引いた。
「校舎が……壊されてる!!」
(……?)
意味を理解する前に、外から騒ぎ声が流れ込んでくる。
足音。
大人の怒鳴り声。
生徒たちのざわめき。
けたたましいベルの音。
――これは、ただ事じゃなさそうだ。
俺は布団を蹴って立ち上がり、窓へ駆け寄った。
外が、妙に明るい。
朝焼けに染まる空。
その下で――今は使われていない校舎の一角が、欠けていた。
壁が抉られ、床が崩れ、瓦礫が散らばっている。
その周囲を覆うように、テープのようなリボンのような薄い光のようなものが何重にも張られていた。
(バリケード的なもんか? 事件現場によく張ってあるような……こっちの世界でも似たような形になるんだな)
などと思っていると、見慣れない制服の大人たちの存在に気づく。
教師ではなさそうだ。警察かなんかだろうか。
「……爆発でしょうか?」
シエルが不安げに呟く。クライドもどこか不穏な表情で窓に張り付いている。
カイトはいかにも現場に野次馬しに行きそうなものだが、よく耐えたな。少しそわそわしている。
「誰かが魔法薬の調合実験してたとか」
「誰もいない旧校舎でですか……?」
「秘密のレシピ試してたんじゃね?」
「うーん……」
カイトとシエルが言葉を交わす中、ふと――悪い予感がよぎった。
(こういう状況って、大体そうだ。だが、まさかな……)
これがもしや、事故ではないなんてこと……あるわけないよな。
「スナオ」
低く冷徹な声が、背後から落ちてきた。
振り返ると、コーネリアス先生が立っていた。
「先生!?」
「ここ、男子寮ですけど!?」
ルームメイト達が慌てふためく。
先生はいつも通り背筋は伸びている。
だが、目だけが、いつもより鋭い。いつも鋭いけど。
「来い」
先生はまっすぐ俺を見てそう言った。
「え……俺?」
「いいから来い。その方が身の為だ」
理由は言われない。
でも、明らかに……断れる雰囲気じゃなかった。
◇
校長室の空気は、重かった。
いつも入るたびに変わる内装も、今日はどこまでも暗い。
扉を閉めた瞬間、空気が変わった。
奥に進むと、薄明りの中に人が何人もいる。
そこに集まっていたのは……アーガンダル校長、教師数名、そして――見慣れない大人たち。
「座りたまえ、スナオくん。君とはよく会うね」
校長先生は気まずい顔をしている。
とりあえず、大人しく椅子に腰を下ろす。
「もう知っているかもしれないが……今朝、旧校舎の封鎖区域で――魔法による破壊が起きた。
人的被害はない」
少しの、間。
「だが同時刻――王国評議会、アリス監査官が、何者かに襲撃を受けた」
「……え?」
言葉が、遅れて届く。
昨夜の夢。
白い空間。
アリスさんの声。
(……今朝まで、話してたのに?)
「でも俺、さっきまでアリスさんと話してましたよ。……夢の中で」
なんだか妙にロマンチックな物言いになってしまうが、事実である。
「……夢の中ぁ? 監査官って、寝てる人の夢にまで入り込める魔法、使えるんか?」
教師複数名の中に居たユーゴ先生が怪訝な声を上げる。
恐らくこの中でも特に、校舎が壊されたことに関して頭を抱えてそうなうちの一人だ。
コーネリアス先生が溜息を吐く。
「さすが王国評議会の監査官。にも拘らず、今回のような事態が起きてしまうとは」
彼女もまた、特に頭を抱えてそうである。
「夢の中で感じる時間と現実での時間の感じ方は異なるからね。だけど今朝まで話せていたということは、君と話した直後に襲われたか、途中で襲われたか……」
「アリスさんは無事なんですか?」
「容体は良くない」
突然、聞き慣れない声に返事されて驚いた。
校長が口を開く。
「彼らは騎士団に所属する魔法使いだ。通報を受けて旧校舎の破壊痕を調べてくれたのだが……」
校長がちらりと大人たちを見たので、俺もそれにならう。
見知らぬ大人たち――よく見ると、さっき窓の外にいた見慣れない制服と同じものを着ている。
そして目元に仮面をつけていて顔はよくわからないが、男女二人組だ。
(このどっちかの声か)
そう思って見ていると、二人が交互に口を開いた。
「外部犯行では、ない」
「その可能性は低い」
……二人とも、ロボットみたいな声だな。
校長が続ける。
「今回の校舎破壊は、アリスさん襲撃の為の陽動だと見ている。
そして、侵入者の仕業ではなく――学内にいた者の仕業だと、私たちは考えているよ」
静かに、息を吸う。
「内部に……? 生徒か誰かがやったってことですか?」
「その可能性があるね」
校長が眉を下げると同時に、ユーゴ先生の隣に立っていたエバ先生も息を呑んだ。
「信じられないわ……! うちの生徒がそんなことをするなんて!」
すっかり青ざめてしまっているが、声は相変わらず可憐だ。
ユーゴ先生が腕を組む。
「生徒が問題起こすんは、まあ……珍しい話やないけど。今回のはたちが悪すぎるわ」
ここにいる教師全員が、生徒の仕業でなければ良いと思っているのだろう。
無感情そうな騎士団の二人が浮いて見える。
「本修理と調査は、専門家に要請した。応急処置は教師陣が尽力してくれたがね」
アーガンダル校長は困ったように背もたれに背を預けた。
学校内だけでは、終わらせられない……そういう意味か。
「詳しい調査は、コーネリアス先生を中心に行う。忙しくなるよ、先生」
「……」
コーネリアス先生の眉間に皴が刻まれる。
「一体誰がアリスさんを襲ったんでしょう?」
そう尋ねると、教師陣は何かを考えこむような素振りを見せた。
ロボットのような二人組が静かに俺の方を見ているのが気になる。
すると二人はぽそぽそと、聞き取れないような声で話し始めた。横目で俺を見ながら。
(感じ悪いな……)
そう思いながら見ていると、校長は軽く手を叩いた。
「さて、用件は済みましたな。お二人には一旦お引き取り願おう」
校長がそう言うと、二人は律儀にもぺこりと会釈をしてぞろぞろ部屋を出て行った。
ぱたんと扉が閉まる。
校長は真剣なまなざしで、俺に向き直った。
「それで、君を呼んだ理由だが……」
校長が一瞬言葉を詰まらせる。
深い深いため息をついたあと、肘をついたまま手を組んで、がっくりとした調子で彼はこう言った。
「……実は、アリスさんが持っている情報が盗まれたんだよ……」
「えっ」
……おい、それってまさか。
「スナオくん、君の情報だ。君の検査結果が盗まれてしまったようだ……」
「そ、そんな!?」
ちょっぴり予想はしてた。してたけど、ダメだろそれ!
くそ、アリスさんめ、あんなことを言っておいてまさか情報を流出させてしまうとは……!
「……俺、大丈夫なんでしょうか」
間髪入れず、答えが返ってくる。
「相手は国の捜査官を襲うような怖いもの知らずの連中だ。……保証はできない」
「そんな……」
思わず同じセリフが漏れる。
「もちろん我々としても警備には万全を期す。が、スナオくんにはいざというときに身を守る術を、しっかり身につけておいてもらおうと思ってね」
コーネリアスさんが無言で、ユーゴ先生とエバ先生を前に押し出した。
「今日から君は彼らの特別課外授業を受けてもらう。励むんだぞ!」
校長先生の明るい声が響き渡った。
……いいのか、そんな対策で……!?
気になるキャラとかいたらどこかしらにコメントくれると励みになります!




