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19 アリスの予言

「スナオさん。また会いましたね」


 まぶたの裏が突然色づき、俺は思わず目を開ける。

 そこは寮の部屋ではなかった。


 白い霧が漂い、床も空も境界が曖昧で、童話の挿絵みたいな不気味な静けさの世界。

 その中心に、王国評議会の監査官――アリスさんが、微笑を浮かべて佇んでいた。


「……ご無沙汰してます」


 自分の声が、やけに澄んで聞こえる。夢の中独特の感覚だ。


「ここは貴方の夢の中ですよ。こういう魔法も、世の中にはあるんです」


 アリスさんが指先で空間を弾くと、霧がきらりと音もなく割れ、絵本のページのように景色がゆれる。


 こんな魔法、本当に存在するのか……。


「便利ですね」

「ふふ。使い方次第、ですけどね」


 彼女は静かに笑い、足元にいつの間にか現れた白い椅子へ腰かけた。

 俺の後ろにも椅子が用意されている。

 促されるまま座った。感覚が妙にふわっとしている。


「今回は、緊急でお伝えしたいことがあって。少しだけ、お邪魔しました」

「伝えたい事?」

「はい。最近、周囲で妙な動きが増えています。

 貴方の記録を嗅ぎまわっている人がいるみたいですよ。まるで宝物を見つけたみたいに。

 心当たりのある人はいますか?」

「……多過ぎて……」

「ふふ。おかしなことがあれば何でも相談してくださいね。

 貴方を失うと、困りますから」

「はあ……」


 俺が次の言葉を待っていると、アリスさんは俺の方に向き直った。


「スナオさん。これからきっと、私たちは長い付き合いになります。

 少しお話ししませんか?」

「深夜ですよ」

「こうやって静かに話す機会なんて、そうそうありませんでしょう? それに夜は、秘密が話しやすい時間ですし」


 夢の中だからなのか、そう言われると何でもいいような気がしてくる。


「……どうぞ」

「実は私、この学校の卒業生でして。紫寮出身なんです。

 未来視が得意な寮ですよ」

「未来視、ですか」

「ええ。私も未来が少しだけ分かるんです。たとえば――」


 アリスさんは、子どもみたいに首を傾げて笑った。


「貴方はいずれ、大きな渦の中心に立ちます。……どうか、押し流されませんよう」


「……随分ざっくりしてますね」


「ふふ。正確な予言って、本当に難しいんですよ」


 アリスさんは軽く肩をすくめてから、落ち着いた視線をこちらへ戻す。

 その目はどこか、俺を測るようでもあり、懐かしむようでもあった。


「スナオさんを見ていると、幼いころに死んだ兄を思い出すんです。

 優しくて、どこか不器用で……平和が好きな人でした」


「お兄さんがいたんですね」

「ええ。よくからかって遊んでいましたよ。

 ……兄は、私のことをどう思っていたのかは分かりませんけど」


 アリスさんの声が少しだけ遠のいたように感じた。

 同時に、周囲の夢の景色がわずかに波打つ。


「――あら。時間みたいですね」

「え?」

「夢は長く保てないんです。伝えるべきことは伝えましたから……」


 視界がすうっと暗くなる。


 次の瞬間、俺は布団の中で飛び起きた。

 窓の外がうっすら明るい。夜明けだ。


(変な夢を見た後みたいな気分だな)


 考え込む間もなく、起床時間のベルが鳴り響く。

 今日も授業がある。普通の一日が始まるはずだ――


 ……にも拘らず。

 胸に残った違和感だけが、妙に後を引いて消えなかった。


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