18 夜の異変
それからセレンと共にロアに会いに行き、無事を伝えることに成功。
ロアはセレンを見ると安堵で崩れ落ちそうになっていた。
とりあえず――
セレンと俺の間の確執は一旦落ち着いた。
下手に噛みつかれることもこれで無くなるだろう。多分。
ロアにセレンを預け、俺はユキホと廊下を歩く。
「杖、直ってよかったな」
「うん! スナオくんも、セレンさんと仲直りできて良かったね」
「仲直り? ……まあそうだな。にしても、あのセレンを説得出来たのは、ユキホのおかげだな」
「そ、そうかな? 本心を言っただけだよ」
「だからこそセレンに響いたんだろ」
ユキホがはにかむ。
こんな穏やかな時間がずっと続けばいいのだが、まだ抱えている問題はいくつかある。
「あっ、見ろ、混血の星・スナオだ!」
「わぁ……やっぱりあの子、新入生の中で一番かっこいいんじゃない?」
通りすがり、生徒の一部が黄色い声を上げる。
妙な二つ名までつけられている……。
「あいつがセレンさんを……」
「混血のくせに。どんな卑怯な手を使ったのかしら」
半面、有名になるほど、却ってこういった声も上がるものだ。
「スナオくん……気にすることないよ。きっと一ヵ月後には噂も落ち着いてる!」
「そうだな……」
俺の平和な異世界生活の為に抱えている問題――好奇の目に晒されている、ということがまず1つ。
2つ目は……
「わ、スナオくん、どうしたの? 大丈夫!?」
揺れる水色のツインテールが目に入った瞬間、思わず身を隠してしまいユキホに心配される。
「ああ、ちょっと……会いたくない奴が」
ミズカだ。生徒たちの流れに逆らって、軽い足取りで奥の方を歩いている。
あいつは俺の事をわざなしだと何故か確信している。
いつ何をしでかすか分からない。
「そっか、スナオくんにもそういう人がいるんだ……」
ユキホもそっと腰を下ろす。
「上手くいかないもんだな、色々」
「……スナオくんは、身分とか、わざなしかマギアかとか、そういうの……なくなればいいって思ったことある?」
「そんなもん、無い方が良いに決まってる」
「私も……その方が良いと思う」
ユキホが膝をきゅっと抱えた。
新参者の俺には計り知れないが、この世界で生まれ育った人間には、俺なんかよりはるかにこの構造で悩んだり、壁にぶつかったりする事が多いんだろう。
そう思わせる視線だった。
……はっ。
そういえば、ユキホに訊こうと思っていたことがあった。
「そうだ、ユキホ。王国評議会って何なんだ」
「急だね……王国評議会っていうのは、この国の王様を補佐する偉い人の集まりだよ。国の大事なことはみんな評議会で決まるの。……普通の人は関わる機会はほとんど無いと思うけど……」
ユキホがきょとんとした顔を浮かべる。
「じゃあ、監察官って知ってるか?」
「監察官!? ……評議会の?」
「ああ。どんな仕事なんだ?」
「うーん……先生が前に言ってた話だけどね。国の事件とか、災害とか、貴族同士のいざこざとか……そういうめんどくさい問題を調べる人、って感じかな。
どうして?」
……信頼できる相手とはいえ、監察官――アリスさんの事を話すのはまずいか。
様子を見る限り、コーネリアスさんから聞いてるわけでも無さそうだ。
うっかり喋ったら巻き込みかねないしな……まあ、ユキホは俺がわざなしである事を知っているし、今更という気もしなくはないが。
「そういう組織があるって噂を聞いてな。気になっただけだ」
「そっか。でも、もしかしたらスナオくんもそういう所に関わる機会、これからあるのかもしれないね。ちょっとかっこいいかも……!」
「出来れば関わりたくないけどなあ……」
◇
夜――。
「スナオ、まだ起きてんのかー……?」
ルームメイト達が寝息をそろえる静かな部屋で、俺は書庫で借りた歴史本を読み耽っていた。
ふいに、カイトが眠そうに目をこすりながら起き上がる。
「すまん、起こしたか」
「いいよ……。お前も早く寝ろよ。明日、実技だぜー……」
カイトはそのまま言葉が溶けるように再び布団へ沈み、規則正しい寝息に戻っていった。
本を閉じて明かりを消す。
暗闇に目を慣らしつつ布団へ潜り込むと、ゆっくりと意識が沈んでいく――。
……はずだった。




