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11 都落ち

 セレンが決闘に敗北したという噂は、生徒主体で発行している学校新聞に載り、あっという間に学校中に広まった。


「スナオくん! 今日もかっこいーね!」

「よっ、学校一の美男子!」


 俺をわざなし扱いする噂は、すっかり落ち着いていた。


「スナオくん、モテモテだね……すごいや」

「はは……。手のひら返すのが早すぎんだよ、あいつら」


 全く嫌な気分だぜ。

 それは良いとして――なんだかユキホがやつれているように見える。


「……ユキホ、なんか、疲れてないか?」

「ちょっとだけ。実は翠寮でもスナオくんって有名人でさ、女の子たちからすっごいスナオくんについて聞かれるの……」


 おお……まさか、そんな夢のような現象が起きているとは。

 知恵を重んじる翠寮も色めき立つ事があるんだな。……流石に偏見が過ぎるか?


「それは……スマン」

「でも良かったよ、変な噂も消えたみたいだし」


 ユキホが微笑む。

 良かった。これで一歩、俺の平和な学園生活に近づいた。

 しかし、ユキホは気まずそうに、そして悲しそうに目をそらす。


「でも、今度は代わりに……セレンさんが……」


 ――セレンが?



 ユキホに話を聞かせてもらった所――

 どうやら、一連の騒ぎにより、セレンが貴族たちから厳しい目を向けられているらしい。


(まあ、あんな派手に負けちまったらそうなるか……)


 あの時は痛快だったものの、貴族社会ってメンツとかプライドとかややこしそうだし、少し気がかりではある。

 ……だって、彼女はまだ16歳だろう。

 多感な時期だ、多少大人びている(ように見えなくもない)とは言え、公衆の面前で恥を欠かせるのはやりすぎだったか?


「混血の英雄スナオー、どうした? 考え事か~?」


 中庭でぼーっと考えていると、カイトがおやつを買って戻ってきた。


「まあ……そんなところだ」

「はは、勝利の余韻に浸ってんのか? 分かるぜ~その気持ち!」

「はぁ、そんなんじゃねえよ……」

「はは! 冗談だって。お疲れさん」


 慣れた手つきでお裾分けのチョコレートを一欠片貰う。

 口に放り込むと、甘い。ややチープな味だが、それなりに美味い。


「うまい……。ありがとな、カイト」

「いいってことよ! ――さ、そろそろ次の教室行こうぜ。杖、ちゃんと持ったか?」

「ああ、忘れるわけ……あん?」


 ……あれ?無い。杖が。

 確かに仕舞ったはずだ。

 ……どこかで落とした?


「悪いカイト、杖、前の教室に置き忘れたかも知れねえ」

「マジ!? やっべーじゃん、一緒に取りいく?」

「いや、大丈夫だ。先に行って待っててくれ」

「合点承知!」


 カイトは二の腕を叩くと仰々しく駆けていった。


 ――仕方がない。教室に戻って探そう。

 もし見つからなかったら……先生に相談するしかないか……はぁ。



 教室に戻ってきた。

 幸い、杖は自分が座っていた席に丁寧に置かれていた。

 確かに懐に仕舞ったと思っていたんだが……立ったタイミングで落としたんだろうか。

 にしても、俺の座っていた席に丁寧に置くなんて、親切な奴もいるもんだ。


「危なかったぜ……」


 安堵から、思わず独りごちる。

 その瞬間。


「ほーんと! 杖は魔法使いの命なのにねえ」


 突如背後から降り掛かってきた聞き慣れない声に、俺は振り返った。


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