11 都落ち
セレンが決闘に敗北したという噂は、生徒主体で発行している学校新聞に載り、あっという間に学校中に広まった。
「スナオくん! 今日もかっこいーね!」
「よっ、学校一の美男子!」
俺をわざなし扱いする噂は、すっかり落ち着いていた。
「スナオくん、モテモテだね……すごいや」
「はは……。手のひら返すのが早すぎんだよ、あいつら」
全く嫌な気分だぜ。
それは良いとして――なんだかユキホがやつれているように見える。
「……ユキホ、なんか、疲れてないか?」
「ちょっとだけ。実は翠寮でもスナオくんって有名人でさ、女の子たちからすっごいスナオくんについて聞かれるの……」
おお……まさか、そんな夢のような現象が起きているとは。
知恵を重んじる翠寮も色めき立つ事があるんだな。……流石に偏見が過ぎるか?
「それは……スマン」
「でも良かったよ、変な噂も消えたみたいだし」
ユキホが微笑む。
良かった。これで一歩、俺の平和な学園生活に近づいた。
しかし、ユキホは気まずそうに、そして悲しそうに目をそらす。
「でも、今度は代わりに……セレンさんが……」
――セレンが?
◇
ユキホに話を聞かせてもらった所――
どうやら、一連の騒ぎにより、セレンが貴族たちから厳しい目を向けられているらしい。
(まあ、あんな派手に負けちまったらそうなるか……)
あの時は痛快だったものの、貴族社会ってメンツとかプライドとかややこしそうだし、少し気がかりではある。
……だって、彼女はまだ16歳だろう。
多感な時期だ、多少大人びている(ように見えなくもない)とは言え、公衆の面前で恥を欠かせるのはやりすぎだったか?
「混血の英雄スナオー、どうした? 考え事か~?」
中庭でぼーっと考えていると、カイトがおやつを買って戻ってきた。
「まあ……そんなところだ」
「はは、勝利の余韻に浸ってんのか? 分かるぜ~その気持ち!」
「はぁ、そんなんじゃねえよ……」
「はは! 冗談だって。お疲れさん」
慣れた手つきでお裾分けのチョコレートを一欠片貰う。
口に放り込むと、甘い。ややチープな味だが、それなりに美味い。
「うまい……。ありがとな、カイト」
「いいってことよ! ――さ、そろそろ次の教室行こうぜ。杖、ちゃんと持ったか?」
「ああ、忘れるわけ……あん?」
……あれ?無い。杖が。
確かに仕舞ったはずだ。
……どこかで落とした?
「悪いカイト、杖、前の教室に置き忘れたかも知れねえ」
「マジ!? やっべーじゃん、一緒に取りいく?」
「いや、大丈夫だ。先に行って待っててくれ」
「合点承知!」
カイトは二の腕を叩くと仰々しく駆けていった。
――仕方がない。教室に戻って探そう。
もし見つからなかったら……先生に相談するしかないか……はぁ。
◇
教室に戻ってきた。
幸い、杖は自分が座っていた席に丁寧に置かれていた。
確かに懐に仕舞ったと思っていたんだが……立ったタイミングで落としたんだろうか。
にしても、俺の座っていた席に丁寧に置くなんて、親切な奴もいるもんだ。
「危なかったぜ……」
安堵から、思わず独りごちる。
その瞬間。
「ほーんと! 杖は魔法使いの命なのにねえ」
突如背後から降り掛かってきた聞き慣れない声に、俺は振り返った。




