48.和解
「……ユーリア、出られるか?」
お兄様が約束通りに迎えにきた。複雑な心境のままだったけど、まだお兄様に不満はたくさんあったけど、わたしはばあやの顔を見た。頷いて送り出そうとしてくれる。そんなばあやの思いを踏み躙ることはできなくて、仮面をかぶって部屋を出た。
「こちらにおいで」
そう言って、お兄様に手を引かれる。奥方様にバレたら怒られるんじゃ、そんな余計なことばかりを考えて、連れられるがままいつの間にか屋敷の屋根の上にいた。
「……屋根の上?」
わたしが驚いてお兄様を見ると、傷ついたような表情を浮かべたお兄様が優しく笑った。こっちの方が傷ついているのに。そう思いながら、お兄様を見返す。
「すまなかった。ユーリア。……学院の者に忠告されたんだ。私には女生徒の、ファンが多い。そんな中、距離感がおかしい女児が現れたら、嫉妬されて酷い目に遭わされるんじゃないか、と」
そう言うお兄様の顔は気まずそうだった。
「……ご友人ですか?」
わたしがそう言うと、お兄様の顔は朱に染まった。
「ゆ、友人という関係のほどの者ではない」
お兄様のその台詞に、あぁ、友人かと納得した。先日からかってきた人というのもその人なのだろう。
「……立場もあって、良くも悪くも私は注目を受けやすい。出世頭だと思って恋慕を募らせる女生徒もいる」
お兄様の顔を見て思う。その女生徒たちはお兄様の地位とかもあるけど、その整った外見に釣られている人も多いのではないだろうか。
「ユーリア。君はせっかく夢だった学院に入るのだ。私に影響されず、平和な学院生活を楽しみなさい」
お兄様の言葉を受けて、傷ついた気持ちは消えなくても、お兄様のわたしを守ろうという気持ちが伝わって、傷口に薬を塗られたような、少しずつ傷が塞がっていく傾向のようなものを感じて、ほっとした。
「わたしにそれをきちんと伝えろ、とアドバイスをくださった方も、その“友人という関係のほどの者ではない”お方ですか?」
わたしの言葉に、気まずそうに目線を逸らしたお兄様が頬を赤く染めたまま、小さく呟いた。
「……そうだ」
そう言ったお兄様のことが面白くて。いつもは大人なのに年相応なそんな姿にくすくす笑っていると、お兄様が振り返った。
「だが! それだけではない。君は来週には学院に入るだろう? ……だから、」
お兄様はそう言って、どこからか包みを取り出した。どこから取り出したのか全く見えず、きっと魔術の一種なのだろうと思い、後日やり方を教えてもらおうと、関係のないことを考えていた。
「にゅ、入学祝いだ!」
ぶっきらぼうに差し出したお兄様から、包みを受け取る。白い布に包まれたそれを、開けていいかの許可を得て開ける。
「……これって」
わたしが手に取ると、お兄様は胸元から、いつかわたしが送った宝石のネックレスを取り出した。同様の形状のネックレスで、お兄様のものとペアのような作りに見えた。
「君のくれたこれで致命傷を避けられたことがあるからな。胸元に入れておくとちょうどいいだろう。君がヘマして、私の魔術具も全て壊れたとしても、きっと君の身を守ってくれる。なんたって、この私の致命傷を防いだのだから。それに、」
恥ずかしいのか頬を染めて、お兄様がつらつらとなにか説明している。大事に抱きしめて、首にかける。そんなわたしを見て、お兄様が優しく笑ってくれた。
「ありがとうございます、お兄様」
そう言って、わたしたちは仲直りをした。空には、満点の星空が輝いており、わたしたちの仲直りを祝福しているようだった。少し肌寒く、お兄様に羽織をかけてもらい、空を見上げた。いつもよりも近い位置で見る星は美しく、それを独り占め……二人占めできていることに贅沢な気持ちになりながら、二人で夜空を眺めたのだった。
「くしゅん」
わたしのくしゃみを聞いて、お兄様が口を開いた。
「すまない。寒かったな。部屋に戻るか」
「いえ、ありがとうございました。また、お兄様の学院の話も聞かせてくださいね」
そう言って、お兄様の手を借り、屋根から降りた。すると、待ち構えていたかのように、ライトとマーシーが飛んできた。
「ご主人様をよくも悲しませて!」
「我が主の仇!」
そんなことを叫びながら、お兄様に飛び掛かる。その軌道を予測してお兄様は二匹を優しく振り払う。
「突然なんだ!? もう仲直りしたぞ!?」
お兄様のそんな声を無視して飛びかかり続ける二匹の愛らしさに、わたしは思わず笑いが漏れた。そんなわたしにお兄様も笑い、毒気を抜かれたように二匹も嬉しそうに飛び回り始めた。
「ご主人様、ずっと元気なかったんだもん。心配したんだからね!」
「元気になったようで、何よりだ」
そんな小さな幸せに、胸が熱くなりながら、わたしは部屋に戻った。冷えた体をばあやが準備してくれていた湯で温まり、マーシーにポカポカにしてもらってぬくぬくで寝た。




