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前世は女王でしたが、男尊女卑な異世界で家族に虐げられています〜だから、もふもふと魔術で成り上がります【第一部完結】  作者: 碧井 汐桜香


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45.誤用

「すまない。なんでもない。君の成長に驚いただけだ」


 そう言って手を離したお兄様の姿はすごく儚く見えて、わたしはなにも言えなかった。そのまま家に戻り、ばあやに両親に会ったことを報告して心配された。長や奥方様にはお兄様が報告してくれるだろう。そう思って課題をこなすだけで日常が過ぎていった。




「ユーリア。地下水路に行こう」


 あれから、お兄様に何度か会いたいと伝え、やっと何度目かの文に回答が来た。様子のおかしかったお兄様が心配だったし、地下水路に潜るのは楽しいし、わたしとして万々歳だった。











「お待たせしました。お兄様」


 前回叱られたことを思い出し、わたしはゆったりとした所作を心がけてお兄様の元へと向かった。奥方様を参考にしようと思い返すと、彼の方は結構のんびりと身体を動かす印象があった。わたしの目論見は成功したのか、驚いたような顔をしたお兄様がわたしの頭に手を乗せようとして、躊躇して言葉にした。


「見違えた。どこの淑女かと思ったぞ」


「頭を撫でて褒めてくださってもいいのですよ?」


 わたしがそう言うと、眉間に皺を寄せたお兄様が困ったように言った。


「……ユーリアが淑女らしくなったから、幼児への対応をやめたと言うのに」


 はぁ、とため息を吐いたお兄様は、行くぞと声をかけた。そして、地下水路へと向かった。いつも通りのお兄様がいつもと少し違うように見えて、わたしは首を傾げながら着いていったのだった。





「お兄様。どこから向かいます?」


 地下水路について、わたしがお兄様お手製の地図を広げて考える。前回、もう少し数が欲しいと思った熊の妖の爪も欲しいし、狼の獣の牙もいい。そう思っていると、お兄様に手を握られ、わたしは連れて行かれた。


「え、え、どこに向かうんですか? お兄様?」


 わたしがそう問うと、こちらを少しも見ずにお兄様は答えた。


「誰も来ない、二人きりになれる場所だ」


 お説教モードのような気がして、わたしはガクガクと震えながら、お兄様に運ばれていったのだった。









「ユーリア。どういうつもりだ」


 誰も来ない場所————地下水路の最深部————に連れられたわたしの前には、わたしがお兄様に送りつけた文の数々が並んだ。


「どういうつもり……ですか?」


 正座してお兄様を見上げ、首を傾げたわたしに、大きなため息を落としたお兄様がその中の一つをとって見せつけた。



「お兄様。わたくし、お兄様に会えない日々に枕を濡らして過ごしております」



 それを見て、わたしは首を傾げた。文集の中の言葉を参考に、美しく書けたと思う。


「……なんでしょうか?」


 わたしの言葉に少し顔を赤くしたお兄様が、頭を掻いてから床に座り込み、説明を始めた。


「……この枕を濡らす、文集の中からとっただろう?」


「えぇ。参考になるなと思って」


 わたしがそう答えると、お兄様は目を釣り上げて怒った。


「君はなぜ前後関係を読まなかった!? あの文は、あの文は、妻が夫に贈ったものだろう!?」


「え? えぇ、まぁ、そうですね」


 お兄様がなぜそんなに怒るのか不思議に思いながら、わたしは肯定した。伝わらない空気にお兄様が他の文も指差した。


「ここの! ……お兄様に会えなくて、わたくしは消えてしまいそうです、こっちも会いたい気持ちは届かないのでしょうか」


「……はい。ダメですか?」


 わたしの返答に再度、はぁっとため息を落としたお兄様が説明した。


「妻が夫に贈ったものは、夫婦関係で使うならいい。そうでなければ、恋人関係までだ。私と君のような師弟関係で使うものじゃない。他も……熱烈な恋文、それもそういう関係の男女のものだ!」


 お兄様の説明でやっと合点が入った。でも、わたしが意味を分からずに使ったのも明らかなのに、なぜそこまで怒っているのかが分からなくて首を傾げる。


「わたしが誤用したのは理解できました。でも、なんでそんなに怒っているのですか?」


 届いた手紙の内容を大したことないと思って、他の人がいる場で開けたこと。内容が内容だったため、幼児趣味と疑われたことなどつらつらと説明した。お兄様が不用心だっただけで、わたしは悪くないと思う。


「……学院の高学年にもなると、婚約者が内定していたり、早いものだと婚姻の儀も済ましている者もいる。格好の話題の種を植えるな!」


 どうも、周りにいた人たちに散々揶揄われたらしい。お兄様にそんな友人がいることにホッとしながら、わたしは思った。そういうお年頃か。じゃあ、仕方ないな。


「お兄様。以後気をつけます」


「頼んだぞ?」


 文を特に異性に送る前には、ばあやか奥方様にチェックしてもらうことを約束させられ、お兄様は鬱憤をぶつけるかのように狩りまくった。……わたしの懐は暖かくなったけど、妖たちが可哀想に思えるほどだった。










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