42.対決
「奥方様。ユーリアお嬢様からの手土産でございます」
そう言って、奥方様の前に準備されたのは、わたしの持ってきた手土産だ。結局、白をベースに揃えたお茶会に合うと思った真っ白いお菓子だ。砂糖のようにキラキラとしていて、お兄様と街歩きをした時に見かけてから、気になっていたのだ。
「あら。コーセー堂のお菓子ね」
そう言って、奥方様は笑みを浮かべる。侍女が何やら魔術を使った。毒等がないか感知する魔術だろう。以前、お兄様が使っていたのを見たことがある。奥方様が手に取って食べ、わたしたちに配ってくれる。わたしはそのまま口に運ぼうとしたが、お兄様は再度自分で魔術を使って確認した。……え、もしかして自分で再確認するのがマナー? わたしの不安げな表情に、奥方様がくすくすと笑って答えてくれた。
「大丈夫よ。ユーリア。してもしなくてもどちらでもいいわ。イカルガは……心配性だから、自分が口にする前に魔術を使うようにしているのよ。忍びとして必須のスキルだから、身につけないといけないけれど」
少し心配そうな色を載せて、奥方様がお兄様の方を見る。お口にあったようで、お兄様はポリポリとお菓子を嗜んでいる。甘くて、カリッとしていて、口の中で薄氷が割れるように崩れる。一つ一つ形が違っていて愛らしいし、わたしはこのお菓子を大好きになった。
「……美味いな」
満足げなお兄様と、お菓子の存在は当然に知っていたらしい奥方様に、わたしは手土産は失敗しなくて安心した。
「次は、イカルガね。あなたもいつも、素敵なものを持ってきてくれるから、楽しみだわ」
奥方様がそう言って笑う。わたしは不安に思った。お兄様よりもはるかに劣った手土産だったらどうしよう、と。でも、お兄様よりも立場の低いと思われるわたしがお兄様を超えてもいけないだろう。……手土産一つとっても、大変だ。
「イカルガ様からの手土産でございます」
そう言って、侍女が差し出したのは、透明なキラキラと光る石だった。石……? わたしだけでなく、奥方様も首を傾げている。
「……これを、このようにカップに入れます」
お兄様が手を伸ばし、光る石を一粒とって準備されたカップの中にからんと入れた。
それを見た奥方様も真似をし、わたしにも手渡してくれる。わたしは受け取ってそれを入れた。
「お湯を」
侍女にそう言って、お湯を注がせると、きらきらした石は溶けてしまった。お兄様が魔術を使って一口飲む。
「砂糖かしら?」
そう言って、侍女に魔術を使わせた奥方様も一口飲み、驚いたように動きを止める。
「冷ました方がいい」
お兄様がそう言って手を伸ばし、わたしのカップになにか魔術を使ってくれた。一口飲むと、わたしは驚いた。
「甘いお茶の味がします」
「……今回は、白が基調のお茶会と聞いていたから、あえて透明なお茶を準備して、カップの白が映えるようにしたんだ。飲みやすいようにミルクを入れても、美しいだろう」
お兄様の言葉にわたしは目を丸くした。そこまで考えて、これを準備していたのか、と。
クスクスと笑った奥方様が、お兄様に声をかける。
「あら、イカルガ? いつもよりも気合の入った手土産ね? ユーリアの手本となるようなものをと言ったからかしら? このお茶は自分で作ったものでしょう?」
奥方様のそんな言葉に嫌そうに顔を歪めたお兄様が首肯する。
「そうです。自分で作りました。お茶の成分を抽出し、香り付けとして、」
始まったお兄様の説明は難しく、わたしはお茶を口に含む。ほのかに感じる苦味が幼い身体には合わない。わたしのそんな感情を読み取ったようで、お兄様が手を伸ばしてくれた。
「ユーリア。少し苦いだろう。ミルクを入れるといい」
「あ、ありがとうございます」
お兄様にお礼を言っていると、奥方様の視線を感じたような気がした。目が合うと、首を傾げた奥方様が口を開いた。
「いえ。イカルガが小さい子の面倒をこんなにも細やかに見れるなんて思っていなかったから。……イカルガ。別にあなたがそこまでやらなくとも、侍女に頼めばいいのよ?」
お兄様はそう言われて、恥ずかしさと気まずさを入れ混ぜたような顔をした。お兄様に当然に面倒を見てもらっていたが、わたしも侍女に頼めばよかったのだと、指摘されて気がついた。わたしもお兄様も使用人に頼ることをもう少し身につけていかないといけないのかもしれない。
その後も、お茶の飲み方、話の流れ、話す際の口調。色々なことを奥方様に教えてもらい、わたしの頭は爆発寸前になりながら部屋に戻った。……お兄様のエスコートを受け、部屋まで送り届けられるというお作法の練習も込めて。




