40.判明
メイの言葉を聞いたお兄様は、すぐにわたしの横に飛んできて、わたしを庇うようにしてメイとわたしの間に立った。
「……それを知って、どうするつもりだ?」
お兄様の眼光は鋭く、後ろから見ているわたしでさえも震えてしまいそうなほどだ。
「え、べ、別に、何もしません。憧れていた童女に似ているなと思って……。年頃もわたくしたちくらいだし。え、もしかして、ユーリア様が本物の……?」
ぼそぼそとそう説明するメイの言葉に嘘はないようで、お兄様の反応に戸惑っているのがこちらまで伝わってくる。
その様子を見たお兄様がわたしの肩に手を置き、耳元で囁いて下がった。
「……念の為口止めしておけ。必要なら、魔術契約しろ」
「はい」
はじめてできた女の子の友達に魔術契約なんてしたくない。そう思いながら、わたしはメイにむかって口をひらく。
「……メイ様。わたしは童女ですが、内密にしているのです。誰にも言わないでくれますか?」
わたしの問いに、メイが目を輝かせて飛び上がり、わたしの手を両手で握って言った。
「本当!? 本物!? わたくし、憧れていたの! ユーリア様、あなたが童女なんて! 誰にも言いません! いや、言いたい! あの童女と友達になったって! でも、言ったらユーリア様が困るのでしょう? なら、誰にも言わないわ」
そう約束したメイの表情は真剣で、わたしは契約など不要に思えた。
「……契約しないのか?」
ここに置いていくと脅せば一発だぞ、と物騒なことを言うお兄様の背中をピシリと叩きながら、わたしは口が緩むのを抑えられなかった。
「ここまでわたしのことを尊敬してくれているし、友達だもん。契約しなくても、大丈夫」
わたしはそう言って、メイの方に向き直り、話を続けた。
「ユーリア様。あの技名? をわざわざ声に出したり、解説みたいなことはいつもしているのですか?」
「え、まぁ……」
メイに聞かれて、わたしは頷く。だって、二人に指示を飛ばすには必要だし。
「ふふふ、そういうお年頃なのね。ええ、いいと思いますわ」
くすくすとメイに笑われて、大変遺憾に思ったわたしが、次の地下水路までに二人と声を発せずに意思疎通をできるように訓練しようと決意した瞬間だった。無謀? やってみなきゃわからないじゃない。絶対に無音でやり取りできるようになってやるんだから!
わたしの決意に特訓に手伝わされる気配を察したのか、二人がわたしの近くから離れて身を寄せ合っているのはきっと気のせいだろう。
「なぜフジューの娘が童女のことを知っていたのだ? まるで実際に試合を見たような口ぶりではないか」
お兄様がぬっとわたしたちに割り入って聞いてきた。
「ああ。そのことでしたら、お父様がわたくしとお姉様のために、録画の魔術具を使って見せてくださったのですよ」
にこりと笑うメイに、イカルガ様が眉間に皺を寄せて言った。
「……公物の私的利用か」
「いえ! 違いますわ! お父様がそんなことをするはずないでしょう!? わたくしたちに武闘大会の試合を見せるために、録画の魔術具を購入してくださったのですわ!」
胸を張るメイに、お兄様が目を剥いた。
「購入!? あれが一体いくらすると思っている!?」
「お父様が一生懸命働いてお金を稼いでいるのも、わたくしたちのためだそうですもの。いい買い物だったとおっしゃっていたわ」
メイの言葉を受けて、わたしは思わず口からこぼした。
「……メイ様は愛されているんだね」
「? ええ。もちろんですわ」
不思議そうに首を傾げるメイの姿が眩しくて、羨ましくて、自分の笑顔がちゃんと保てているか不安になった。お兄様の視線を感じたものの、お兄様の方を見ることもできず、曖昧に微笑んだのだった。




