4.帰宅
「お嬢様! 遅かったですね、心配いたしましたよ!」
お兄様と別れて、門をくぐった。門の外から見えないところで、そわそわと歩いていたばあやに抱きしめられた。ばあやがこんな場所まで出ているなんて珍しい。心配させたのかもしれない。
「ばあや、ごめんね。途中で少し体調を崩してしまって……」
「体調が!? 大丈夫ですか?! お顔色も悪くなくて……お嬢様がご無事で本当に……婆は心配しましたよ? 良かった……」
優しく頭を撫でられ、ばあやと一緒に果物と木の実を供える。
「お嬢様、今日はすごく多いですね?」
「明日と明後日、森に行かなくても済むようにたくさん採ってきたの。だから、また魔術を教えて?」
「ふふふ、お嬢様は本当に賢いですね。もちろん、婆の仕事が終わったら、一緒に練習いたしましょうね?」
「じゃあ、わたし、ばあやの仕事も手伝うわ!」
笑い合いながら、そんな話をしていると、どかどかと足音を立てたお父様が現れた。
「ユーリアはそんなに暇なのか!? ならば、特別に高貴なお方のお相手を任せてやろう!」
そんな声にわたしは思わずびくりと飛び上がり、ばあやは慌てたように頭を伏せた。
「高貴な方のお相手……? わたしにできるかな……」
年齢に相応しく、教育をろくに受けていない幼女ということを意識して、わたしはそう小首を傾げて指を咥えた。
「ふん。女ごときができることはない、と言いたいところだが、女だからこそできることもある」
にやにやと笑みを浮かべたお父様を見て、わたしは嫌な予感がして、バレないようにばあやの表情を伺った。ばあやの顔色は真っ青に染まっており、何か言いたげに口を一度開いてから閉じ、拳を固く握っていた。ばあやよりも小さい私だからばあやの表情がよく見えたが、お父様からはなにも見えていないだろう。ただ、同時に嫌なこともわかった。四歳児に求めることかわからないが、どこの世界にでも幼女趣味というものがいるのだろう。わたしの記憶と先日のお兄様の言動を合わせて判断すると、この世界では女性は他人に顔を見せてはならないというくらいに貞淑性が求められているということだ。わたしがここで幼女趣味の高貴なお方に散らされてしまったら、ろくな婚姻が期待できないということだ。この世界では、結婚しないと言う選択は難しいだろう。わたしが歩いた街の様子や、他の家と比べた感じ、おそらく我が家はそこまで高位ではない貴族だと思われる。前世のわたしのように力と神託でのしあがるのならば別だろうが、このまま行くと政略結婚の駒として使われる運命だ。だからこそ、お父様がわたしを高位のお方に差し出す理由がわからない。処女性は問われないのだろうか?
「お前もいつか近いうちに我が家のために嫁に行かなければならない。上手いことやって顔は売って、身体には触らせるなよ? わかったなら、早く湯浴みをしてその見た目をましにしておけ」
器量良しの娘がいると売り出すための顔合わせらしい。幼女趣味な高貴なお方に早めに売り払う予定のようだ。……高位なお方が幼女趣味ならば、幼女期間を終えた私の運命は捨てられる未来しか見えない。そもそも幼女趣味に売り払われるのは嫌だ。どうしたら、幼女趣味の魔の手から逃れられるのだろうか。
そんなことを考えながら、よくわかっていない表情で首を傾げていたら、言いたいことを言ったお父様は去っていった。
「お嬢様……」
深刻そうな顔をしたばあやを見て、わたしはにこりと微笑んでみせた。
「お父様が言っていたわ。身体を触らせてはならない、と。ばあや、早くこの汚れを落としたいわ。せっかく許可が降りたのだから、湯浴みを楽しみたいわ」
「準備いたします。お嬢様……。お父上は顔を売れとおっしゃりましたが、高貴な身であるお嬢様が他人に顔を見せるなんて……同年代との縁談がもう望めないではありませんか……。お嬢様、できるだけ顔を隠す方向で準備いたしましょうね?」
ばあやの顔色は良くならなかったが、湯浴みの準備に行ってくれた。とりあえず、お湯にでも浸かりながら今後の方針を考えよう。顔を見せるのはこの世界の貞操観念ではアウトっぽい。顔を隠して、ついでに幼女趣味の興味を引かせない方法か……。




