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前世は女王でしたが、男尊女卑な異世界で家族に虐げられています〜だから、もふもふと魔術で成り上がります【第一部完結】  作者: 碧井 汐桜香


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37.素顔

「ひゅっ」


 息を呑んだのは、いったい誰だろうか。ばあやもわたしも胸がバクバクと音を立てている。奥方様の願いだ。断るわけにも、無視するわけにいかない。それに、奥方様が必要というからには、養女の素顔を知ることは実際に必要なことなのだろう。わたしを政略結婚の駒とするべきか否か。どこの貴族にまで、嫁候補として売りに出せるか。美しいなら、事前に周辺に匂わせておくべきだし、そうではないのなら控えめにしたい。奥方様が素顔を見ることを必要とする理由は、わたしの立場からの予想でもいくらでも想像できた。


「……承知いたしました」


 わたしがそう返答したのを聞いて、ばあやの手が肩に置かれたのを感じた。

 手が小刻みに震える。仮面を外して、認識阻害を解除する。頭で分かっているが、その一つ一つの動作をするために動かす体が、手が、重い。ちらりと奥方様の表情を伺うが、決して譲る気がないようで、こちらを微笑んで見ているだけだ。

 震える手で仮面を外した。


「……素顔、でございます」


 わたしの顔をじっとみた奥方様は目を細めて続けた。


「……まだよ。まだ、隠しているでしょう? 髪……違和感が残っているわ」


 髪色のみ隠したまま奥方様に姿を見せたが、すぐにバレた。瞳の色だけでも異端なのに、髪色まで。


「……、」


 わたしは小さく息を吐いて、認識阻害を解除した。




「まぁ!」


 思った反応と違うが、髪色に驚いたのだろう。奥方様が息を呑んだ。わたしは目を開けることができず、音声だけでその様子を予想する。想定よりも嫌悪は感じず、わたしも困惑していたら、奥方様の優しい声が聞こえた。


「……ユーリア。目を開けて頂戴。わたくしに、あなたのその綺麗な瞳を見せて」


 目を恐る恐る開けると、にこりと笑った奥方様が、わたしに優しい声をかける。


「ユーリア。あなたの髪はとても美しい白銀の髪だわ。」


「白銀……。あの、白髪の間違えじゃ……」


 わたしがそう言うと、奥方様がこちらまでやってきて、わたしの髪に優しく梳いた。


「いいえ。白銀よ。よくご覧なさい? キラキラと輝いているわ。あなたはきっと神託の巫女様なのね……」


「しんたくのみこ様?」


 奥方様の口から出た、聞き覚えのない言葉に、わたしは首を傾げた。


「そう。昔からこの家に語り継がれているの。……どんな魔術でもこなしてしまう。そう。あなたがこの時代に生まれた意味はきっとそうなの」


 よくわからないことを言う奥方様に、わたしはばあやと顔を見合わせて首を傾げた。


「……ユーリア。このことは、わたくしとあなた、そしてあなたの乳母の秘密よ。わたくしの夫、長にも決して言ってはいけないわ。あの人は良くも悪くも地上世界の益しか考えていないわ。純粋な人なの。でもね、わたくしはいつも思うの。地上世界の駒として生かされているわたくしたち。わたくしたちにだって自由があってもいいのでは、美しい本物の空を見る権利があってもいいのでは、と」


 奥方様が声を顰めてそう言った。その言葉はわたしの胸に深く刺さった。お兄様たちのように空を飛びたい。そんなわたしの願いは、自由を、美しい空を手に入れたい。そんな願いだったのかもしれない。

 そして、奥方様はわたしにすぐに認識阻害をかけるように言った。


「……あの、お目汚し、申し訳ございません」


 わたしが頭を下げると、困ったように奥方様が頬に手を当てて首を傾げた。


「とても綺麗なものをみせてもらったのに、そんなことを言われると……わたくしの方こそ申し訳なくなるわ。わたくしなんてあなたと比べて、普通の容姿しかしていないのだもの」


 そう笑う奥方様はとても綺麗で眩しかった。わたしのそんな気持ちを汲んだのか、笑いを深めた奥方様が言った。


「ユーリア。あなたがわたくしを綺麗と思ったのに、お目汚しなんて言われたら困ってしまうでしょう? わたくしも、他の人も一緒よ。確かに、あなたは希少な存在だわ。でも、美しいわ。誰よりも美しいものを見てきたわたくしが言うのですもの。自信をお持ちなさい?」


 そして、手にしていた扇を開いて笑った奥方様が言った。


「でも、ユーリアにはまだ足りないものがたくさんあるわ。まずは教養。文の技術をもっとあげなさい。次の課題よ」


 にっこりと笑った奥方様から出される課題を、必死に書き写したわたしとばあやは疲れ切って部屋へと戻るのだった。




「ばあや……この量の文を考えるの? 全パターン?」


「お嬢様……。わたくしたちに足りないものを奥方様が見抜いてくださったのです。感謝して取り組みましょう」


 各場面に合わせた文を百通。わたしに文の技術は足りていないらしい。やるしかない。頑張るしかない。

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