32.治癒
「お団子ってこんなに美味しいんですね?!」
わたしが口にいっぱい頬張ろうとするのをお兄様は止め、少しずつ齧るように言われた。椅子に座ってお茶を楽しみながらお団子を食べる。美味。
「よかったな。つまらせるなよ?」
お兄様の心配をありがたく受け取りながら、わたしは胸元にあるお礼を思い出した。
「あ、」
わたしががさごそと服を漁るのを不思議そうに見ていたお兄様に、香り袋とお礼状、さっき買った宝石のアクセサリーを差し出した。
「お兄様。いつもいろいろとありがとうございます」
お兄様にそう言ってお礼状を差し出すと、目を丸くして受け取ってくれた。目を通し、よくできていると褒めてくれ、香り袋を嗅いで、センスがいいと褒めてくれた。アクセサリーはネックレスだ。お兄様が首につけたのを見ると、とても似合って見える。
「普段はこうやって宝石の部分を胸元に入れておくとゆらゆらしなくてよさそうですね」
わたしがそう言って、胸元に宝石を入れたら、不安げだったお兄様の瞳が柔らかくなった。
「そうだな。そうさせてもらう」
香り袋は制服に香りがついたら任務に支障があるからと別の袋に仕舞ったが、他は大切そうにしてくれてよかった。
「聞きました。ばあやの服やわたしの服を用意してくれていたんですよね? ありがとうございます」
「あれは、乳母の服装も君の評価に関わると思ったから準備しただけだ。金は溜まる一方だから、君に使えてちょうどよかった」
完全に金持ち発言をするお兄様に苦笑しながら、お茶を飲んだ。お兄様は本当に面倒見がいい。こんなにも師匠が面倒見が良くて、ありがたい。今はまだ返せるものは少ないけど、恩返ししていきたい。そう思ったお昼のことだった。
「お兄様!? 無茶です!」
連携の練習と言って、今までにも増して地下水路に潜ることになった。よっぽどわたしは不出来な連携だったらしい。お兄様が攻撃するのを感じて、その攻撃に合わせた攻撃をする練習。なにこの脳筋。感覚で理解して感覚で攻撃しろって? 普段わたしに対してあんなにも魔術の理論を求めているのに……。あっちは論理が破綻していると怒られて、こっちは論理が破綻しているなんて、おかしい!
わたしが文句を垂れながら水で攻撃すると、お兄様の火の魔術を消した。ミスった。そう思ったら、魔獣が跳ねた。
「あ、やば」
わたしの口からそう溢れた時には、ゆっくりと近づいてきた妖がいて、お兄様がわたしと妖の間に飛び込むのがゆっくり見えた。妖の腕がお兄様の胸元に当たる。お兄様はそのまま次の魔術を展開し、妖は消滅した。完全に胸に爪が刺さったのを見たわたしは、慌てて倒れたお兄様に駆け寄る。
「お兄様!?」
「大丈夫だ。騒ぐほどのことじゃない。落ち着け」
顔色が悪くなっているお兄様の胸元をはだけさせると、傷が奇妙な位置で止まっていた。
「……ユーリアがくれたネックレスの石が、身を守ってくれた。致命傷を負わずに済んだが、あの妖の爪には少し毒がある。回復まで大人しくしておけ」
そう言って薬を飲んだお兄様。わたしの視界はぐにゃりと歪み、お兄様に縋り付いてしまう。
「ライト。マーシー。神様。力を貸して。お兄様の怪我を、治して」
わたしが泣きながらそう叫ぶと、奇妙に魔力のようなものが集まっていた。魔力よりも暖かい……? 首を傾げたわたしに、驚いたような表情を浮かべたお兄様が止めた。
「ユーリア! 何する気だ?」
「治せる気がします。神々が力を貸してくれているような」
「やめろ! 不明な力を使うな! 怒られたいのか!?」
お兄様の静止を無視して、力を集める。体外から集まるその力。精霊から借りる力とも違う。優しい力。あたりは温かく光り、風がわたしの髪を持ち上げる。お兄様の胸元に手を差し出し、唱えた。
「治癒魔術」
お兄様の表情が和らぎ、傷が治ったのがわかった。そして、わたしの周囲は落ち着き、元に戻った。
「……お兄様?」
「……ユーリア。君は本当に……。今回は助かったが、いつも言っているだろう? 前にライトと契約した時も」
元気になったお兄様に激しく叱られた。でも、さっきまでのお兄様よりも元気そうなお兄様の姿に安心で胸がいっぱいだった。
その後、お兄様に魔力の流れや魔術に異常がないか、体に異常がないか、いろいろ調べられた。異常はなかったらしいが、原則として先ほどの魔術を利用することを禁じられた。ただでさえ、立場の弱い地下世界の住人で、単なる養女のわたしにそんな有益な力が宿っているとバレたら、地上世界からも同じ地下世界の人間たちからも狙われるらしい。お兄様は元々着ていた装備から予備の装備に着替え、わたしと一緒に地上へと戻った。お兄様がすぐに調べてくれた結果、近くに人はいなかったらしい。素材を換金したところで、後ろに並んでいた人に声をかけられた。。以前は五圓程度だったのが、最近はもっと稼げるようになってきた。
「すごいな! 君、そんなに小さいのに、そんなにも稼いだのかい? もしかして、パーティーでも組んでる?」
「はい。師匠と」
「あー、じゃあ残念だね。その金、ほとんど師匠のものか」
「え?」
「普通、師弟関係を結ぶならそうだろう? 師匠が九割君が一割かな」
その言葉に衝撃を受けた。もらいすぎだとは元々思っていたが、想像以上にもらい過ぎていたようだ。その男を無視してお兄様のところに戻る。
「お兄様!」
「ユーリア。換金は終わったか? わたしは必要な素材はもうすでに片付け終えているから、君も早く入金してくるように」
後ろを向いて距離を取ろうとするお兄様を止めた。
「お兄様! 師弟関係なら師匠の方が大金をもらうべきだと今言われました! そうなのですか?」
めんどくさそうにため息をついたお兄様が、先ほどの人のあたりを軽く睨み、言った。
「私は金が必要ない。代わりに珍しい素材が欲しい。君は金が必要。利害が合致しているだろう?」
「でも!」
「君は乳母の分も稼がなければならない。受け取れるものは受け取っておけ」
そう言われて、話を終えられた。お兄様が荷物をまとめて歩き出すのを見て、わたしは慌てて追いかけたのだった。




