31.街歩
「お兄様。街に買い物に行きたいのですが、ついてきてもらえますか?」
わたしは、お兄様にそう声をかけた。「お兄様を誘いに行く」と伝えたところ、ニヤニヤとばあやが笑いながら送り出してくれた。ばあやはすぐに恋愛にしようとするけど、こちとらまだ五歳児だぞ? この世界だとこのくらいの歳の差は問題ないの?
「用意はもうできているのか? ならば、行くぞ」
さっさと学院の制服の上に上着を羽織る。冬が近づいてきて、そろそろ寒くなってきた。いや寒い。ばあやの綿入りも買っていくべきかもしれない。……わたしには横にいつもマーシーがいるから、正直温かい。精霊と評されるマーシーをこんな暖房器具のように扱っていいのか甚だ疑問だが……。ちらりとマーシーを見るとマーシーは首を傾げていた。ライトも心なしかマーシーの近くにいる気がするし、兎や鼠の子達だけじゃなく、見覚えのない子も集まってきているきがする。……居住地が変わったからかと思ったけど、違うかも。そう思って、マーシーを手招きして呼び、少し近くにきてもらった。……みんな少しずつこっちに移動した。やっぱりマーシーで暖をとっているのかも。
「水の精霊がいたら、夏はいいよね」
わたしの呟きに、マーシーはびくりと震え、お兄様は訝しげな顔をした。今日の目的地は、布屋と服屋と茶屋だ。茶屋を女性が使うことはないけど、男装して任務に当たることも考えられるから、利用してもいいとばあやにも言われた。
「いきましょうか。お兄様」
お兄様の袖をひいて、わたしたちは歩き始めた。布屋では完成系の香り袋も売っていた。店内でお好みの香りを詰めたら完成らしい。わたしが一人で裁縫をできる気はしないので、お兄様に相談して香りを選んだ。
「このあたりやこれ、それくらいが女性向けの香りじゃないか?」
お兄様の指差した香りはセンスが良くて、調香について学んだ経験があるのか首を傾げた。実母もたまに調香はしていたが、結構高貴な趣味な気がする。本当にお兄様は一体何者なんだろう。まぁ、長の家に出入りできるくらいの家の生まれなら、それくらい普通なのかな。
「じゃあ、これとこれでお願いします」
匂い袋を作ってもらって、ふと目線を向けると、窓の近くにキラキラ光るものがあった。
「……?」
「お嬢さん、見る目があるね。これは、最近隣国から入荷し始めた宝石でできているんだ。綺麗だろう?」
わたしはそれを見て、一つ追加した。……結構な値段だったけど、胸元からメダルを出し、商人に支払った。美しい。お兄様へのお礼には向かないかもだけど、美しいそれは、お兄様にぴったりな気がした。
「お待たせしました。お兄様」
お兄様も布を見ていたのかいくつか持って支払いに行った。わたしはその間、開いたドアから顔を出し、外を見る。お茶のいい香りがする。
でも先にばあやの防寒が優先だ。お兄様が戻ってきたのを見て、すぐ隣の服屋に移動した。ばあやの綿入りを買おうとしたら、お兄様が嫌な顔をした。長の家で過ごすなら、綿入りではなくしっかりした羽織くらい必要らしい。お兄様の許可が出たものを買って、店を出た。荷物はお兄様のくれた袋に入れたら全部入った。その袋に入れるのかと嫌な顔をしたお兄様だったが、軽くてたくさん入るからいいと言ったら、眉間に皺を寄せて何やら思い悩んでいた。お兄様への贈り物は胸元の隙間にばあやが隠してくれた。
買い終わったところで、わたしのお腹がぎゅるるるぅと音を立てたのを聞いて、お兄様がわたしの方を見て笑った。
「茶店にでもいくか」
「……茶屋は?」
「君は何を言っている!?」
ばあやも知らなかったようだが、茶屋は店の女性と客の男性がそういうことにする場所らしい。男性にとってはそう言う場所だが、女性に対しては食事を取れるところと認識されているらしい。何それ怖い。茶店は名前の通り、お茶を飲んだり軽食を食べたりすることもできる店らしい。わたしが行きたいのはそちらだ!
「……茶店に参りましょう。今すぐに」
わたしの言葉に頷いて、お兄様が先導してくれた。危ない。ばあやにもこっそり訂正しておいてあげよう。
「なんですって!? わたくしの元夫はそう言う場所に通っていたのね」
報告した後のばあやはとても怖かった。




