30.御礼
「お嬢様! 紙を選びましょう!? どの紙がいいですか? この草の織り込まれた紙も可愛いですし、糸の入った紙も綺麗です」
勢いよく紙を並べるばあやの勢いに圧倒されながらも、一つ一つ手にとって確認していく。
「これ……」
紙の中に細かい綺麗な色とりどりの紙が織り込まれている、そんな一枚がわたしの心を引いた。
思わず手を取ると、ばあやがすぐに褒めてくれた。
「お目が高いですわ、お嬢様。こちらは最近の流行を抑えているし、とても美しいです。では、こちらに。文の内容はどうします?」
ばあやにそう言われ、前世女王として統治していたときを思い浮かべる。お礼か……隣国に送ったときはなんて送ったかな……。
「貴殿の働きに大変感謝する……」
「お嬢様……? 一体どこでそんな文言を?」
動揺したばあやに問われた問いにはにへらと笑ってごまかした。
「それはちょっと立場の上の者からの言葉になってしまうので、もう少し女性らしく、柔らかな文章を作りましょうか?」
確かに立場は高かったけど、一応女性だったし女性らしいと思ったのに、とわたしは首を傾げた。ふむ、納得いかない。
ばあやの案の中からいくつか選んで組み合わせた。そして、ばあやの言うよくわからない風景描写をそのまま入れて、お礼状は完成した。……これ、使いこなせないといけないの? 結婚しないのに? わたしがそうと問うと、ばあやに叱られた。忍びとして必要なこともあるから、きちんとこなせないといけないらしい。うーむ……。わたし、やっていけるかな……?
「お嬢様の考えるイカルガ様に似合う香りはありますか?」
書類を乾燥させている間に、ばあやが次の木箱を取り出して並べた。……着物は置いていったはずなのに、想定よりも荷物多いなと思っていたけど、こんなものが入っているとは思わなかった。
「すっきりした感じと……重厚な感じ。……これと、…………このあたりかな?」
壺を一つずつ手に取って、香りを嗅ぐ。いいと思った香りをわたしが指すと、ばあやがそれだけを残して他を片付けてくれた。いや仕事が早い。
「では、文に香を焚き付けましょうか」
「……?」
よくわからない単語に首を傾げると、ばあやがささっと文に香の煙を浴びせ始めた。
「どういうこと?」
「いい香りにするのですよ」
ばあやにそう言われて、香ってくる香りを楽しむ。この香りなら、あっちの方の香りとも合いそうな気がする。
「……ばあや、これもいれていい?」
わたしの選んだ壺を見て、鋭い視線を向けたばあやが破顔した。
「お嬢様! いいセンスです! こちらもおいれしますね!」
匂い袋の袋に刺繍を刺すか問われ、わたしは必死に首を振った。ばあやにそこまではいいかと思わせることに成功したようで、袋を針で閉じた。
「できた!」
わたしが振り返るとばあやも嬉しそうにしている。……ん? これってばあやにもお礼を準備するべきじゃない? そうなってくると、長とかこの家の人にも必要……? ばあやに渡す匂い袋は後日お兄様についてきてもらって、お店に行って準備しようと判断し、長にはお礼状を書くことにした。そんなわたしをばあやは微笑ましく見守ってくれる。……やっぱりご令嬢らしいことをするとばあやは喜んでくれるようだ。……できる範囲で頑張ろう。




