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前世は女王でしたが、男尊女卑な異世界で家族に虐げられています〜だから、もふもふと魔術で成り上がります【第一部完結】  作者: 碧井 汐桜香


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10.当日

「お兄様! 今教わった目眩しの術と身体強化の術、重ねがけしたらいいと思います!」


「隠の術に陽の術を重ねる……君は何を考えている?」


 お兄様の訝しげな表情を受けて、わたしは説明する。


「目眩しをした上で、高速移動した先から強力な攻撃を打てたらいいかなと思いまして……」


「一理あるな。本当に君は魔術に関してのみ、恐ろしいほどの才がある」


「お褒めに預かり光栄です?」


「褒めてはいない。しかし、君の理論は素晴らしい。それを実現するために、隠の目眩しの術を陽と組み合わせなければならない……それは無謀だぞ。ならば、」


 そこまで説明したお兄様の後ろから、打撃を加えた。


「目眩しの術ではなく、うっ!?」


「……できましたよ? 隠の精霊と陽の精霊それぞれに、別の場所から魔力を与えればいいのです」


 首を傾げたわたしに頭を押さえたお兄様が反論した。


「本当に君は恐ろしい幼児だ」


「恐れ入ります?」


 さらに首を傾げた私に、お兄様が追加した。


「ただ、やはり打撃の威力が落ちているように感じたぞ。魔力消費の効率も悪い。ならば、隠の目眩しの術をやめ、火と水を混ぜ合わせた陽炎の術にしておけ」


「……やってみます」


 ぐっと腕に力を入れて、先ほど同様精霊たちに魔力を分け与えて術を発動する。お兄様の後ろに周り、打撃を加えようとすると、簡易の結界で防御された。


「あ、ずるい!」


「ずるくない。いくら幼児とはいえ、君の攻撃は本当に強い。こちらにも防御が必要だ」


 そう言って結界を解除したお兄様の言葉に、わたしは顔が緩むのを押さえられなかった。


「強い! わたし、強いって!」


 いくつかの技を教わったと同時に、即死の攻撃を受けても防御される魔術具を渡された。


「君が負けることはないと思うが、念の為だ。この魔術具が壊れたら即座に白旗を挙げなさい。その約束を守れないと言うのなら、二度と君に魔術を教えない」


「わかりました。約束します」


 魔術具を握り込んだわたしの約束の言葉は、お兄様に信用されなかったようで、顔を顰めて追加された。


「約束が守れないと言うのなら、君の大切なものが無事で済むと思うなよ?」


「わたしの大切なものなんて……ばあやも対象ってことですね。わかりました。絶対に約束は守ります」


 硬く頷いたわたしに、困ったようにお兄様が呟いた。


「……この道に生きていく者として、自分の命以上に大切な存在がいるのは、重りになるのだが……まぁいい。それが自分の命を大切にすることに繋がるうちは認めるか」


「何かおっしゃいました?」


「いや、なんでもない。励め」


 ぽんぽん、と優しく置かれた手に、わたしはにへらと笑ってしまった。















———武闘大会当日

「こんな小さなお嬢様が武闘大会にでるなんて……婆は心配ですよ、お嬢様。今からでもおやめになりませんか?」


 ばあやに抱きしめられながらそう言われて、わたしはばあやを安心させるように笑った。


「大丈夫。絶対無事に帰ってくるから。お父様たちにバレないようにお願いね」


 お守りを見せると少し表情が和らいだけれど、ばあやの心配は止まらなかった。


「迎えに来たぞ」


 門のところで待っていたから、お兄様がひょこっと顔を出した。ばあやの姿を認めて、慌てて謝意を述べて顔を引っ込めるあたり、この世界では本当に女性が顔を他人に見せることは恥になるようだ。ばあやはわたしに気をつけるように言含めてすぐ、慌てて見えないところに戻って行った。


「お迎えに来ていただいたのですか? ありがとうございます」


 お礼を言ったわたしに、お兄様が小さくため息を吐いて仮面を手渡してきた。


「君のことだ。顔を隠すことなど考えていないだろう。お父上も今日は武闘大会の観戦に行っているだろうし、奥方も馬車までは着いて行っているに決まっているだろう? 姿を隠さなくてバレたらどうするつもりだったんだ」


 有用だとバレたら、利用されるぞと、手慣れたように言うお兄様の家庭環境について、「そんな風に当然に考えるのは、どんな生活環境なんだろう」と思いを馳せながら、仮面をありがたく身につけた。


「……仮面をつけても、君の髪色は目立つな。綺麗な白を染めるのは忍びないが、色染めでもするか?」


 お兄様から懐から布袋を取り出した。いつも“色なし”や“気味が悪い”と言われていた髪を綺麗と褒められて、私の頬は熱くなった。


「……色染めは一日で落ちるのですか? わたしは先日お見せした認識阻害の術で行こうと思っていたのですが」


 わたしのことばに目を見開いたお兄様が、わたしの両肩を持ってゆすった。


「君は正気なのか!? ただでさえ過酷な武闘大会で術の重ねがけをして出場するつもりだと!?」


 お兄様の言葉に、わたしは首を傾げた。


「はい。親にばれるわけにはいかないと思っていましたし、普段の特訓でもお兄様には影響が出ないように術をかけていました。というより、長が我が家に来た日以来、一応外に出る時は常にかけるように、ばあやにキツく言含められていましたから……女子が顔を見せることの意味について、特にとてもしつこく言われました」


 軽い気持ちで反論したら、ばあやの説教が止まらなかったことを思い出した。下手したら、顔を見せる=結婚になりかねないものらしい。この世界怖い。


「……普通に使いこなしているな。自然すぎて気が付かなかった。……たしかに、素顔を晒すよりもマシか……」


 安全を配慮して一旦止めたお兄様が了承するほど、女性が素顔を晒すことはまずいことだったらしい。いい加減、前世の常識ではなくこちらの世界の常識になれなければならないと、わたしは再認識したのだった。


「……でも、学院には女性の生徒もいるんですよね? 学院での生活はどうなっているんですか?」


「基本的に制服は顔を隠すデザインだから、問題ない。それに、女性と男性で求められるスキルが違うから、講義は基本的に別だ。女生徒が大変少ないから、合同授業や実技は一緒になるが。寮も女子棟は隔離されている」


 そう言われて、空を駆けていたお兄様たちの制服を思い返して、納得した。


「隔離って……」


「子女の貞操を守るためだ。当然だろう」


 顔を見せることが貞操につながるのなら、そう表現したお兄様の言葉は過剰でないのだろう。……きっと女子棟は陸の孤島のように隔離されているのだろう。

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