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【改稿版】猫耳王子に「君の呪われた力が必要だ」と求婚されています  作者: 水鏡こうしき


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23話 王国の現状

 双子の姉弟を見た瞬間の魔女の顔は、形容し難いほど輝いたものだった。余程子供が好きと見える。


 エステルの視線に気が付いたのか、魔女は大きく咳を払ってプイと顔を逸らしてしまった。どうやら、エステルに心を覗かれたくはないようだ。


『うーにゃん──お兄様ったら! 昨日もエステルから離れなかったって侍女たちが話してたよ!』

『にゃーお──そうだよ! そのせいでエステルが疲れてるって!』

『にゃおん──だから今日はお兄様がわたしたちと遊ぶんだよ!』


 二人は代わる代わるライナスの腕を引っ張り合う。しっぽがぶんぶんと激しく揺れ、ライナスは二人を嗜めるように肩を抱いた。


『にゃんにゃ──ちょっと待て二人とも、今とても忙しい』

『にゃー──ねー、あの人だれ?』 

『みゃうみゃう──シャーロット、ちゃんと話を聞きなさい……』


 ライナスが頭を抱えている間に、二人の興味は魔女へと移る。エステルは通事をしようと、二人の背を追った。


『にゃー──ねーエステル、この人だあれ?』

「この方は魔女様ですよ」

『うにゃーん─魔女様? はじめまして!』


 幼子たちの歓迎に、魔女は戸惑っているようだ。魔女が子供好きだということは知るところとなったが、彼女はそれを表面に出したくはないのか、つれない態度だ。


「魔女様、こちらシャーロット王女殿下とエリオット王太子殿下です。二人とも、何歳ですか?」

『にゃにゃん──七歳だよ!』

うにゃ──僕たち双子なの!』

『にゃん──誕生日も同じなんだよ!』

「魔女様、彼らは七歳で双子で、誕生日も同じなんだよ、と仰っております」

 

 双子の姉弟が魔女に話しかける様は、傍から見ても可愛らしいことこの上ない。それなのに魔女はまだ堪える気なのか、何も答えないままだ。


「っ……ふふ……」

「……魔女様?」

「ふっ……ふふっ……双子なんじゃから誕生日は同じに決まっておろうが」──『かっ、かわいいー! 誕生日が同じなど当然のことを一生懸命に! まさに求めていた可愛さの子猫たち来たー! どうしよう、早くルカの治療をしないといけないのに! この子たち可愛すぎる! 離れられないわ!』


 張り裂けんばかりの魔女の本音に、エステルは苦笑する。魔女はクスクスと笑い声を上げ、双子の頭をそろりと撫でた。


「あ……すまぬ、勝手に……」──『ふわふわ……! ああ駄目っ……幸せ過ぎて倒れてしまいそう!』

『にゃおん──ううん! ね、魔女様笑うと可愛いねえ』

「魔女様、笑うと可愛いね、とエリオット様が」

「ばっ馬鹿を申すな!」──『ああもう! わしのイメージが!』


 ぶんぶんと首を激しく横に振った魔女は、くるりと背を向けて、アルフに早く医務室へ案内するよう声をかけた。


「あの、魔女様。よかったら……ルカ君が回復したら、二人と遊んで頂けませんか?」

「それは……構わぬが」──『むしろこちらからお願いします! こんな子たちと遊んだら、すぐに魔力が回復しそう』

「よかった、ありがとうございます」


 エステルが頭を下げると、魔女は足早に去ってゆく。それを見送ったシャーロットとエリオットは、不思議そうに首を傾げた。

 

『にゃお──ルカってだあれ?』 

「魔女様の大切な方ですよ」

『にゃーん──そうなんだ。早く良くなるといいね』

『うにゃ──魔女様と遊びたかったなあ』


 残念そうに耳を折る二人を慰めるように、エステルは二人を抱きしめた。


「大丈夫ですよ、すぐによくなります。そしたらみんなで遊びましょうね」


 エステルが二人の頭を優しく撫でつけると、姉弟は心地良さそうに目を細めた。



 シャーロットとエリオットを部屋に送り届けた後、ベルナールを伴ったエステルとライナスは渡り廊下の途中で宰相に出くわした。体調を尋ねると、問題ないとのことで二人は胸を撫で下ろす。


「宰相様、現在の町の様子をご存じでしょうか?」


 雌猫の発情期。そのせいで町がとんでもない事態になっていないか、エステルは心配でならなかった。ライナスも事情を聞いていたのか、表情を固くした。


『にゃお──ええ。遣いに出したものに聞きましたが……町の混乱は収まっていないようです』

「収まっていない……?」

『にゃお──はい、その……なんと言いますか……ええ』


 言葉にするのは憚られる事態だということか。エステルは固く目を瞑り、ライナスは天を仰いだ。


「やはりそうなの……早くなんとかしてもらわないと……」

『にゃんにゃあ──なんとかならないものか……』

「魔女様に呪いを解いてもらう他ないのでは」


 魔女に呪いを解いてもらうためには、ルカの病状が安定することが第一だ。ルカの回復なくして、魔女は自身が求めた物も食べないだろうし、子供たちと遊ぶなどもってのほかだろう。


『にゃおんにゃ──ところで宰相、父上の様子はどうなんだ?』


 毬を見て、まるで本物の猫のようになって暴れ、怪我をしてしまった国王の姿は痛々しかった。


『にゃお──はい、あれからは少し落ち着いて……安定しておられます』

『にゃあーん──それはよかった……』

『うにゃ──しかし王妃様が……その』


 宰相が気まずげに顔を伏せた。きっとよくない知らせなのだろう。

 

『にゃにゃん ──……まさか発情期の影響を受けていると?』

『うにゃ──そのまさかです』

『うにゃぁ──なんということだ』


 ライナスはまたしても天を仰ぐ。そして我に返り、エステルの肩に優しく触れた。


『にゃにゃ──エステル、頼みがあるんだが』

「はい、何でしょうか?」


 エステルがライナスを見上げると、彼の黒い三角耳がぴくんと跳ねた。


『にゃう──僕はこれから魔女殿の食事の手配、それに部屋の支度の指示や、国民達への文書の草案に取り掛かる。草案については、後程協力してほしい』

「勿論です」

『にゃにゃ──君には魔女殿のところへ行ってルカの様子を見てきて欲しい。それと……魔女殿が落ち着いていたらで構わないのだが、猫化が進行し過ぎるとどうなるのか、聞いてほしいのだ』


 ライナスの言うように確かに、猫化が進行し過ぎるとどうなるのか、確認しておく必要がありそうだった。場合によってはルカの回復を待たずに、魔女の幸福度を上げて呪いを解いてもらう必要がある。


「わかりました。しかし殿下、わたくしと離れたくないと……」

『にゃん──離れたくはない。けれどすることは山積みだし……我慢する』

「それでこそ殿下ですわ」

『うにゃみゃあ──今は我慢するから……夜は一緒に、朝までいてくれる?』


 首を傾げて魅惑的な顔をされてしまえば、返事に困ってしまう。


「なっ……なっ……!」

『にゃーお──いいよね?』


 ライナスはエステルの右手を摘み上げると、指先に軽く唇を落とす。ただの挨拶だ──だというのに、エステルの胸は跳ね上がってしまう。


『にゃお──ベルナール、エステルを頼むぞ』

「ベルナール、わたくしのことを頼むと……殿下が」

「ええ、勿論です!」

『にゃにゃ──エステル、また後でな』

「はい……」


 ベルナールとエステルの返事を確認すると、ライナスは宰相を連れてエステルと別れる。エステルは名残惜しげに指先を見つめながら、医務室へと向かったのであった。



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