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【改稿版】猫耳王子に「君の呪われた力が必要だ」と求婚されています  作者: 水鏡こうしき


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19話 初めての朝

 翌朝。


 エステルの瞼を持ち上げたのは柔らかな朝の日差し──ではなく、重くて低いカミラの咳払いであった。ハッと目が覚め起き上がると、体のあちこちが痛く驚いてしまう。


『にゃにゃ──エステル様、昨夜はおつとめ……お疲れ様でした』

「えっ、あの、いや」

『にゃおう──殿下はいつになったらお目覚めなのでしょうねぇ』


 言いながらカミラはライナスの体を包む布団を剥ぎ取る。魅力的な肉体が露になり、エステルは慌てて目を逸らした。


(わたくし……この体に……!)


 凝視してしまうと、色々と思い出してしまいそうで。余韻に浸りたいところではあるが、カミラがいる以上それは憚られた。


 エステルは首を横にぶんぶんと振り、落ち着いたところで深呼吸を一つ、二つ。もぞもぞとライナスが起き上がる気配があり、後退して距離を取った。


『にゃあ──……なんだ、カミラか』

『みゃみゃんにゃ──なんだではありません! いつまで寝ていらっしゃるのですか!』

『うにぁ──疲れているんだ』

『にゃおにゃあ──自業自得です!』


 ベッドから引っ張り出されたエステルは、ガウンを着せられ部屋の隅に連れて行かれる。カミラが花瓶を動かすと壁がスッと横に開き、その奥に細い廊下が現れた。


「これは?」

『にゃーん──隠し通路の一つです。そのような格好で廊下に連れ出すわけにはいきませんので』

「すみません……」

『にゃにゃ──エステル様のお部屋で身支度を済ませましょう。殿下は私にお任せください』


 カミラが言い終えると、隠し通路の右側から壮年の侍女がやって来た。彼女に連れられてエステルは自室へと向かう。


「いたた……」


 歩くと体がさらに痛む。昨日の夕方から明け方にかけてじっくりと愛された証拠ではあるが、毎回これだと体が保たない自信があった。


『にゃう──さあエステル様』


 言われるがまま浴室に押し込められ、壮年の侍女達によって体を清められたあと、着替えを済ませて髪を整えられる。

 

(いつもの侍女たちがいないわね? 皆壮年の女性ばかり……)


 髪に白いものが混じり、皺の刻まれた経験豊富な侍女ばかりだ。不思議に思い聞いてみると、侍女は気の毒そうに眉尻を下げた。


『みゃあん──若い侍女たちは部屋に押し込めております。皆、男を求めて……大変で』

「男を……求めて?! まさか……発情……期……!」

『にゃあん──何かご存知なので?』

「ええと……」


 雌猫の発情期について知り得た知識を全て話すと、エステルの髪を梳かす侍女が豪快に笑い声を上げた。


『うにゃにゃにゃにゃ! にゃおんにゃあ うにゃみゃあ』

「ごめんなさい、もう一度お願い」

 

 エステルは首を捻って侍女の顔を見る。


『みゃ──ああ……私ら年寄りには関係ないですねって』

「あなたたちは何ともないのですか?」

『みゃおん──見ての通り枯れ果てた婆ですから』


 エステルの髪を梳かす侍女は、皺だらけの手をエステルに見せつけた。


「その、若い侍女たちは大丈夫なのですか? 押し込めてって……」

『みゃあみゃあ──もしかしたら女同士で睦み合っているかもしれませんが、まあ……子は出来ませんし』

『にゃおんにゃ──けどずっとコレじゃあねえ、大変だよ』

「そうよね……」


 もしかしたら町はもっと大変なことになっているかもしれない。侍女たちに聞いても誰も町の様子はわからないとのことで、膨らんだ不安で胸が苦しくなってしまう。支度を急いでもらい、エステルは早足でベルナールを呼びに行った。


「ここね」 


 ベルナールに与えられた部屋に来るのは初めてのことであった。飾り気のない扉をノックしようとしたところで、中から聞こえてきた声にびくりと肩が跳ね上がる。


(この声……まさかアルフ?)


 なんて切なそうな声なのだろう。こんなにも低いアルフの声は聞いたことがなかった。


 かと思えば、時折人の女のように高い声も聞こえるのだ。


(嘘……まさか)


 全てを察したエステルは踵を返す。昨夜自分に起きたことと重なり、顔から湯気が出そうであった。色々と思い出し、体までもが熱くなる。ブンブンと頭を横に振り廊下を進んでいると、正面から慌てた様子の宰相が駆けてきた。  


『にゃにゃ──エステル様! おはようございます! はぁっ……探しました!』

「宰相様、おはようございます。何事ですか?」

『にーにゃー──魔女が……! はぁっ……闇色の魔女が王宮に現れましたっ!』

「なんですって!!?」


 衝撃の事実に耳を疑う。何故魔女が王宮に、と考えながら、エステルは息も絶え絶えな宰相の背を追った。




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