表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【改稿版】猫耳王子に「君の呪われた力が必要だ」と求婚されています  作者: 水鏡こうしき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/25

14話 初めての外交1

 馬車は順調に走り、三時間程で目的地のアルトに到着していた。途中休憩で立ち寄った小さな町で馬車の中身は入れ替わり、今エステルの向かいに座るのはベルナールだった。


「お嬢様、ライナス殿下との時間はいかがでした?」──『僕はアルフと楽しく過ごせました』

「うーん……疲れたわ」

「あらら……」


 エステルは瞼を下ろす。ライナスの一挙一動はドキドキとソワソワの連続で、心は些か疲れ気味だ。


 後半に至っては、エステルの髪につけた香油が気に入ったと言って、髪に鼻を埋めて離れなかったのだ。


「……」


 顔が熱い。先程から年甲斐もなく顔を赤くしてばかり。これから外交だというのにしっかりせねばと頬をぱちんと叩くと、エステルは馬車の窓から外を見た。


「みんな半猫……なのにこの町の人々は生き生きしているわね」

「本当に。ミュラーの町とは大違いですね」

「もしかして、猫化の進行について知らないのかもしれないわね」


 ミュラーの人々の怯えきった顔は記憶に新しい。このアルトの人々が恐怖を知らないのであれば、知るよりも早く対策を打ち救いたいと、エステルは拳を握りしめた。



 馬車が到着したのはアルト中心部の大きな会館だった。厳重な警備のもと案内されたのは広い応接室。


 エステルは頭のボンネットを取ると、ライナスの隣に収まった。


「お嬢様、それ……大丈夫なのですか?」──『一度にたくさんの人の顔を見て思考を読んでしまったら……お体が』

「大丈夫よベルナール。ミュラーの町で少し慣れたの。それに顔を隠したまま通事などして、舐められてしまっては困るもの」

「お嬢様、なんだか強くなられましたね」──『人前に出ることを、あんなに怯えていらっしゃったのに』

「ありがとう。でもまだまだよ」


 頭のボンネットをベルナールに手渡すと、エステルは口角を上げてライナスを見上げた。


「殿下も……わたくしが心配することなどありませんでしたわね」

『にゃあん──そんなことない。よろしく頼む』


 弱気な態度と強気な態度。どちらも魅力的な表情の切り替えが、ライナスは得意なようだ。きつく結んだ唇からは、自信と余裕が溢れ出ていた。


「ライナス王太子殿下、並びにエステル王太子妃、ご到着です」


 まだ正式に王太子妃ではないのだけれど、と言いたくなるのを堪え、エステルは唇の端を吊り上げて笑みを作る。応接室内の面々は、扉が開くと同時に立ち上がり頭を下げた。


『にゃあん──到着が遅れて申し訳ない。途中でトラブルがありまして』

「遅れてしまい申し訳ありません。途中でトラブルがありまして、と殿下は仰っています」


 半猫の言葉を理解し、人の言葉を発するエステルの姿に、応接室の面々は目を丸くする。


「いえいえ、災難でしたな」


 恰幅の良いこの男は、隣国ラスター王国のマーシャル商務長官だ。出発前の資料に載っていたことを思い出し、エステルは笑みを貼り付けることに徹する。


『うにゃあ──マーシャル殿、皆様、こちらは私の妻エステルです。人の言葉と半猫の言葉の通事を務めます』

「マーシャル様、皆様、わたくしはライナス殿下の妻エステルと申します。人の言葉と半猫の言葉の通事を務めます」

「通事? この方が?」

『にゃお──ええ』


『この小娘がか?』

『どういう理屈でこの言葉を理解するのだ……』

『なかなか美しい娘だな』

『王太子妃とは……私の愛人にしてやろう』

『この娘、よく鍛えているな』


 各々の心の声に、エステルの眉が僅かに跳ねる。


(好き勝手言ってくれちゃって……失礼ね)


 エステルは背筋を伸ばして胸を張り、笑みを絶やさない。


『ほう、いい体をしている』


 汚い思考を隠せていない茶髪で壮年の男は隣国マニ帝国のクレソン外務大臣だったか。にこやかな笑みの下ではとんでもないことを考えているようだ。


(あとで殿下に報告っ……してしまっては、外交関係が崩れてしまうかもしれないわね)


 自分の感情よりも、この国の交易が大切だ。エステルは更に笑みを深くして目を細め、相手の顔を見ないことに徹した。


「さて早速ですが……この国の現状をお聞かせ頂きたい」


 着座してすぐに口を開いたのは、この国最大の貿易相手国であるリッタハット王国のマティ貿易大臣だった。左目に眼帯をつけ、一見軍人のような屈強な風貌にエステルは身構えてしまう。


「そう身構えずとも取って食ったりしませんよ」

「すみません……」


(マティ貿易大臣は初見の思考を見た感じでは聡明そうだったけれど……油断してはいけないわよね)


 エステルはライナスの目を見ると、浅く頷いた。


「では……我が国の現状をお伝えします。まず、皆様ご存じの通り国民全てが半猫化しております。半猫同士での会話は可能ですが、半猫化してない方にこの言葉は通じません」

「ちょっと待て、何故君は半猫化していない?」


 マティ貿易大臣だ。彼は太い眉を寄せ、不思議そうにエステルを睨みつけた。


「わたくしは他国から嫁いできたばかりの者です。一つ付け加えれば魔女から別の呪いを受けております。その影響で半猫語を理解することが出来ます」

「君が受けた呪いというのは?」

「それは国の機密にあたりますので、お話できませんわ」

『フン、生意気な……』


 初見からエステルを小馬鹿にし続けているこの男──隣国マルマレット帝国のルッダ経済産業大臣だったか。


 馬鹿にされ続けるのは性に合わない。エステルは気丈な態度のまま、更にニコリと目を細めた。


「続けますね? まず、皆様お取り引きのあるミュラー港についてお伝えします。こちらは先程視察して来たのですが、現在大変な混乱状態で使用が出来ない状態です」

「ほう」

「ですので、ミュラー港から五kmほど北上した先にあるミュレット港を使って頂きたいのです」

「あんな狭い港に入港など……!」


 ミュレット港はミュラー港の三分の二程度の広さのため船の混雑が予想される。海上で貿易船同士が衝突すれば大惨事だ。


「あら、皆様……半猫化したくはないでしょう?」

「どういう意味です?」

「ミュラーに魔女が潜んでいるという噂があります」


 皆がどよめくがこれはライナスが作戦会議で提案した嘘であった。猫化の進行したミュラーの人々の現状を他国に見せてしまえば、混乱することは明らかだ。それならば猫化の進行していないミュラー漁港の者だけを集めて、別の港で交易をしてもらおうという算段だった。


「より安全な場所で取引したくはありませんか?」

『半猫などごめんだ……!』

『事実なのか? 何か隠しているようにも思えるな』

『美しい上に聡明な娘だな』

『愛人にして連れ帰ってしまおうか』

『娘が切れ者なのか、王太子が切れ者なのか……わからんな』


 エステルは扇で口元を隠した。


「勿論、事故防止も兼ねて入港時間を国ごとに細やかに決めさせて頂きます。巡視船の数も増やす方向です……が」

「何です?」

「巡視船の管理と指揮を、ラスター王国にお願いしたいのです」

「ほう」


 マーシャル商務長官は不快感を隠しもせず、エステルをじっと見つめた後、ライナスに視線を投げた。


「半猫化した我が国民たちに、巡視船での任務は難しいでしょう。言葉も通じませんしね。一番近く信頼できるラスター王国にお願いしたいのです」

『にゃうっ──癪だが、報酬は出す』

「勿論、対価はお支払いします」


 ライナスの本心を隠し、差支えのないよう意訳するのもエステルの大事な仕事だ。


「なるほど」

「如何でしょうか? 輸出品は物によっては数を減らさねばならないものもありまして……例えば魚とか」

「魚の量を減らす?」

「ええ、今年は豊作のようで取れすぎるのです。輸出に回したいところですが、我が国の現状を考えると増やすのは得策ではないかと──というのが、殿下のお言葉です」


 目を合わせたライナスがこくりと頷く。


「この状況はいつまで続くのです?」

「それは……わかりません。半猫化の魔法が解ければ、すぐにでも。会話ができない以上は、ここで細やかな輸出入の量を決めておかねばなりません。一先ずは品物ごとの輸出量のご提案をしても?」

『話を逸らしたな。呪いを解ける見込みがないのか?』


 切れ者の心の声に、エステルの顔が僅かに引き攣る。気が付かれてはならぬと扇で口元を隠し直し、輸出品のリストを五人に配って回った。



──────

※ご案内※

アルトの町に着くまでの3時間、馬車の中身が入れ替わりました。この間のベルナールとアルフのR18を短編として書きましたので、興味のある方はムーンライトを覗かれて下さい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ