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30:お祭り騒ぎ

 ロアを含めて、手練れの傭兵を雇う事を条件にしたアステルの雇用と魔獣の討伐、並びに村の護衛。

 いったん合意となったわけだが、そもそもマルックとアーレンが塔に来る理由となった傭兵ギルドでの募集要項はそのままだ。

 人集めのため、ギルドに一旦二人は戻る運びとなったのだが。その道行にアステルとロアの二人も同行していた。


「お二人にも来ていただけるとは。……本当に何と感謝すればよいのか」

「仕事仲間の確認もしたいからな。俺としちゃあ、アステルが付いてきたことの方が驚きなんだが」


 と、目線の下を行くアステルの背中に向かってロアはそう尋ねる。


「傭兵ギルドって行ったことないなぁって。お祭りをよくやってるって聞いたことがあってね。気になってたんだ。今日はやってるのかなぁ」


 無邪気なアステルの言葉に、ロアは苦笑した。ロアはその「お祭り」についてよく知っている。アステルが想像するような、愉快で楽しいものじゃない。いや、人によっては最高の娯楽かもしれないが。


「あるにはあるが……、そりゃロクでもねえ祭りだよ。お前にゃ縁のない話だ」

「?」


 村長達と揃って首を傾げるアステルに、ロアは肩をすくめるだけだった。

 そんな会話を交わしながら到着した傭兵ギルド。


 ガロンと重たい扉の中はにぎわっており、職を探すもの、あるいは依頼を持って来たもの達が入り乱れていた。傭兵ギルドの中は意外と広い。奥には簡易な酒場もあって、そこで酒を楽しんでいるものもいた。

 横のつながりがきっかけで仕事が舞い込んでくることもある。

 ロアのように傭兵団に所属しているものならともかく、個人で傭兵をしている者たちにとってギルドは貴重な交流の場であり、売り込みの場だった。


 フラフラとあっちこっちに足を向けるアステルの首根っこをひっつかみ、猫のように捕獲しながら一行はカウンターへと向かった。


「ねえロア、僕子どもじゃないんだけど」

「お前みたいなのが一人でいたら一瞬で取って食われるぞ」

「そんな治安の悪い場所なわけないじゃない。法治国家だよ、ここ」

「傭兵を仕事にする奴に治安の良いやつは居ねえ」

「ロアも?」

「さあな」


 ギルドのカウンターの前では大柄な男たちがギルド職員と何事かを話している。彼らの対応をしている職員は例の噂好き、フーゴだ。彼はロアたちの方を見て、パッと目を輝かせた。


「あ! 村長さんですよね! 丁度いいところに!ロアさんまで!」

「お前……後で話がある」

「えっ!? 私何かしましたっけ?」

「自覚なしか」


 ロアの視線に引き攣った笑みで対応するフーゴは、その後ろにいたアーレン達と目を合わせるとパッと表情を切り替え、真面目な顔になった。


「アーレンさん、先ほどのご依頼ですがこちらの、クラッジの皆さんが引き受けてくださるそうですよ!!」


 いやー、よかったよかったと笑いながら、フーゴが手で指示したのはカウンターの前に居た三人組の男たちだ。

 クラッジ、と呼ばれた彼らはパーティを組んでいるのだろう。リーダー格と思わしき男は大ぶりの斧を背に背負っており、武器に見合った体格をしている。

 ロアが人を見上げるなんて久しぶりだ。後ろ二人の体格も負けず劣らず大きい。


「そ、その依頼なのですが、実は、その、そのですね。変更するために来まして。皆様には申し訳ないのですが、キャンセルという形で……」

「あぁ?」

「ひぃ!」

「えーっと、理由をお聞きしても?」


 脅しつけるような斧男の声に、小さく悲鳴を上げた村長に、フーゴは普段通りの態度で理由を問いかけた。

 傭兵なんて態度の悪いやつらの集まりだ。この程度で怯えていては仕事にならない。


「そ、その。こちらのロア殿に、助言をいただきまして。い、依頼の内容の、危険度が高い可能性がある、と……、その、ですので、期間と、その、人数を減らして上級の傭兵を雇う、……ことにしたいのです」


 しどろもどろに説明をするアーレンに、斧男がぐいと顔を近づけ、喚くように言った。


「おい、ジジイ。そりゃあ聞き捨てなんねぇよ。こんなしけた依頼、誰が受けてくれると思う?俺達だって十分な手練れだぜ、なあ?」

「ひぃ!!」

「お、おいアンタなあ!!」


 唾が飛ぶほどの至近距離で、だがどこか諭すような斧男の言葉には静かな恫喝の匂いが染みついている。

 斧男の後ろの二人は推移を見守りながらもどこか、にやついた顔で彼らを値踏みした。そしてアーレンは完全に腰が引けている。

 マルックもかばうように前に出るが、斧男の眼光にさらされ、ごくりと唾を飲んで黙りこくった。このままでは面倒なことになる。

 アーレンの肩を引いて代わりにロアが前に出れば斧男はにやにやと下卑た笑みを浮かべた。

 その視線はロアではなく、アステルに向けられていた。勝手にどこかに行かないようロアが手首を掴んだままだったのだ。


「それとも、そっちのお嬢ちゃんが賠償してくれるのかね」

「……は?」


 ロアの喉から、地の底を這うような低い声が漏れる。警戒と侮蔑の籠った緑の目が、斧男の喉元を突き刺すように睨みつける。


「あ、あのぅですね、村長さん。実は彼ら…、いえ、全員ではないんですけど。えーと、そちらの斧の…、ブルータルさんは契約にサインしてしまっていて……。依頼主都合なので、キャンセルとなると1人につき、違約金の5万が発生するんですよ」

「ご、ごまん……、ですか……」

「……アーレンさん、これは仕方ねぇ。払って話は終いだ」

「いやいやいや、何話しまとめようとしてんだよ、兄ちゃん。その変更する依頼に俺達も混ぜてくれって言ってんだ。俺達はクラッジ。3年前のノルディン戦線で敵将の首を取ったのも俺だ。それでもキャンセルっていうなら補填はそっちのお嬢ちゃんを一晩貸してくれるだけで許してやるさ、な? いい話じゃねぇか」


 そういっていっそ朗らかな手つきでアステルの肩を撫でようとするブルータルの手をロアは跳ねのけた。

 バガン!! とブルータルの手甲とロアの横殴りの拳がぶつかって派手な音を立てる。今まさに狙われていたアステルはその音でやっと自分が話の渦中にいることに気が付いた。


「……触るな」

「痛いじゃねえか」


 手甲を殴りつけたロアの拳は薄ら赤くなっている。

 だが、ブルータルの手にも相応のダメージが入ったのか、あるいはパフォーマンスなのか彼はわざとらしく手をさすっていた。


「……あれ、お嬢さんって僕の事?」

「はは、気づいてなかったのかい? そっちの村長さんとこの子だろ? 村の皆を助けたいよなぁ。悪い話じゃない。お嬢さんが俺達と一晩遊んでくれるだけでいいんだ」

「別にぼ、もが」


 返事をしかけたアステルの口をロアがとっさに塞ぐ。

 抗議するようなアステルの目をのぞき込み、彼は低い声で言った。


「今からしばらく喋るな。約束できるなら手を放してやる。しゃべりたくて仕方ないならこのままだ」


 アステルは状況を未だによくわかっていなかったが、仕方なくこくこくと頷いた。

 ロアの目がいつになく、怖かったからだ。口元が解放されたアステルは、口を再び塞がれないようにロアの背中に回った。

 口は不満げに尖っていたが、口答えをする理由もないので大人しく黙っていた。

 此処はアステルの塔ではなく、傭兵ギルド。つまり、ロアの領域であることをアステルは本能的に理解していた。

 小動物のようにロアの背中に回ったアステルを見て、ブルータルが笑う。


「あぁーー、そりゃ失礼した。あんたのお気に入りだったのか」

「………」

「俺はなぁ、小せぇのが好きなんだよ。遊ぶときの声がいい。アンタもいい趣味してるじゃねぇか。なぁ? 俺たちは仲良くできると思うぜ」


 ロアは深い息を吐いた。こめかみに脈打つような青筋が浮かんでいる。だが、ロアはいっそ穏やかなまでのほほえみを浮かべた。


「ノルディン戦線か。敵将の首を取ったって?」

「ああそうだ。だったらなんだ?」

「いや、小物すぎてどうにも信じられねぇな。どうせ敵にブルって小便垂らしてただけだろ。随分いい夢を見たらしい」

「は?」

「あとは……そうだな。聞いたぜ。クラッジのブルータル、だったか。お前ら、素行が悪くて娼館出禁になったらしいじゃねぇか。それで素人に手を出そうってか? ママのおっぱいでねんねしてた方が、敵の首を取るよりもっといい夢が見れるだろうぜ」


 ロアの言葉に、ブルータルの表情がごっそりと抜ける。

 顔面に向かって振りぬかれた拳を正確に見つめながらロアはしかし、一歩も動かなかった。骨と肉がぶつかる鈍い音が響く。

 速さと体重の乗ったブルータルの拳はしかし、ロアの頬にうっすらと赤い跡をつけただけだった。体どころか、頭の位置すら変わっていない。頭に血が上ったブルータルはそのままロアの襟首をつかみ上げるようにもち上げた。

 

 憤怒ではなく、無表情で吐き捨てるような態度は異常な静けさを孕み、いつの間にかギルドは静まり返っていた。

 ブルータルの後ろにいた取り巻きたちもいつの間にか、ロアを囲むようにして立っている。彼らにとっても許しがたい言葉だったのだろう。


「おい、殺されてぇのかテメェ……‼」


 いきり立つ取り巻きに先立つように、ブルータルはロアの襟首をさらに上に引き上げると鼻先が触れるぐらい顔を近づけて恫喝した。


「人の戦績を侮辱するたあぁいい度胸だな。死ぬか? 今ならそっちのガキを置いて土下座すりゃ許してやるぞ、なぁ?!」

「喋る糞袋がゴタゴタ抜かすな。失せろ」

「……もういい、殺す」

「やってみろよ」

「死ね」

 一触即発、限界まで張り詰めた空気の中、ブルータルの手が背中の斧に伸びる。

 その瞬間だった。カウンターの奥から走り寄ってきた、女性職員の少し間の抜けた大声がぶち破る様に響く。

 拡声魔法を使っているのだろう、その声はギルドどころか外にも聞こえるほどたった。

『はーーーい!! ギルドでの殺傷は禁止ですよー!! 白黒決めるなら喧嘩!! 武器、身体強化を含むあらゆる魔法は禁止の喧嘩で決めてください!! そちらの、えー、四人ですかね。これ以上は決闘です!!』


「「「「「うおおーーーーー!!!!」」」」

「……ああ、クソ……」 




いつも読んでくださりありがとうございます。

このシリーズを小説賞に応募することにしましたので、星見台シリーズは2月いっぱいをもって一度非公開にさせていただきます。

別サイトでの掲載は許可されているため、もし続きを楽しみにしてくださる方が居たら、タイトルで検索して見つけていただければと思います。

ブクマ、評価、応援ありがとうございます。

一度挑戦してみたいと思っていた事だったので何卒応援のほどよろしくお願いします。

あえなく選考早期に落選した場合は、またこちらで連載を開始させていただきます。

その時はどうか笑って迎えていただけると嬉しいです。


凪埜ニル

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