22:後始末
アステルをベッドに押し込んだロアは、着替えを済まると足早に研究室へと向かった。
まだ血の匂いが濃いそこでは、作業台に深く眠らされているデメコレアとマティアスが横たわっている。
いまだに水が滴る毛先を煩わしそうに絞り上げたロアは、デメコレアを雑な手つきで担ぎ上げると一階へと向かった。
部下を待たせているのだ。
子供たちが運び出され、がらんとした一階ホールの中央に黒い革鎧を纏った青年が一人立っている。 今回の誘拐事件でアステル達が攫われたとき、追跡を担当していた者だ。
「待たせたな、クラース」
「いえ。……例の錬金術師は?」
「寝た」
「左様ですか。子供たちはご指示どおり、隊舎へと運びました。念のため、医術師とレオファルディス隊長に様子を見てもらっています」
「重畳」
「そちらはいかがいたしますか」
クラースはロアが肩に担いでいるデメコレアにちらりと視線を向けた。
死体ですか?と目で聞くクラースにロアは首を横に振ってこたえる。
「五体満足、健康体だ。精神の方は知らんが……、あんまり喋られても厄介でな」
小麦袋でも渡すようにデメコレアを預けたロアは、もう一つ、ポケットから赤い液体が揺れる小瓶も一緒にクラースに渡し、唸る様につぶやいた。
「子どもを7人。関係者ともなると親兄弟を含めてその倍。そこそこの騒ぎになってるはずだ。いくら貧民街のガキだからって騎士団がここまで動かねぇのはあり得ねぇ。裏でなんかやってる可能性がある」
「あそこ、ハルゲン支部長に代わってから少し動きがキナ臭いですよね」
「ああ。ついでにハゲ支部長をどっかに飛ばすネタが出てくりゃ最高だ。それと……、これな。アステルから便利なものをもらった。頭を緩くしてお喋りが楽しくなるお薬だ。諸々の余罪があるかどうか聞き出せ。点滴1、小瓶1の割合でいいんだと」
「了解しました。これ、……定期購入ってできますかね?」
渡された小瓶を光に透かして眺めたクラースは生真面目な口調でつぶやいた。
「あとで聞いておくよ」
「これがあれば新人にも尋問を任せられそうです」
「尋問は技術だからな……」
「最近は周辺諸国の情勢も少し不穏ですからね、使える物は使いたいです」
「王宮から装備や薬を支給してもらえたら楽なんだがな」
「ウチがそれをしたら大問題ですよ」
「全くだ」
グレイハウンドは傭兵団だ。
拠点こそミネルヴァ王国にあるものの、その本質はどの国のどんな仕事でも受ける、金をただ一つの主に据える傭兵団。
それは、表向きの話。
金さえあればどの国のどんな仕事でも受ける。
つまり、金が動く場ならば、何処に居ても何をしていてもおかしくない。
ましてや、高名な傭兵団ならばひっきりなしに依頼が入ってくる。
裏向きの話。
つまり、グレイハウンドの本当の仕事。
ミネルヴァ王家に仕える諜報機関。
それが彼らの役割であった。
国家機関に属するとはいえ、その性質上彼らはミネルヴァ王国とは一切のかかわりがない事になっている。
偽装を徹底するため、彼らが受けられる支援は何重にも隠されて送られてくる金銭のみ。
現状に肩をすくめたロアにクラースが困ったように笑う。
「そういうわけだ。デメコレアに関しては情報を絞った後は……、そうだな。口をきけなくしてから真犯人として騎士団に突き出せ。動きが鈍いようなら錬金術院にも今回の事をリークしろ。アステルの名は出すな」
「はい」
「あと、もう一人子供を運んでくる。それで最後だ」
「了解しました。団長もお休みください」
「ああ、お前らもな」
現在時刻は昼。
人目に触れぬよう、荷馬車に隠して最後の二人を運ぶのだ。
ロアは研究室で眠り続けるマティアスをクラークに渡し、扉が閉まった瞬間大きなあくびをした。
ロアの長い1日が、ようやく終わろうとしていた。
ソシャゲの更新読んで放心してたらこんな時間でした。




