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コーヒーはインスタントで

作者: なちも

 生活の中で無くてもさして困らないが欠かせない嗜好品と言われたら、私はまずコーヒーを思い浮かべる。


 酒。甘いもの。ポテトチップス。チョコレート。チーズ。

 それから、タバコ。私は吸わないけれど、子供の頃、父がベビースモーカーだった影響か、今でも嗜好品と言われると自然に頭に浮かべている。


 でも、1番はやっぱりコーヒーだ。


 こだわりらしきこだわりは特にない。

 別にサイフォンやらミルやらを使った凝ったものでなくていい。水も天然水とかじゃなくてもいい。


 ゆっくりお湯を沸かして、フィルターにちゃんと粉を測り入れ、蒸らして、マッシュルームのようにもっこりとふくらむ泡と立ち上る香りを感じながら丁寧に淹れるコーヒーが美味しいことは勿論わかっているが、普段自分のために淹れることは滅多にない。自分が飲むために普段入れるのはコーヒーを一言で言い表わすとすれば「がさつ」。

 まずは適当に粉をカップに入れる。

 次に蛇口からジャっと水を直接カップに注ぎ入れたら、それでおしまい。

 雑も雑。極めて雑。

 唯一のこだわりらしいこだわりは、あまり濃くしないこと。カップの底が少し透けているくらいが良い。


 これを、水のように飲む。


 朝起きてコーヒー。朝ご飯を食べながらコーヒー。仕事をしながら合間にコーヒーを飲み、昼ごはんを食べながらコーヒーを飲む。

 昼食後も勿論仕事のお供にはコーヒーを持参し、家に帰ってきたら一息つくためにコーヒーを入れ、風呂上がりにも夕飯時にもやっぱりコーヒーを飲んでいる。なんなら寝る前にも飲む。


 体に悪い。私もそう思う。思いながら、やっぱり手が伸びる。


 時にはコーヒーじゃない方が良いなと思うことだって、勿論ある。


 例えば、レモンケーキやレモンパイを食べる時は紅茶の方が合うぞ、と思う。

 そうすると、頂き物のとっておきの紅茶のティーバッグが棚のあのあたりにある。花のような香りとコーヒーとは違う酸味と柔らかな苦味は、絶対このケーキと相性抜群。飲まなきゃ勿体ない。

 そう思いながら、でもなぜだかやっぱりコーヒーが手元にある。

 飲みながら(紅茶の方が合うな)と思っている。


 ある日、強烈に頭が痛くなった。

 頭痛に襲われることなんて普段は滅多にない。なんか吐き気もするし、若干ふらつく感じもする。

 どうしてと考えて、すぐにカフェイン中毒が浮かんだ。むしろそれしか浮かばなかった。


 カフェイン中毒。重度「死亡」。

 コーヒーは好きだ。でも、死因がコーヒーなのは嫌だ。


 急遽入れようとしていたコーヒーをやめて、水をがぶ飲みし、しばらくしたら頭痛が柔らいだ。

(やっぱりか。そうだと思ってた。私はついにコーヒーが飲めない体になってしまったのだ)

 その日からコーヒーはやめた。

 でも、半年も経つ頃にはそんな恐怖も薄れ、やっぱりコーヒーの瓶に手を伸ばして、マグカップを手にとっている。ーーーまあ、最初の一口二口はさすがの私も慎重に味わったが。


 おにぎりやお寿司を食べながらもコーヒーを飲んでいるものだから、

「合わないでしょう」と連れに眉をひそめられる。

「うん。あんまり合わない」でも平気だ。

 これには自分でも首を捻る。


 こんなにコーヒーばかり飲んでいるなんて、依存症なんじゃないのかと思ったこともある。

 でも、試しに何ヶ月もコーヒーを買わないまま過ごしてみたら、案外平気で過ごせてしまった。別にイライラしたりもしなかったし、たぶん依存までは行っていなさそうだとホッとしてしまった。


 不思議だなぁと思う。


 不思議と言えば、他所行きのコーヒーになると急に丁寧になることだ。

 お客や友人に向けて入れるとしたら、ドリッパーとまではいかずとも、せめて湯は沸かす。

 他所様にお邪魔した時、ドリッパーを使って丁寧に淹れたコーヒーが出て来たら、なんとなくこの人とはうまくやれそうだなと感じる。

 逆に、雑なコーヒーが出て来たら、顔には笑みを浮かべながらも、なんとなくちりりとした引っかかりを残してしまうような気がする。

 お店で出されたら、料理の味がよほど好みでもない限り、たぶんもう二度と足が向かないだろうなと思う。


 そう思うと、コーヒーは私にとってある種のフィルターのようなものでもあるのかもしれない。

 個から日常へ。リラックスから緊張へ。開始から終了へ。そして、日常からまた個へ。


 色々考えてみても、コーヒーと私の間にあるものが何なのか、結局、はっきりしたことは自分でもよくわからない。


 このごちゃっとして色々なものを内包しているような宇宙的な感覚。

 私はこの曖昧で心地よい包容力を結構気に入っている。

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