教師近藤と図書室
近藤は、働いている中学校の休み時間に時折、図書室に赴きます。
彼は読書家ではないですし、何か調べたいことがあったりするわけでもありません。それでいて丹念に棚を見て回り、とても内容の難しそうな本を選んで手に取ると、小脇に抱えて室内をうろちょろします。
また、こんなことも行います。
「きみは図書委員かな?」
まず前のカウンターのところにいる生徒にそう声をかけます。
「はい」
「貸出や返却の仕事なら、私が代わろう」
「え? でも……」
「いいんだ。どうせ私はここで読書をするのだから。せっかくの休み時間、若者は友達とスポーツをしたり、いっぱい遊びなさい」
「はあ。じゃあ……」
そして手に入れたカウンターという目立つ場所で、持っていた難しそうで分厚い書籍を、表紙を見せびらかすようにして立ててテーブルの上に置いて、開くのです。
「なるほどー」
図書室では静かにしなければいけませんから声を潜めますが、そのようにつぶやいたり、本と格闘しているといった態度で、険しいながらもりりしい顔つきでページをめくっていくのが常です。
こうした行動をとるのは、校内の人々に賢く見られたいからなのでした。なんということでしょうか。だったら、そもそも教師なのですから、普段の振る舞いを気をつければ済むことなのに。
しかし、その思惑とは裏腹に、図書室に来る主に生徒のほとんどは、近藤と違ってちゃんと本を読んだり調べることがあったりで、そちらに集中していて、誰も彼のやっていることに気づきすらしないのでした。