幸せは甘く儚くチクリと痛む胸の中に消えてゆく
「冴木、この問題集どう?」
冴木は僕の渡した物理の問題集をパラパラとめくり
ウンウンと頷き
「イイね…流石 拓真のオススメ」
そう言ってジッと僕の目を見て微笑んだ
心臓がギュギュッと鷲掴みにされたように脈を打つ
冴木の笑顔は心臓に悪い
平常心平常心…
「じゃ、コレ買ってくる」
「ん 俺、外で待ってるわ」
「OK」
本屋の外に出て木陰のベンチに座る
良い天気だ
初夏の心地よい風が新緑を揺らし
瑞々しい若葉が眩しくキラキラと輝いて見える
いつもより眩しいな
やっぱり浮かれているから…
そう見えるんだろうか
「お待たせ!次、行こうぜ!」
「おぅ!」
「………」
冴木がまたジッと僕の顔を見ている
「な、何?」
「ん?いや別に」
「なんだよ!」
「拓真って家では拓ちゃんって呼ばれてるのな」
冴木がニヤニヤしながら言う
「…」
「俺もそう呼んで良い?」
「は?嫌だよ!」
「いいじゃん」
「絶対ダメ そう呼んでも返事しないからな」
「えー ケチ!」
冴木が残念そうにむくれる
「まぁ いいや 次の店に行こっか」
「ん…次はスニーカー買いに行くんだろ?」
「そうだな 拓真は何か買うものある?」
「…別に あぁでも姉ちゃんたちにお菓子かなんか買って帰ろうと思ってる」
「へぇ 仲良いんだな」
「年が離れてるから…いつもいっぱい面倒見てもらっててさ…頭上がんないんだよね」
「ふーん 確かにそんな感じだったな」
「冴木は?兄弟いないの?」
「いるよ!兄と弟と…」
「へぇ…仲良い?」
「仲良いよ…弟なんか超ブラコンだし」
「そうなんだ」
そんな話をしている間に目的の店についた
「どんなヤツ欲しいの?」
「うーん…コレかコレなんだけど…」
冴木がスニーカーを指差す
「へぇ…どっちもカッコイイな」
「だろ?どっちにしようかめっちゃ迷ってて…」
「履いてみれば?足馴染みの良い方が良いし?」
「そうだな」
冴木がスニーカーの試着をはじめる
「うーん…どうしようかなぁ?」
「見た感じはそっちの黒いやつの方が俺は良いと思うけど」
「あーやっぱり?俺もそう思った」
「そっか」
「ご意見一致!コッチにしよ」
レジを終えた冴木と店を出ると
「なぁ拓真…腹減った なんか食べようぜ」
冴木に言われふと腕時計を見ると12:46になっていた
確かにお腹すいたな…
「なんかって…冴木は何が食べたい?」
「そうだな…食べるものは何でも良いけど…食後に美味しい珈琲が飲みたいな」
「そっか…うーん…あっ!さっき来る時通った道沿いのカフェレストランのランチ、良さそうだったなぁ」
「へぇーじゃあ そこにするか」
「ん、そうしよっか」
楽しいな
大した内容じゃないけど冴木とたくさん話して
買い物して…
ランチも一緒に食べられるのか
来て良かったな
僕はウキウキとした気分でカフェレストランへ向かって歩きだした
しばらく行くと
「瑠加!久しぶり!」
そう言って突然 綺麗な男の子が冴木に飛びついてきた
え?!誰!?
「なんだよ…イブ…ほら離れろ」
抱きついている男の子を剥がそうとする冴木
イブって言うのか、この子
ずいぶん親しそうだけど…
「瑠加…冷た〜い!久しぶりなのに!」
プクッと頬を膨らませても
やっぱり綺麗な子だ
中性的で少し気が強そうで身長は高めだけど華奢で
冴木に甘えたように擦り寄る姿はなんだか可愛らしいし…
僕のなりたかった理想の姿に近い
良いな…
お似合いだな…
羨ましい…
「久しぶりって言ったって先週だって家に来て飯食ってったろ!」
「1週間もたてば久しぶりでしょー」
「いいから、離れろよ」
「るぅかぁ〜暇なら遊ぼうよ!」
「暇じゃねぇよ!俺はこれから拓真と昼メシ食いに行くんだよ!」
「ん?拓真?誰それ?」
そう言ってイブくんははじめて僕の方を振り返り
僕を視界に入れた
そして冴木の肩に両腕を回したまま
頭のてっぺんから爪先まで品定めをするかのようにジッと見つめてくる
「ふ~ん?この子?拓真って…」
「…あ、あの…」
「瑠加の高校の友達?」
「そうだよ!イブ、もう良いだろ」
冴木がイブくんを引き剥がすと
イブくんは僕の顔を覗き込んで言った
「僕もランチ一緒に行っていい?」
「え?あ、ハイ…」
「おい!イブ!ちょっとは遠慮しろよ」
「この子はイイって言ったじゃん!」
「あ~もう!
ごめんな拓真…イブは幼馴染みなんだけど…いつもこんな感じで…言い出したらきかないんだ…一緒でも良いか?」
冴木は頭をガシガシと描きながら僕の目を見つめて申し訳なさそうにそう言った
「へぇ…幼馴染みなんだ…大丈夫だよ一緒にランチしよう」
と、つくり笑顔で言ったけれど
すぐにそう言った事を後悔した
仲良さそうな2人を前にランチか…
チクリと胸が痛む
冴木と2人でランチしたかったな…
幸せな時間って短くて儚いんだな
この…刺すような胸の痛みの正体を
僕はもう知っている…
僕は
冴木の左腕に両手を巻きつけて
笑顔で歩くイブくんを横目に
チクチクと痛む胸に手をあて
その痛みごと腹の奥底に飲み込もうと思った
そして
何でもないような顔をして2人の後をついて行った…




