彼女が欲しいとか、欲しくないとか
3年生が引退した後
俺は正キーパーになった
ミナと佐藤も熾烈なポジション争いを経て
今はレギュラー入りを果たしている
戸田先輩がいなくなった後の2年の先輩たちは以前よりずっと友好的でトラブルも無くなった
新キャプテンの藤森先輩は人望もあり
微妙な空気感だった1年と2年の間をサラッとまとめ上げ
年が明ける頃には強豪校の名に恥じない良いチームになっていた
冬休みも練習やら試合やらで部活部活の毎日だったけれど
年末年末の数日だけは休業日となり
元日、俺はミナと佐藤と近くの神社に次の大会の必勝祈願のためという口実で初詣に出かけることにした
「あ!あれ、瑠加と伊吹じゃね?」
ミナが参拝客であふれる参道の奥を歩く2人を見つけた
「ああ、本当だ…楽しそうだな」
こんな光景を見るのは何度目だろうか…
「せっかくだし声かけて合流しようぜ!」
ミナが嬉しそうに言う
「え!別に声かけなくて良くね?なぁ拓真」
今にも飛び出して行きそうなミナを佐藤が慌ててとめる
「え?…あ、そうだな邪魔したら悪いし…
それに俺たちは必勝祈願のミッションがあるしな」
俺は渾身の作り笑いでミナと佐藤のほうに顔を向ける
「オレさ、あの伊吹くんって子ちょっと苦手なんだよね…すっごい綺麗だけどなんか目が笑ってないっていうか…あの『瑠加』以外を受け付けない雰囲気とか…なんか、声かけたら悪いような…」
「えーそうかぁ?佐藤、気にしすぎじゃね?」
ミナは不服そうだ
「そうだ、ミナ!お参りしたら甘酒もらいに行こうぜ!な?」
「あぁそうそう、ここの神社で配る甘酒って美味いんだよな!さすが拓真!わかってるぅ!寒いし、早く飲みたいなぁ」
俺と佐藤は甘酒をミナにアピールして引き止める
そうこうしているうちに冴木たちを見失ったミナは
「あれ?瑠加たちいなくなっちゃったな…
しょうがないかぁ…こんだけ人がいるとなぁ
まぁいっか、行こうぜ!」
そう言って佐藤の肩に腕を回した
冴木たちが人混みに消えた事に少しホッとして
深く息を吐いた
もう見慣れた光景とは言え
流石に…近くではあまり見たくないもんなぁ
「ほら行こうぜ、拓真」
「おぅ」
列に並びゆっくりと歩く
「なぁ、佐藤と拓真はお参りで何お願いする?」
「は?必勝祈願に来たんだろ?」
「えー!一つくらい個人的な願い事したって良いじゃん!俺はねぇ~彼女できますように!とか」
ミナがニカッと笑う
「うわ~彼女欲しいとか祈られても困るだろ…神様だって…なぁ」
佐藤はそう言いながら俺の肩にポンっと手を置く
「なんだよ!良いだろ!佐藤は彼女いるからって!」
ミナがふくれっ面をする…意外と可愛いらしい
「ミナは神頼みしなくたってそのうち彼女くらいできるだろ」
「拓真ぁ〜なんだよ心もイケメンかよ〜」
ミナが抱きついてくる
「ところで拓真クンは…恋愛とかどうなんですかぁ?全然何の噂も話も聞いたこと無いんですけど!」
ミナが頬をツンツンと突きながら覗き込んでくる
「ん?んん~別に特には何も?」
「えぇ~?興味もないの?」
「ん〜そうだな…あんまり興味無いかな…」
「枯れてんなぁ〜拓真」
「別に良いだろ…」
「まぁまぁミナ、人それぞれって事で…」
「彼女持ちで余裕な佐藤クンは黙っててクダサーイ
あ!そうだ!確か佐藤の彼女って白仙女子学園だよな?」
「え?あーまぁ そうだけど〜」
「なんだよ 歯切れ悪いな」
嫌な予感しかしない
佐藤もそうなんだろう顔を少し歪ませている
「次の大会終わったらさ、彼女の友達紹介して!俺と拓真に!」
やっぱり…
「俺はいいよ…紹介とか要らねぇし…」
「えぇ~良いじゃん!合コン!合コン!青春しようぜ!」
「青春は部活で間に合ってます」
「拓真ぁ〜」
「ほら!そろそろお参りの順番だぞ!しっかり必勝祈願しないとな!」
まとわり付くミナを引きずりながら前へ進み
参拝をすませ、脇にそれる
「あっちだろ?甘酒配ってるところ!」
「うんそうだな…行こうか」
「で!佐藤!彼女に頼んでくれるのか?なぁなぁ!」
甘酒を片手に境内の端でミナが佐藤に詰め寄る
「勘弁してよ…ミナぁ」
「ほら、ミナ甘酒、温かいうちに飲んじゃおうぜ」
「むぅ…拓真は彼女欲しくないのか?」
「…欲しくない」
「またまたぁ〜強がって…」
「お、俺は…恋人とか無理に作るんじゃなくて
好きだなぁって思える人と出会って相手からも同じように思われて…で恋人になる…みたいな感じが…」
「拓真クン…そんな悠長なことを言っていたらいつまでたっても彼女はできませんよ!!もっと積極的に出会いを求めないと!まずは出会わないと、好意も持てないぞ!」
「あーうん…そうね…そうなんだろうね…」
ダメだミナの彼女とラブラブ青春したいモードが終わらない…
……佐藤と俺は黙って甘酒をすする
「なんだよ〜2人とも黙るなよぉ」
「あれ?ミナ?」
ハッとして声の方を見ると
冴木とイブくんが甘酒を手に立っていた
「おー!瑠加!お前らも甘酒か?」
「おう、ここの甘酒は毎年美味いからな」
「そっか!俺もさっき佐藤と拓真に美味いからって言われてさぁ」
ミナがそう言うと冴木がこっちに目線を向けた
「……」
どうしよう…何か言ったほうが良いだろうか…
「拓真…」
「あ、あけましておめでとう?」
「ぷっ、なんで疑問形なんだよ」
「え?いや?なんとなく?」
「あけましておめでとう、今年もよろしくな!」
冴木がニコニコとしながら言う
笑顔が眩しい
「あぁ、こちらこそ」
そう少しひきつり気味な笑顔でかえすと
横からミナがきりだす
「なぁなぁ!今度の大会が終わったらさぁ
佐藤の彼女の友達を紹介してもらって合コンするんだぁ!」
「えっ?」
佐藤と俺と冴木の声が重なる
「瑠加は参加させないぞ!みんな持ってっちゃうだろうからな!見てろよ!絶対に彼女作ってやる!」
ミナの鼻息がフンスフンスと荒くなる
「ミナぁ、紹介するって言ってないだろ?」
佐藤が困ったように言う
「頼むよぉ…佐藤」
「嫌だよ」
「ねぇ~お願い!ほら、拓真も一緒にお願いして!」
「え?いや、俺は別に紹介とかしてもらわなくても…」
「も〜拓真ぁ、やる気出せよ」
「って言われても…興味ねぇし…佐藤も困ってるだろ?そのくらいにしとけって」
「えー」
「ミナは女の子追いかけ回すよりボール追いかけ回す方が似合ってるぞ!」
「拓真、ヒデェ…俺泣いちゃう」
その様子を見ていたイブくんがクスクスと笑い出す
「瑠加の友達面白いね〜」
…うん…可愛い笑顔だ
「そうだな」
冴木も笑っている
「なんだよ…もう…チェッ……
あ!そうだ、じゃあ今からみんなでカラオケとか行かない?」
ミナが急に思いついたように言う
「良いねえ!行こうよ!ね?瑠加!」
イブくんが冴木の腕に手を絡める
「うん…そうだな」
え?俺…無理だ…このメンバーでカラオケとか
無理…無理…無理…
それに今日はこの後、一応予定あるし…
断っても良いよな…
なんて考えていると先に佐藤がきりだす
「あ!ごめん!俺、この後約束があって…」
「ん?佐藤!さてはお前…彼女だな?」
ミナが佐藤の頬を引っ張る
「そうだよ!悪いか?」
「ふん!ちくしょう!どうぞご勝手に!拓真は行くよな?」
ミナがこちらを向く
「ご、ごめん俺もこのあとちょっと予定があって…
悪い!また今度な!」
「えぇ?マジかよー
は!まさか…拓真も実は彼女でーすとか?」
ミナが詰め寄ってくる
「違う違う!」
「…じゃあ何だよ?」
「森先輩と約束してて」
「あ!だからさっき必勝祈願と一緒に合格祈願のお守りも買ってたん?」
「そうそう」
「へぇ、森先輩に呼ばれたん?」
「うんそう」
「ふーん…じゃあ許す!森先輩によろしくな」
「おう!」
「…拓真、あいかわらず先輩と仲が良いんだな…」
冴木がボソッと言う
「え?まぁ…そうだな」
「森先輩は拓真のこと超お気に入りだからな!」
ミナと佐藤が口を揃える
「そうか?普通だろ?」
「だ、大丈夫なのか?」
冴木が謎の心配をしてくる
「へ?何が?」
「何言ってんだよ瑠加…拓真がキョトン顔になっちゃっただろ〜」
ケラケラとミナが笑う
「じゃ、まぁそういう事で!ほら拓真、駅まで一緒に行こうぜ」
「ああ」
「またな!」
「おぅ!またな!」
冴木はまだ何か言いたそうだったが
佐藤に促され俺はミナたちと別れて駅へと向かった
本当は森先輩と会うのは夜だから
カラオケに行けなくも無かったんだけど
それは秘密と言うことで…




