碧天と恋々
ミナたちと別れ
サッカーコートへと走る
後ろを振り向かないよう
スピードを上げて走る
ふと
甘えたようにふわっとした笑顔で
冴木を見つめるイブくんが脳裏を過る
そしてそれを優しく見つめ返し微笑む冴木の姿を想像する…
ダメだ…考えるな、走れ!
雑念を振り切るように全力で走りコートへとたどり着く
苦しい
苦しい
苦しい
サッカーコートにあるロッカールームのドアに手をつき
息を整えようとする
あぁ…
もう…息ができない
指先が冷たい
立っていられない…
ドアについた手を
ズルズルと滑らせ
しゃがみ込む
あぁ…どうしてこんなにも
冴木が溢れてしまうんだろう…
とめどないやるせなさが
くらくらと目眩を誘発する
俺は立ち上がれるだろうか…
しばらくドアの前でしゃがんでいると
3年の先輩たちがやってきた
「あれ?拓真?」
「どうした?具合悪いのか?」
こぼれ落ちそうになる想いと涙を
やっとの思いで仕舞い込み
ぞろりと立ち上がる
「先輩、おはようございます」
「大丈夫か?顔色悪いぞ?」
「大丈夫です。駐車場からここに来るまで
猛ダッシュで来たら息が上がってしまって…」
「そうか?あんまり無理するなよ?」
「はい!」
そう言って渾身のつくり笑顔を先輩たちに向ける
「じゃ、着替えてコートに行こうぜ!」
「はい」
先輩たちとロッカールームに入り
ユニフォームに着替える
「うん!よしよし顔色戻ったな!」
「よし!拓真!アップするぞー」
陽気な先輩たちに引っ張られ
コートへと向かう
少しだけホッとする
コートの芝生の緑が
陽の光でキラキラとしている
緑が眩しいな…
はぁ…
集中しないと…
怪我するよな
コートの手前で立ち止まり
ゆっくり瞼を閉じて
ゆっくり息を吐く
そして大きく息を吸って
コートに向かって一礼しながら大きく叫ぶ
「よろしくお願いします!」
両の手で頬をペチペチと叩き
気合を入れる
頭の中をリセットするように
大きく首をふって前を向き
先輩たちの後ろについて
コートの中へ入りアップをはじめる
チリチリと焼け付くような胸の痛みと
仄暗い闇の中を歩くような感傷
熾火のように燻る恋々…
ぐちゃぐちゃな心持ちを抱える俺とは正反対の
澄んだ碧天が恨めしかった




