ありきたり
「うわああああああああああああああああ!!!………いったぁ!…くない?あれ?」
真っ白な空間で目が覚めた。頭が混乱している。
え?俺死んだの?
寝起きみたいな頭をクリアにするため体を思いっきり伸ばしてみる。
落ち着いて思い出してみると自分が生きていることに驚くほどの事が起きたのを思い出す。
まず思い出したのはあの外の異変。
異様なまでに眩しい外の光と誰もいなくなったかのような恐ろしい雰囲気。
そこから怖くなって飛び出したところから記憶がない。
ここまでせいぜい5分ほど、意味がわからない。
自分に何が起きたのか、周りに何が起きたのか、もう何一つ分からない上に今この場には自分以外の誰も存在していない。
いやまて、ここはどこだ?
あらためて周りを見渡してみると、そこには何もないことがわかる。
とりあえずなにか、誰か探そう。
そう思ってからは早かった。
「誰かいませんかーーー!!!いたら返事して下さーーーい!!!」
今まで出したこともない大声で呼びかける…が、やはり返事はない。
次になぜか動く気がする体を動かしてみると、
動いた。16年間まともに使えなかった自分の足が。
歩けた。ふらつきながらも、しっかりと前へ。
初めて動かす体で人生で初めて走ってみる。
驚いたことに僕は足が速いのかもしれない。
今までの人生ではありえないスピードで移動していることがわかり走るのが楽しくなってくる。
走ることにはかなり違和感があるが数分するとそれにも慣れてしまう。
本来の目的も少し忘れつつ走ることの気持ちよさを感じながら少し移動していると、不意に辺りが暗くなり地響きのような音がし始めた。
その轟音とともに目の前に唐突に城のような建物が現れた。
小さく、少しボロついていて、でも厳かで神聖で近づき難い、そう思わせるような城だった。
明らかな異常が起きているのは分かるのだが、さっきまでもよっぽどありえないことが起きていたし、なぜか動く体に全能感を感じているため怖さはあまり感じない。
少しその光景を眺めていると城から何かがでてくるのが見えた。
それは、人のような形をしていてどこかおぼろげなモノだった。
「急にこんなところに呼び出してすまない。君は奏優汰だね?」
と、声をかけてきた。
「そう…だけど…」
「ならよかった、間違えてなかったね。」
いやなにもよくねぇよ、なんて思ったが相手の柔和なイメージの声にマイナスな感情が霧散する。
「君は自分の人生を楽しみきれていないようだったからね、ちょっと異世界まで飛ばしててやろうかと思ってたんだけど…どうかな?」
頭がはてなまーくだよほんと何言ってるんだこいつ。
「いやいやいや展開が早いよ!まだなんもわかってないから、っていうかあんただれだよ?カミサマ?ちょっとちゃんと説明してよ、いま僕どういう状況なの?ここは?あんたマイペースすぎるだろ!」
とまくし立てて気付く。これマズくね?と。
「君の言った通り一応僕カミサマなんだよね。もうちょっと丁寧に喋ってくれないと困っちゃうよ…まあ僕が悪いか…。いいよ、君の聞きたいこと全て答えてみようか。ほれ、質問ちょうだい?」
あっぶねぇ気の良い人で助かったな…次から気をつけるか。
そうして聞いていってみると僕はこのカミサマに新しい世界に飛ばされる準備中らしいことがわかった。
どうにも不自由で面白みのない人生を送っていた僕を見て、もっと楽しそうな人生をあげようと画策したらしい。
あれだ、よく聞くカミサマに異世界転移させてもらって新しい世界で好きに生きる!的な。
曰く、新しい世界は剣と魔法が蔓延る世界だとかなんだとか。
「僕の身体が動くようになったのもカミサマのおかげなの?」
「そうさ?異世界いって身体が動かないなんて最悪だろう?楽しんでもらうために異世界に飛ばすんだから。」
「じゃあ僕も魔法が使えるようになるの?」
「う〜ん、それは君の努力次第じゃないかな。特に特典みたいなのも考えてないし、あと一般人だし。」
衝撃が走った。確かにこの転生は特に何か貰えるわけではないのか。
「というか君あれだね、こういうの読んだりしてたからか飲み込みが早くて助かるね。」
「だからこそ何か特殊なものを持ってみたかったんですけどねぇ…」
言えばカミサマはう〜んと悩み始める。
「そうだな…少しだけだけどスキルでも装備でも立場でもある程度のものならあげようか。」
お?やっぱいい人だなこの人。ちょっと好きになっちゃう。
「じゃあやっぱり魔法が使いたいですね。」
「なら魔法の才能?みたいな感じでいいかな。あと一つはどうするかい?」
そこで悩む。やっぱり役割的なので考えるべきか…
僕がゲームで良く使っていたロールといえばあれかな?
「タンク…防御職がやりたいので盾使いとか足回りの強化がほしい…んですけど…」
「それなら3つまでということにしてあげよう。これで満足かい?」
「ありがとうございます!」
良いカミサマだな、本当に助かる。
「まあもうそろそろ準備ができたようだ、行くかい?」
なんと!もう飛ばされるのか!いいけど。
「じゃあ最後はカミサマっぽいことでも言おうかな…
おっほん、勇者奏優汰よ!新たな地、新たな生を精一杯生きるが良い!」
笑顔で言い終わると同時に意識が遠のく。
浮遊感。
そして目が覚めたとき、僕は異世界に転移していた。