絶対にいや!!!!
※金髪の少女・ジュリ視点になります。
※残酷な描写があります。作者は泣きながら書きました。苦手な方は次のページからお読みください。
お客様のお相手をする時の衣装に着替えて、ジンムカ様の所へと向かう。
ジンムカ様は私が目を腫らせて来たことに驚いていたけれど、私が落ち着くまで何も言わずに抱きしめてくれた。
夜も更けてジンムカ様がそろそろ帰ろうかという頃になって、私は自分でも意識しないままに「帰らないで」と口にしていた。
驚いて手でとっさに口を塞いだけれど、ジンムカ様も驚いていた。
「ジュリが私に願いごとを口にするのは、初めてだね」
と困ったように笑いながら、私を抱きしめて、優しく頭を撫でてくれた。
…私は、ずるい。
部屋に戻って、セラが帰ってくるのを待つのは嫌だった。
ボロボロになって帰ってくるであろうその姿を、どうしても見たくなかった。
ジンムカ様のお顔に手を伸ばして、私からキスをする。少しでも長くここにいて欲しくて。
自分から男の人にキスをするのは初めてでドキドキする。ドキドキが不安を覆い隠してくれる。
舌を絡めて、抱きしめて。
そうしているうちに、ジンムカ様は私をベットに優しく押し倒して、もう一度抱いてくれた。
ジンムカ様が帰るころには夜もいつもより遅くなっていて、外は真っ暗に静まり返っていた。
世話人がもつランタンの灯りが足元を照らしてくれる。
モーラス様はもう帰っており、セラも世話人が部屋に運び入れたという。
セラについて、私からは何も聞かなかった。…怖くて聞けなかった。
早くセラに会いたい。でも、会いたくない。
早く部屋に戻りたい気持ちと、戻りたくない気持ちが心の中でぐるぐるしていて気持ちが悪い。
部屋につくと、世話人が鍵をはずして扉を開いてくれる。中の様子は暗くてよく見えないけれど、正面の真ん中に寝ているのがセラだと思う。
世話人は「しっかり休め」と言って私を中に入れ、扉を閉める。
夜にお仕事があった子は扉を開けた正面の場所で寝ることになっているけれど、12才の子は部屋の右の端のところが寝るスペースになっている。
夜はいつも真っ暗なので、他の子を踏まないように壁伝いにゆっくり進む。
壁際の突き当たりにたどり着いて寝転がると、隣の子が小声で話しかけてきた。
「ジュリ…大丈夫?」
この声はミルカだ。私と同じ12才の子で、髪は綺麗な赤い色、ちょっと気の強いところもあるけれど、セラのこともよく気遣ってくれる優しい子だ。
どうやら私の帰りが遅いので、心配で起きていてくれたらしい。
「大丈夫…私の相手はジンムカ様だから、優しかったわ。…セラは?」
「…運ばれてきた時に少しだけ見えたけれど、あちこち傷だらけ…気を失って帰ってきたわ…可哀相に…」
「…朝になったら…ちゃんと見てあげましょ…他の子が起きちゃうから、私達も早く寝ましょう。ミルカ、待っててくれてありがとね」
「うん…おやすみ」
「おやすみ」
おやすみをすると、ミルカはすぐに寝息をたてて寝てしまった。もしかしたら私にセラのことを伝えるために頑張って起きていてくれたのかもしれない。優しいんだから…
…セラはやっぱり気を失って帰ってきたようだ。わかっていたことだけれど、涙が溢れてきた。
みんなを起こしてしまわないよう声を殺して泣いているうちに、私はいつの間にか眠ってしまった。
次の日の朝
眠っているセラの姿を一目見て、私は膝から崩れ落ちた。
顔も腕も足も、服から出ている至る所が赤黒くなって腫れ上がっている。
それに身体のあちこちを鞭か何かで叩かれたのだろう、ミミズ腫れになり、服のあちこちが血で赤く滲んでいた。
私が丁寧に綺麗に洗った髪も、ぐしゃぐしゃになり所々が血で固まってしまっている。
こんなに酷い状態は今まで見たことがない。どうして?なにがあったの?
セラと一緒に小鹿亭に来たクルカラとオープルは、セラのあまりにひどい状態に震えて泣きだしてしまい、他の子達に抱きしめられている。
クルカラとオープルだけじゃない。他のまだ小さい子たちもつられて泣きだしてしまった。
12才の私達だってみんな青い顔をしているし、私は何も言えず身体が震えるのを止めることができないでいた。
騒ぎを聞き付けてきた世話人がセラを見て顔を顰めたあと、「ちょっと待ってろ」と言って部屋を出ていく。
そして少しして戻ってきて、こう言った。
「セラは医者に連れていく」
医者に連れていく?セラを?そう思った瞬間、私は弾けるように世話人にしがみついていた。
「だめ!!!」
「ジュリ、離しなさい。
「やだ!!」
「…オーナーが医者に連れていくように言ったんだ」
「いや!!今までは何日か寝かせたままだったじゃない!!!どうしてセラだけこんなに早く連れていこうとするの!?絶対にいや!!!!」
今まで生きてきて、こんな大声で叫んだのは初めてかもしれない。
でも、「医者に連れいていく」のだけはなんとしてでも阻止しなくちゃいけない。連れていかれたら、二度と帰ってこないのだから。
絶対にそんなことはさせない!!
「セラを連れていったら、私のお客様みんなにひどい事されたって言うから!!女の子たちみんなオーナーにも世話人にもひどい事されてるって言うから!!それで、お客様の相手はもうしない!!暴れるから!!ぜったい!!!」
…自分でももう何言ってるのかわからない。私は泣きながら駄々をこねて世話人にしがみついた。
私の今まで見たことがないほど取り乱した姿に、他の子たちは唖然としている。
世話人も心底困ったような顔をしていたが、ついに諦めたように大きくため息をついた。
「はぁ……わかった、もう一度聞いてくる。ジュリがそこまで言うなら、オーナーも恐らく聞いてくれるだろう…もう一度聞いてくるが、もしダメだった時は諦めるんだぞ」
世話人がまたオーナーの所へ確認に行ったところ、お許しがもらえたそうだ。
セラはこのまましばらくここで様子を見ることになった。
連れていかれなくて一安心だけど、セラの様態が変わるわけじゃない。
まずは昨日帰ってきてからそのままになってる身体を綺麗にしてあげないと…
セラの服を脱がせると、全身アザやミミズ腫れだらけの痛々しい姿があらわになる。
特に股からの出血がひどい。
…小鹿亭では、少量だけど必ずローションを準備してくれる。
準備してあるはずなのに、それが乾いたような跡がないということは…まだこんなに小さな身体なのに、ローションすら使ってもらえず無理やりされたんだろう…
可哀想で、悲しくて悔しくて、涙がでてきた。
私、ずっと泣いてばっかりだ…
「ジュリ、しっかりして。1番上の姉さまなんだから。私も手伝うから、セラを早く綺麗にしてあげよう?」
ミルカがそっと私の背中を撫でてくれる。そうだ、私がしっかりしなくちゃいけないんだ。
うなずいて少し息を整えて、ミルカにお礼を言った。
「…ありがとう…ミルカは腕の傷からおねがい。私は股を綺麗にしてあげたいから…」
ミルカはセラの股の周りを見て顔をしかめる。
「いいけど…さすがに水で流してからのほうがよくないかな…?」
ミルカの言う通りだとおもう。帰ってきてすぐならともかく、一晩たったせいもあって傷口から酷い臭いが漂ってくる。でも…
「ううん…こんなに傷が広いと井戸の水だと病気になっちゃいそうだし、綺麗な水はもらえないだろうから…うん、このまま舐めるわ」
「そう…気持ち悪くなったら言ってね?交代するから…」
「ふふ、ありがと。でも大丈夫よ」
ミルカと手分けして、セラの身体のあちこちにある傷を舐めて綺麗にしていく。
小鹿亭の井戸水はそのまま飲むとお腹を壊してしまうし、傷口にもよくない。
だから1度沸騰させて綺麗なお水にしないといけないけれど、身体を洗うためだけに綺麗なお水なんてもらえない。
だから普段はお客様のお相手が終わったら、誰かに舐めて綺麗にしてもらうのだ。
ただ、お仕事が終わる時間はお客様次第。
お客様の相手で夜遅くになった時はみんなもう寝ているから、遅くなった時は今のセラみたいに翌朝に舐めてもらうことになる。
私の常連さんの場合は…何故か、お相手が終わったあとに舐めて綺麗にしてくれる。
常連のお客様はみんな口を揃えたように、甘くておいしいと言うのだ。
不思議に思って新しいお客様のお相手をした後にちょっとわくわくしながら自分ですくって舐めてみたけど、ぜんぜん甘くなんかなくて騙された気分になった…他の子を綺麗にする時と同じような味だ。
セラの股、股から足、腰周り、お腹や背中、身体全体。
身体は綺麗にできたけれど、髪はどうしよう…
世話人に相談したところ、所々血が滲んでいるから少し治るまで数日待って、それから井戸水で洗わせてくれることになった。
世話人はいつも無愛想でちょっと怖いけど、結構優しいのだ。
…結局その日、セラは目を覚まさなかった。