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異世界にTS転生した僕がサキュバスクイーンになった理由  作者: 望月優志


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可愛らしいため息

お久しぶりです。書きたくない病にかかってしまい1年近く空いてしまいました。ちょこちょこ掲載を再会しようと思っています。頻度はがた落ちとなりますが…たまに覗きに来ていただけると嬉しいです!

 ふよふよ…ぷかぷか…


 浸かるにはギリギリの量しかないお湯にほんの少し浮かんでは沈み、浮かんでは沈み。


 僕の全身を温かいお湯が包み込み、心の奥まで蕩かされてしまう。


 さらさら…ふわふわ…


 風避けのおかげで優しい微風が頬を撫で、湯気を踊らせ景色を彩る。


 そんな夢見心地にまどろんでいる僕の耳に、極楽から現実へと引き戻す不愉快な大声が聞こえてきた。


「あー!!セラ!?なにしてるの!!??」

「セラ、え?え??」

「…だ、だい…じょうぶ…??」


 半目を開けながら声のした方を見てみると、クルカラは今にも入りたそうにうずうずしているし、ジュリは両手で口元を隠して頬を赤くしているし、オープルは心配そうにオロオロしている。


 …ん?いまジュリの方からヨダレをすする音が聞こえたような…気の所為か?


 …まぁ、いいや。それよりお風呂だ…そういえば何か言われたような…何してる、だったっけ?


「…ぽかぽか〜…」


 ふぃ〜〜、と大きな大きなため息をつく。極楽すぎて、もう何も喋りたくないよ…


「セラ、きもちよさそう?」

「クルカラもはいる!!」

「え!?待ってクルカラ!!セラのお湯が!!ああ!!…あぁぁ…」

「わっ!!すごいっ!!あったかい!!うごきずらーい!!」


 空気を読まずにじゃぶじゃぶと入ってくるクルカラのせいで静かだった水面に波が立ってしまい、僕の顔にバシャりとかかってしまう。


 ムカッとしたが、お風呂を目の前にしてはしゃいでしまう気持ちはわからなくもない。だが、お風呂は静かに入るものなのだ。僕は務めて冷静にクルカラに文句を言うことにした。


「…クルカラ…ゆっくり…はいって?」

「え??セラ、たのしいよ!!おゆ、すっごい!!」

「わぁ…あったかい。ふふっ。ちゃぷちゃぷ音なる!たのしいね」


 クルカラに続いてオープルまでもが侵入してきて、2人して足踏みをしてお湯で遊びはじめてしまった。


「…ふたりとも、あそばないで。ちゃぷちゃぷ、だめ」


 せっかくまったりと浸かってたのに…久しぶりのお風呂なのに…次いつ入れるかわからないのに…


 …正直に言おう。


 僕は今、ものすごくイラッとしている。


 しかし、相手はまだ子どもだ。お風呂なんて文化も知らない、入ったこともない全く未経験のまっさらな子どもなんだ。


 落ち着け…落ち着け僕!!


 僕は濡れた顔をぬぐい、寝転がっていた姿勢を起こしてクルカラに向き合う。この野生児に、お風呂は静かに入るものだと教えてやらねばならないのだ。


「みてみて!あしがね、ジャポンッてなる!へんなの!」

「きゃっ、顔までとんできた…わっ、ジャンプしずらい!なにこれ!」


 2人してこの狭い桶の中で…ジャンプまでして…せっかくのお湯が…お風呂が…冷めちゃう…


「あそんじゃ、だめ。おゆは、すわるの」

「セラもあそぼーよ!たのしいよ!」

「じゃぽじゃぽしてたのしいよ!」


 こっちが必死に冷静になって話をしようとしてるのに、テンションの上がった2人に僕の声は全く届いていない。


「セラもすわってないで!ほらっ!ばしゃーん!!」


 説得を試みている僕に、クルカラがお湯に入れた両手を勢いよく振り上げてお湯をぶちまけてくる。


 盛大にお湯をかけられた僕の中で何かがブチリとちぎれる音がした。


「………うるしゃい!!!!」


 辺りに大きな怒鳴り声とバッシャーンという大きな音が鳴り響く。


 一瞬どこから聞こえてきたのかと疑問に思ったが、次の瞬間に訪れた喉のヒリつきと両手から伝わってくるジンジンとした痛みに、自分の口から発せられた音だった事に気が付いた。


 どうやらイラつきがピークに達し、ほぼ無意識のうちに僕は両手を水面に叩きつけながら叫んでいたらしい。


 クルカラもオープルもジュリも、何が起こったのか理解ができないといった顔でポカンと口を開けたままこちらを見ている。


 ………や、やっちゃった………どうしよう!!??


 ま、まあ静かになったんだし、結果オーライ…とはならないよね…謝ったほうがいいのかな…でも僕、怒ってたし…


 そ、そうだ!このまま怒ろう!!感情のままに怒鳴ってしまったのは大人げなかったが、やってしまったことはしょうがない。怒ったことでみんな静かになったんだし、そのままお湯は静かに浸かるものだと伝えてしまおう。


 もうすっかり怒りは収まってしまったものの、とりあえず怒っているアピールのためにしかめっ面をして腕を組み、僕は内心キョドキョドしながら宣言した。


「お、お、おおゆで、あそっ、あそんじゃ、ダメ!!」

「「「………」」」


 3人ともポカーンとしたままだったが、僕は構わず続ける。


「バ、バシャバシャ、ダメ!!しずかに、あったかい…??ぽ、ぽかぽか、する!!きもちいい!!」

「「「………」」」


 ………


 お風呂は静かに温まるもの!!騒いだらいけません!!ということが言いたかったんだけど、まだ上手く話せないのがもどかしいな。


 さて。


 僕の宣言は終わったんだけど、3人ともポカーンとしたまま微動だにせずこちらを見たままだ。冬だからフリーズしてしまったのかな?


 …ごほん、仕方がないなぁ。僕がフリーズしてしまった君達を解凍してあげよう。この…だいぶぬるくなってしまったお湯でね!!


「…クルカラ、オープル、こっちきてすわるー」


 僕が2人の手を引くと2人ともやっと時が動き出したのか、困惑気味に引かれるがままに僕の両隣に来てもらい座ってもらう。


「あしのばすと、あったかいー」


 体育座りした2人の膝を軽くぺちぺちすると、ぎこちないながらに足を伸ばし始める2人。


 さっきまであれ程までにうるさかったクルカラもまるで借りてきた猫のように静かだ…怒鳴ってごめんよ…お風呂の気持ちよさを教えてあげるから許しておくれ…


 僕はちょっとした罪悪感に苛まれつつも、クルカラとオープルのお手本となるように率先して寝転がる。2人が入ってきたことでさっきよりもかさが増えたお湯に若干テンションが上がってしまったのは内緒だ。


「ふぅぅー…ねっころがると、きもちぃぃ…」


 2人も恐る恐るといった感じでゆっくりお湯に寝転がり、「ふぅー」という可愛らしいため息が両サイドから聞こえてくる。


 ふっふっふ…初めてのお風呂はさぞ気持ちよかろう…


 この桶、小さい僕達3人ならギリギリ寝転がれるくらいの大きさがあって助かった。こんなに極楽な世界を教えてあげたのだ。さっき僕が怒鳴ってしまったことも水に流してくれるに違いない…


「…ね、ねぇセラ。私も入ってみたいんだけど…」


 ………あ、ジュリのこと忘れてた。

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