撫でり撫でり
「はい。このまま身体も洗ってちょうだい」
そう言って布を渡されるが、僕一人ではお湯をかけながら布で洗うなんて力仕事はできない。
仕方なくこの前のように世話人を呼ぼうと周りを見渡すと…風避けの中に世話人がいなかった。
あれ…水浴びの時はいつもそばに居るのに…
世話人が居ない代わりなのかはわからないが、風避けの隙間からクルカラとオープルが隠れることもなく頭を突っ込んで覗いていたけど。
それはもう堂々と。
2人ともキラッキラに目を輝かせてこちらを見つめている。
なんだろう…いつもの水浴びの桶からもくもくと煙が上がっているのが珍しいのかな?
「クルカラ、オープル。せわびと、どこー?」
「世話人?しょくどうにいったよ?」
「ねーねーセラ!!なに!?それ!!お水からふわふわしたのでてる!!」
世話人は食堂に行ったらしい。熱した石を入れてきた缶みたいなのを片付けに行ったのかな…
というかクルカラはお湯に興味津々だね…僕の質問に答えてもくれなかったし。お湯が気になって気になって仕方がないという感じだ。そういえばジュリがさっき、僕はお湯に触れるのは初めてって言ってたっけ?ということは、クルカラもオープルもお湯を触ったことがないのだろうか。
…そうだ!世話人も戻ってこないし、クルカラとオープルに手伝ってもらおう。2人でならお湯をかけるのも難しくないはずだ。
「クルカラ、オープル、おゆかけるの、てつだって?」
「「おゆ??」」
「ふふっ、2人ともお湯は初めてよね。うーんと、ちょうどいい機会だからセラを手伝ってあげてくれるかしら。2人も今後お客様のお相手がある時に必要になることだから」
「はーい」
「なにするの?ジュリの身体をあらえばいいの?」
2人とも素直でいい子だな。僕としても1人じゃ出来ないのでとても助かる。
「そうよ。えっと、セラに身体を洗ってもらいたいんだけど、まだ1人でお湯をかけながら布で洗うのが難しくって。2人にはお湯をかけてもらいたいの」
「えー、セラできないの?クルカラできるよ!ほら!!」
そう言って両手で手桶を持ち、お湯をいっぱい掬ってドヤ顔をしてくるクルカラ。
ぐぬぬ…バカにされているようでムカつく…
そうだけど、そうじゃないのだ。
「…セラもできるもん。りょうてなら、いっぱいすくえる!」
「えー!ジュリできないっていってたよ?」
「できるもん!りょうてなら、できるの!」
ジュリを挟んで睨む僕とふふんと勝ち誇ったような表情をしているクルカラ。
ちゃんと説明したいんだけど、聞くのと喋るのでは勝手が大きく違う。残念ながら僕の言語能力ではまだ詳しく説明することが難しいのだ。
ぐぬぬ…
「ふふふっ、ごめんなさい。私の言い方が悪かったわ。身体を洗う時は片手で桶を持って、相手にかけながら布で擦るでしょう?でも小さいうちは水の入った桶を片手で持てないのよ。クルカラも試してみて?」
「えー??……うー!!……おもい…」
クルカラは両手で持っている桶を片手だけで持ち上げようとしたのだろう。ふんー!!と腕に力を入れていたが、どうやら早々に諦めたようだ。
「かたてはむり…おもい…」
「そうでしょう?だから2人で手伝ってくれる?」
「「はーい」」
そうして僕達年少組3人での共同作業が始まった。
「クルカラとオープルは、ふたりでおけもって、おゆ、ゆっくりかけてー」
「クルカラだけでもできるよ!」
「ちょろちょろ、すこしずつかけるの、むずかしいよ?」
「そんなのかんたんにできるもんー♪」
ええー…重いものを持って同じ姿勢を続けてるのって意外と疲れるよ??無理だと思うけどなぁ…試しにやらせてみせるか…
「…じゃあ、クルカラとオープルで、じゅんばんに、こうたいするー?」
「わかった!」
「う、うん…わかった…」
クルカラだけに任せる訳には行かないので、オロオロしていたオープルにも順番ねと声をかけておく。まぁ、すぐに2人ですることになるとは思うけどね。重いし。
「ふわふわ、あったかい!!」
「ふわふわ…どこからでてくるんだろ…へんなの…さわれないね?」
お湯がいっぱいに入った桶を持ったクルカラの顔が湯気に包まれる。オープルも湯気に興味津々で顔を近付けたり、掴もうと手を可愛らしくにぎにぎしている。
いつまでも見ていたい気もするが、僕もジュリも裸で待っているのだ。申し訳ないがお湯で楽しむのは後回しにしてもらおう。
「こっちのうでに、おゆかけてー」
「ん?わかった!…こっち…んしょ…」
多めにジョロジョロとかけられるお湯を布で掬いながら、ジュリの腕を手早く布で擦り洗いしていく。
「つぎこっちー」
「ん…わかった…!!」
両腕を洗い終えた時には既に手桶のお湯が無くなってしまっていた。急いで洗ったというのにちょっと使いすぎである。
「ふぅ…オープル、こうたい!」
「う、うん…」
「オープル、おゆ、はんぶんでいいよ?」
手桶いっぱいにお湯を掬おうとして重そうにしているオープルに僕がそう言うと、クルカラがびっくりした表情で固まった。
「…いいの??」
「うん」
「わかったぁ」
オープルが安心したような表情になる。そりゃあそうだ。重いもんね。
「…え!?ズルい!!」
「え?ええ??」
唐突にズルいと叫ぶクルカラ。困惑するオープル。
「ズルくないですー」
「ズルいもん!!」
別にズルくはないんだけど…さっき大変な思いをしたクルカラとしてはズルく感じるんだろう。
「…クルカラ、さっきおもそうだった」
「うん!!おもかった!!」
そりゃあそうだ。だから2人で持ってって言ったのに。
「チョロチョロ、すこしずつかけるの、クルカラはチョロチョロ、じゃなくって、ジョロジョロなってた。おもいと、ジョロジョロなっちゃう」
「う…だっておもかったんだもん…」
「おもいから、ふたりでもってって、ジュリいってたでしょ?」
「………」
口を尖らせてそっぽを向くクルカラ。先程1人で出来ると啖呵をきってしまったのを思い出したようだ。
「オープルおわったら、つぎふたりで、いっしょにやってみて?ね?」
「…わかった…ためしてみる…」
とりあえずは納得してくれたようだ。
オープルにチョロチョロとかけてもらいながら背中を洗い、首と顔を洗い。今度はオープルとクルカラの2人で桶を持ってお湯をかけてくれるのに合わせて前も洗い…
「2人だとおもくないね!!」
「ね!お湯いっぱいなのに!」
クルカラとオープルは新しい法則を発見したかのようにハイテンションで盛り上がりながらチョロチョロとお湯を掛けてくれる。
…のだけど、僕は何も考えないように必死に煩悩を振り払いながらジュリの前面を丁寧に撫でり撫でりと洗い、腰周りも何も考えないようにしながらも慎重に優しく洗いあげ…やりきった感が込み上げるのを堪えながら大きなため息をついて精神統一し直し、続けて急いで脚も洗っていく。
「もしかして…立ってたほうが洗いやすいかしら?」
僕があまり凝視しないように気を付けながら腰周りを洗っている時、ジュリは僕が洗いづらそうにしていると思ったのか、スっと立ち上がってくれたのだ。
そのためジュリの綺麗な股間が、膝立ちになっている僕のすぐ目の前に…
おかげで最大の難関を撫で洗い終えた所で一息ついて気を抜いてしまった場合、ジュリのダイナマイトで淫妖なお腰様から僕の精神への致命的なダイレクトアタックをもらう危険性があった。
一時たりとも気の抜けない戦いがそこにはあるのだ。
「はい、セラ。こうすれば洗いやすいでしょう?」
ジュリが右足を持ち上げて、濡れてテラテラと光る内太ももを見せつけてくる。
思わずゴクリと生唾を飲み込んでしまう。
…いやいや、見せつけてきてる訳じゃないだろう。ジュリは僕が洗いやすいように足を上げてくれたんだ…
ジュリの足を手に取り、チョロチョロと注がれるお湯に合わせてふくらはぎを、足の甲を、足の裏を。丁寧に丁寧に洗っていく。
「ふふふっ…じゃあ、次は反対ね」
僕の手から離れてしまう右足の感覚に名残惜しさを感じたけれど、代わりに持ち上げられた左足を見てそんな気持ちは一瞬にして消える。
ジュリの左足を手に取ろうとして、足の付け根からつーっと糸を引いて雫が垂れていくのが見えた気がして、僕の心臓が痛い程にドクンドクンと大きく脈打つ。
…僕は何も見てない…身体を洗ってるだけ…身体を洗ってるだけなんだから…
…なんだか無性に喉が渇く…身体も熱いし…頭もクラクラする…
できる限り心を無にして左足を丁寧に洗い終えた頃には、僕はだいぶ息があがっていた。
もしかして久々にお湯で身体を洗ってもらったから、のぼせ気味になってしまったのかもしれない…
「お、おしまい!!」
※タイトルや本文に「撫でり撫でり」という言葉が出てきますが、誤字ではなくわざと書いてます。撫で撫で…ではちょっと違うし、ただ洗っているだけでもないし…撫でり撫でり…かな…と。造語ってやつですね。




